僕は今日も紙飛行機に文字をつらねる。
いつもこれを拾ってくれる君のために。
『僕はもうそろそろ死にます。』
自分で描いていても何も感じない。
『だからこの手紙が最後になります。』
…
『君にはいろいろと感謝してるよ。君のおかげで残りわずかな人生を楽しめた。』
『名前も年齢も性別も分からないけど、』
『話したことすらないけど、』
僕は書く手をとめて病院の窓を見つめる。
『今まで支えてくれてありがとう。』
「少し、照れくさいや」
僕はつぶやいた。
『来世で友達になってほしい。』
そう書いてから鉛筆を置く。
丁寧に紙飛行機を折って窓から空へと飛ばした。
「結構飛ぶようになったなぁ」
けどこんなものじゃ足りない。
もっともっと遠くの空へ届くように。
遠くの空へより。
ものすごく変な気持ちだ。
君は「一緒に死のう」って言ってくれた。
僕はそれが嬉しくて、一緒に学校の屋上から飛び降りた。
飛び降りる前の君の表情は本当に幸せそうだった。
きっと君の唯一の幸せがそれだったんだ。
あの時の判断が正しかったのかは分からない。
「目が覚めましたか?」
頭の上で声が聞こえる。
「…はい…」
「意識が朦朧としているみたいですね…」
多分医者だ。
「死んだはずなのにどうして病院に…?」
僕は素直な疑問を彼に投げかけた。
「運が良かったですよ…あなたは打ちどころが良く、生きれたんです。」
…
…?
運が良かった…?
僕は勢いよく起き上がった。
身体中の激痛なんて関係なかった。
「もう一人の女の子は!?小春は!?」
「女の子は…残念ながら…」
息ができない。
汗が吹き出してくるのが分かる。
後悔と怒りを全て吐き出そうとしても、言葉が出てこない。
いや…言葉にできない…というのが正しい表現なんだろう。
叫ぶしかなかった。
言葉にできないより。
「綺麗だね」
私は彼女に語りかける。
「…」
返事はない。
桜が舞い散る今日。
太陽が顔を出し、笑っているみたいに暖かく包み込んでくれる。
「ほら私達が出会った時もこれくらい綺麗な桜が咲いてたよね」
私はまた彼女に笑いかける。
また返事はない。
冷たくなってきた。
「こんなにも暖かい光に包まれているのに…冷たいんだね。」
当たり前だ。
生温かい感触が肌をつたっている。
鮮血が花に零れ落ちていく。
後悔はしていない。
「来年も一緒にまた桜を見よう。」
目を閉じて頬を指でなぞった。
彼女はぴくりとも動かない。
春爛漫より。