六月の終わり、夕暮れ時の風が少しだけ湿り気を帯びていた。
公園のベンチに座り、氷の溶けかけたアイスティーを手に、ぼんやりと空を見上げた。
どこかでセミが鳴いた気がした。けれど、それは気のせいかもしれない。
まだ夏には早い。でも、確かに何かが変わり始めている。
隣の席に、去年の夏に亡くなった祖母の面影をふと思い出した。
「この風が吹くとね、梅雨が終わるんだよ」
毎年そんなことを言っていた祖母の声が、風に混じって聞こえた気がした。
スマホの画面には、友人たちの楽しげな予定が並ぶ。
海、祭り、花火。みんなが待ちわびる夏。
けれど紗月にとって、夏は少し寂しい季節になった。
それでも 風の中に、あの人の記憶がまだ生きている気がして、そっと目を閉じた。
草の匂い、遠くで聞こえる子どもたちの笑い声、どこからか漂う線香花火のような甘い香り。
ああ、夏が来る。
やさしく、静かに、それはやってくる。
そしてまた、誰かの記憶と、新しい時間を連れてくるのだ。
6/29/2025, 7:54:56 AM