お題:命が燃え尽きるまで
※このお話はフィクションです。実在する個人、団体とは一切関係ありません。
【注意】
作者が天体観測の知識ゼロなので、自分の中でのふんわりとした印象のまま特に調べもせずに書いています。おかしな所があるかもしれませんがご容赦ください。
◇ ◇ ◇
命が燃え尽きるまで、あと二十五分。比喩なんかじゃなく、本当のことだ。
僕の───否、“僕達の”命はあと二十五分で尽きると想定されている。
突然すぎる話だけれど、僕達が今住んでいる惑星、“地球”には巨大な隕石が向かってきているらしい。そして、ついさっき隕石が地球に衝突するまであと三十分だと発表され、人々は混乱に陥っていた。
日が傾き始め、街には橙が差している。きっと、人々はこのまま夜を迎えることなく、誰もが黄昏時に永遠の眠りにつくのだろう。それは僕も例外ではなく、本来ならもっと焦るべきなのだろうが、自分でもおかしいと思う程に冷静だった。
そんな僕は今、自分の母校である中学校の屋上に侵入し、人生最後の夕焼けをじっと眺め、目に焼き付けていた。
今日は高校で同じ天文学部に入っている、中学時代からの同級生と天体観測をする予定だったのだが、おそらく彼女は来ない。この地球はあとほんの数十分で終わるのだ。だから、別に今ドタキャンをされようと困ることは無いし、何ならドタキャンと言えるのかどうかも分からなかった。
スマホのデジタル時計は、隕石が衝突すると発表された時間から五分進んでいて、僕達が自由に生きられる時間は段々と減っている。
そういえば、と観たい映画があったことを今思い出した。週末に観るつもりだったのだが、こうなってしまえば観ることはできない。それだけは少々心残りかもしれない。
なんて考えていると、立ち入り禁止の屋上の扉が開いた。扉の方向を振り向くと、そこには天体観測をしようと約束していた友達が居た。肩で息をしているので、大急ぎでここに来たことが伺える。
「ごめん……待ったよね」
別に待っていない。夜が来る前に僕達は死ぬから、天体観測をするということはもう出来ないから、約束も無かったことになる。それに、彼女には病弱な妹が居たはずだ。僕は、彼女はずっとその妹の看病をしながら一生を終わらせるつもりなんだろうと思っていたのだが、違ったようだ。
「妹は? 妹が病弱なんじゃなかったっけ」
僕がそう問いかけると、彼女は首を縦に振った。じゃあどうして、と聞く前に彼女からここに来た理由が話された。
「最後まで姉として居るのが何だか嫌で抜け出してきちゃった」
「……あと、最期は私が一番好きなことをしながら終わりたいと思ってさ」
そう話していた彼女をよく見てみると、天体観測に必要な道具を一式持ってきているようで、本当に天体観測をするつもりのようだった。
「今日の日の入りの予報が今から約二十分後なの。予報通りなら、少しくらい見えると思って」
彼女はそう話しながら荷物を下ろして天体観測の準備を進めていた。しかし、僕はもう天体観測は出来ないし彼女もここに来ないものだと思っていたから、天体観測に必要な道具はひとつも持ってきていなかった。
僕がそのことを話すと、彼女は笑いながら「そうだと思った」と言い、続いて「それでもいいよ」と言った。だから、僕は天体観測の準備をしている彼女の隣にそっと座り、夕焼けを眺めた。
◇ ◇ ◇
隕石衝突まで、あと五分。
僕達二人は、立ち入り禁止な中学校の屋上にこっそり忍び込み、人生最後の天体観測をしようとしている。さっきまでは、日が沈むのを待ちながら、彼女の持ってきていた菓子を時々つまんで雑談をしていた。
そして、今日は予報通りに日の入りしたらしく、どこかの日の入りの瞬間をライブカメラで見ていたらしい彼女は徐に立ち上がった。そこで、僕が密かに抱いていた疑問を彼女に問いかけた。
「日の入りした直後にすぐ天体観測って出来るものなんだっけ?」
僕がそう言うと、彼女は硬直した。おそらくそこまで把握していなかったのだろう。そんなことあるのか、なんて思いながら僕は立ち上がって空を眺めた。
「まあ、今くらいの時間帯の空も綺麗だよね」
フォローするような僕の言葉に、彼女は必死に頷いた。あまりにも必死で僕は少し笑ってしまったのだけれど。
結局、天体観測は出来そうにないなということで、僕達は菓子をつまんで雑談をし、空を見ながら終わるということになった。ちなみに、彼女が言うにはこれも立派な天体観測らしい。
スマホで表示しているデジタル時計の時刻が少しずつ進む。それと一緒に僕達の時間も少しずつ減っていて、終わりの時間も少しずつ迫ってきている。
ついに、あと一分になって、空も先程と比べると随分暗くなっていた。
その時、隣に居た彼女が声を上げながら空を指さした。その方向を僕が見ると、そこにはひとつの星が空に浮かび上がっていた。それが彼女にはとても嬉しかったようで、興奮気味に僕に話しかけてくる。
「うん」
僕は頷いて、空に浮かび上がっている一つの星を見つめながら、これが人生最後に見る星なんだな、と考えていた。
すると、突然空が明るくなり、星は見えなくなってしまった。おそらく、隕石がやって来たのだろう。終わるのは案外早いな、と思いながら、僕は屋上の冷たい床に横たわった。命が尽きる前に自分から眠ろうと思ったからだ。彼女が僕のことを心配そうに見つめているのを視界の端で捉えたけれど、おそらくもう目覚めることは無いので心配する必要も無いだろう。
◇ ◇ ◇
全てが終わった世界。人々が最後に見上げた、日が沈んだばかりの空には、一点の星が浮かんでいたんだとか。
──終──
お題:言葉はいらない、ただ・・
◇ ◇ ◇
抱きしめてほしい。今すぐに。
涙が頬を伝ってフローリングの床にぽたりと落ちた。
◇ ◇ ◇
今日は私の誕生日で、恋人が一緒にデートをしようと誘ってきてくれた。もしかしたら私が生まれた日を祝ってくれるのかな、なんて浮かれながらデートで着る服を選んでいると、突然私のスマホが着信を告げた。なんだろうと思いスマホを開くと、私が愛してやまない恋人からのメールだった。どうしてと疑問に思い、ふと最悪な想像をしてしまって嫌な汗が流れた。そんな訳ないだろうと思い私はメールを開いた。が、最悪な想像は実現してしまった。
『ごめん、さっきお母さんが事故に遭ったらしくて、これから病院に行くことになっちゃった。今日のデート、また今度でもいい?』
「今度? 今度っていつ?」
メールの文面を見た私の第一声はそれだった。我ながら面倒くさい女だと思った。
でも、せめてメールでは平静を装うべきだと思い、私はすぐに『大丈夫だよ』とだけ返信し、すぐにスマホを閉じた。
お母さんが事故に遭ってしまったのは仕方の無いことだし、病院に行くのも当然だ。それに、こうやってデートが別の日になったことも何回かある。それなのに、今日はとても悲しかった。そんなに自分の誕生日が大切だったのかと自分でも驚きだった。
デートの予定にもあった、お昼に行くつもりだったお店の予約は向こうがキャンセルしたらしいけど、私はお昼のことなど全く考えずに先程まで選んでいた、デートに着る予定だった洋服達を全部放り投げ、近くの椅子に座ってテーブルに突っ伏した。
◇ ◇ ◇
私は、その日放課後の教室でぼーっとしていた。その日は高校の入学式で、見慣れない顔と見慣れない教室で私は新学期を迎えた。
何故か行く気にならなかった友達からの遊びの誘いを断り、今こうして教室でただぼんやりと空を見つめている。
すると、ふと教室の扉が開いた。先生かと私は身構えたけど、教室に入ってきたのは元クラスメイト兼今の私の恋人だった。2年生になった今ではクラスは離れているけど。
「あ、ごめんなさい。ちょっと忘れ物しちゃって……」
「いいよ、敬語じゃなくても。クラスメイトなんだし」
「えっ……」
私の言葉に彼は一瞬驚いていたけど、私を見ながら「うん」と頷いて彼はおそらく彼が座っている席であろう席に向かい机の中を漁り始めた。
少しして、彼はペンケースを取り出すと鞄の中にしまい、扉の前まで進むと私の方に振り返った。
「名前何ですか……じゃなくて、名前なに?」
「私の?」
「そう、皆の名前早く覚えたくて。今日は7人も覚えた」
彼はそう言いながら何故か自慢げに指を7本立てた。私はその自信満々な表情に吹き出しそうになったけど、笑いを堪えて自分の名前を告げた。
「そっか。これで8人目だ」
私が名前を告げると、彼は嬉しそうにふわりと微笑みながらそう言い、その後に彼自身の名前も告げた。
◇ ◇ ◇
「うぅ……」
どれ程時間が経ったのかは分からない。私は、彼との出会いであり、私が彼に惚れた日のことをふと思い出していた。あの時は私の名前を知って幸せそうに微笑む彼を見て、私まで幸せな気持ちになった。でも、今は何故かその思い出が苦しい。今だけは彼に関する物事全てを忘れてしまいたい気分だった。
気分が沈んだまま、私はキッチンに向かった。お昼は何も口にしておらず、せめて何かは食べようと思ったからだ。
【ピンポーン】
突然チャイムが聞こえ、私は扉を開いた。
そこには、私が今1番会いたくて、今1番会いたくなかった最愛の人が居た。
「なんか……思ったよりもお母さんが元気で、早く帰ることになったから来ちゃった」
「あ……うん。中入っていいよ」
私が彼を中に入れると、彼がソファに座ったので、私は彼の座っている反対側に置いてあるソファに座った。
「ごめんね、せっかくの誕生日だったのにデート台無しにしちゃって……」
「いいんだよ、事故なら仕方ないし」
いつもなら永遠に続くかのような勢いの彼との会話が、今日は何だかぎこちない。
私がそう思っていると、突然彼が両腕を広げた。何だろうと首を傾げると、彼が突然必死に説明をする。
「あ、こ、これは僕が寂しくて……。ハグしてもいい……?」
その言葉を聞いて、私は涙が出そうになりながらも彼にそっとハグをした。彼は少し驚きつつも私を抱きしめ返してくれた。
今は彼からの好きも愛してるもいらない。ただ、抱きしめてくれる、それだけでいい。
最愛の人は、私が今1番求めているものを、私にくれた。
少しして、名残惜しいけれど私は彼の腕の中から離れた。すると、彼が口を開く。
「誕生日おめでとう。僕、頼りないかもしれないけど……。これからもよろしくね」
「……うん」
……やっぱり、言葉もちょっとは欲しいかもしれない。
◇ ◇ ◇
お題:突然の君の訪問
◇ ◇ ◇
真昼間、突然来客を告げるチャイム。今日は宅配便が来る予定は無いので、どうせ大した用事でもないのだろうと私は居留守をしようとした。
【ピンポーン ピンポーン……】
しかし、私が居ることに気付いているのか、相手は誰かが出てくるまでチャイムを鳴らし続けるつもりなのか、帰る気配は全く無い。友達ならずっと外で待たせるのも悪いな、と思い私はチャイムに応答するように玄関の扉を開けた。そこに居たのは、友達でも謎の商品を押し付けてくるようなセールスマンでもない、ただ一人の人。友達と言うには流石に距離が遠すぎて、赤の他人と言うには距離が近い。
「久しぶり……。会いたくなって来ちゃった」
そう、私の元彼だ。元彼は少し居心地が悪そうに頬を掻きながらそう言い放った。
信じられない。彼とはきっぱり別れたというのに。それに、別れ話を振ってきたのはあちらからだった。私は一度彼の頭からつま先までをじっと見つめ、その後すぐに「あ、コイツは家に入れちゃダメだ」と感じて扉を勢いよく閉めた。
「え、待って、入れて! せめて一言喋ってよ!」
黙れ。お前と話すことはもうない。一言喋るとするならその私の一言は「もう私と関わらないで」だ。
「もう私と関わらないで」
私がそう言い放つと、彼は扉越しでもわかりやすいくらいにショックを受けているようで、「え……」と口に出していた。そんなにショックなのか。そもそも別れようと言い出したのは元彼の方で、その時の私は何なら別れたくないと思っていたのだが、彼の表情が少し辛そうで思わず了承した。
「……ごめん、やっぱりそうだよね。本当にごめんね」
彼はそう言い残して去って行ったようで、微かに彼の足跡が聞こえた。その後、本当に帰ったか一度確認して、私は布団に潜り眠りに落ちた。
◇ ◇ ◇
夕方。ふと目が覚めた私は、布団の横に置いておいたスマホで時間を確認して少し焦った。私は随分長い間昼寝をしていたようだった。
それと同時にメールが一件送られていることに気付き、私はメールをタップして画面を開いた。
『家行ってもいい?』
仲の良い女友達からで、送られてきたのは今から十分前と送られてきたばかりのようだった。返信を見ないで来るんだろうなと思いながら、私は『いいよ』と返信してメールを閉じた。部屋の中が客を迎えるには汚いので軽く片付けと掃除をして友達を待った。
数分後、昼に聞いたばかりのチャイムが鳴り響き、私はすぐに扉を開けた。そこには友達が居り、片手にはビニール袋を持っている。おそらく来る途中にコンビニかスーパーで買い物をしたのだろう。
「やっほ〜。コンビニの新作スイーツ買ってきたから食べない?」
「じゃあお茶出すね。というか聞いて、私の元彼がさ……」
◇ ◇ ◇