『とある彼女』
彼女はいつも、夏に麦わら帽子を被っていた。
笑顔がとても素敵で、あの、白いワンピースと向日葵が似合う女性だった。
その人が、この世の人ではないのだと気付いたのは、知り合ってから少し経った頃だった。
「そういえば、ユリさんってどこらへんに住んでるんですか?」
「んー、今はもう無いけれど…向こうの方よ」
「今はもう無い?」
「そう。私、貴方と普通に話しているけど、言ってなかったことがあるのよね」
「なんですか?」
「私、……約、20年前に死んだの。
結構ニュースになってたんだけど、まだ君は生まれてないかもね」
彼女が言うのは20年前の、一家殺人についてだった。父、母、三人の子供が就寝中に殺された、無差別殺人。その被害者だと言う。
「…………そんな」
僕は正直、彼女に恋をしていた。だからショックだった。居ない人だとは思わなかった。
お題:《麦わら帽子》
『花』
小鳥のさえずり、涼やかに吹く風。
森のなかは今日も、穏やかで平和な日を迎えていた。
「マリア~、待ってえ~」
ふわふわしたボブカットで、ピンク色の髪のサリが言う。天然で性格もふわふわしている。
「もう、サリったら。
早くーっ!置いてっちゃうわよ!」
元気一杯に走り回り、活発なマリア。
オレンジ色の髪を1つに結び、揺らしている。
「マリア、サリ、まだ時間はあるしゆっくり行こう」
いつでも冷静で、二人をほどよく引き合わせるシーナ。艶々としたストレートで、淡い水色の髪色をしている。
「シーナが言うなら仕方がないかぁ。
サリ、疲れたらあたしがおんぶしてくよ!」
「え?!それは悪いよ~。頑張って歩く!
…でも私のせいで歩くのも遅くなってるんだものね」
「全然気にしない気にしない!
あたしとサリじゃ、体力もちがうんだし!
サリはサリで、いつも助けてくれるでしょ?
あたしは虫の声も、お花の声も聞こえないもん」
「そうだよ。サリはいつもそれで私たちを助けてくれるし。だからいつも森のなかを歩き回っても帰れるんだしね」
「えへへ、ありがと~」
私たちは花の妖精。
お題:《蝶よ、花よ》
『運命』
やっと分かる。今さら、気付く。
この結末は最初から決まっていたことなんだって。どんなに抗ったって、どんなに足掻いたって、どんなに繰り返したって。
貴方は、
私の代わりに、
死んでしまう運命なんだって。
どうしてもこの運命しかないの?
どうして貴方が、私の代わりに死ななくてはならないの?どうして私が死ぬのではダメなの?
お題:《最初から決まってた》
『お互いが』
貴方は血の赤で、私は太陽の赤。
そう言われることが多かったわね。
でも、私が太陽なら貴方を照らすことが出来る。
自分に流れている血が太陽にかざせば見えるように。
いつだって貴方の光になれるわ。
いつも貴方を照らすことが出来る。
お題:《太陽》
『種族』
ゴーン…ゴーン…
この街の鐘は、いつも決まった時間に鳴る。
夜の12時と、明け方の4時。
変だと思うだろう。
皆が寝ている夜の12時と、まだ起きている人が少ない明け方の4時。
それも仕方がないのだ。
夜は、僕たち人間の時間じゃない。
夜は、僕たち以外のモンスターたちの夜だ。
夜の間はよっぽどのことがない限り外出禁止。
夜に外出て死んだとしても問題にはならない。
そうすることで、僕たちはモンスターたちと共存している。
お題:《鐘の音》