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7/1/2025, 7:13:54 AM

光が窓辺に触れるとき、
青いカーテンが息をする。
朝の吐息は、
金色の塵を巻き上げて、
部屋の隅々まで夢の残骸を運ぶ。

風が囁くたび、
生地は柔らかい波を描き、
その向こうにある世界の音を、
遠い海の歌のように届ける。

クラクションは潮騒に、
子供たちの笑い声は水面に弾ける光に変わる。

この一枚の布が、
私の世界と、
外の世界を分かつ。
けれどそれは壁ではない。
薄いヴェールだ。

指先でそっと触れれば、
織り込まれた糸の記憶が蘇る。
父の手のぬくもり、
母の優しい歌声。

それはただの布ではない。
家族の想いが織りなす、
古く、そして新しい物語。

夕暮れ、
光が燃え尽きるころ、
青は紫の深淵に沈み、
カーテンは夜の帳を降ろす。

そして、外の世界が眠りにつくとき、
カーテンは静かに、
私の心を守る。
明日、また光が訪れるまで、
柔らかな影の中で、
私は私自身になる。

このカーテンは、
私の呼吸、
私の鼓動。

そして、
私がまだ知らない、
世界の始まりの扉。

6/30/2025, 8:24:33 AM

青く、深く、
世界が眠る場所で
ぼくは君を、見つけた。

波は声をなくし
光は色を忘れて
それでも君の瞳だけが
青の奥に、揺れていた。

誰も触れられない深さで
誰も届かない静けさで
ふたりだけ、息をする。

言葉は落ちて、泡になる。
想いは沈んで、歌になる。

君が手をのばすたびに
ぼくの鼓動は
遠い光のように
揺れて消える。

青く、深く、
それは
さよならさえも
響かない場所。

6/29/2025, 7:54:56 AM

六月の終わり、夕暮れ時の風が少しだけ湿り気を帯びていた。
公園のベンチに座り、氷の溶けかけたアイスティーを手に、ぼんやりと空を見上げた。

どこかでセミが鳴いた気がした。けれど、それは気のせいかもしれない。
まだ夏には早い。でも、確かに何かが変わり始めている。

隣の席に、去年の夏に亡くなった祖母の面影をふと思い出した。
「この風が吹くとね、梅雨が終わるんだよ」
毎年そんなことを言っていた祖母の声が、風に混じって聞こえた気がした。

スマホの画面には、友人たちの楽しげな予定が並ぶ。
海、祭り、花火。みんなが待ちわびる夏。
けれど紗月にとって、夏は少し寂しい季節になった。

それでも 風の中に、あの人の記憶がまだ生きている気がして、そっと目を閉じた。
草の匂い、遠くで聞こえる子どもたちの笑い声、どこからか漂う線香花火のような甘い香り。

ああ、夏が来る。
やさしく、静かに、それはやってくる。

そしてまた、誰かの記憶と、新しい時間を連れてくるのだ。