サツキ-Satsuki azalea-

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お題:突然の君の訪問



◇ ◇ ◇

 真昼間、突然来客を告げるチャイム。今日は宅配便が来る予定は無いので、どうせ大した用事でもないのだろうと私は居留守をしようとした。
【ピンポーン ピンポーン……】
 しかし、私が居ることに気付いているのか、相手は誰かが出てくるまでチャイムを鳴らし続けるつもりなのか、帰る気配は全く無い。友達ならずっと外で待たせるのも悪いな、と思い私はチャイムに応答するように玄関の扉を開けた。そこに居たのは、友達でも謎の商品を押し付けてくるようなセールスマンでもない、ただ一人の人。友達と言うには流石に距離が遠すぎて、赤の他人と言うには距離が近い。
「久しぶり……。会いたくなって来ちゃった」
 そう、私の元彼だ。元彼は少し居心地が悪そうに頬を掻きながらそう言い放った。
 信じられない。彼とはきっぱり別れたというのに。それに、別れ話を振ってきたのはあちらからだった。私は一度彼の頭からつま先までをじっと見つめ、その後すぐに「あ、コイツは家に入れちゃダメだ」と感じて扉を勢いよく閉めた。
「え、待って、入れて! せめて一言喋ってよ!」
 黙れ。お前と話すことはもうない。一言喋るとするならその私の一言は「もう私と関わらないで」だ。
「もう私と関わらないで」
 私がそう言い放つと、彼は扉越しでもわかりやすいくらいにショックを受けているようで、「え……」と口に出していた。そんなにショックなのか。そもそも別れようと言い出したのは元彼の方で、その時の私は何なら別れたくないと思っていたのだが、彼の表情が少し辛そうで思わず了承した。
「……ごめん、やっぱりそうだよね。本当にごめんね」
 彼はそう言い残して去って行ったようで、微かに彼の足跡が聞こえた。その後、本当に帰ったか一度確認して、私は布団に潜り眠りに落ちた。

◇ ◇ ◇

 夕方。ふと目が覚めた私は、布団の横に置いておいたスマホで時間を確認して少し焦った。私は随分長い間昼寝をしていたようだった。
 それと同時にメールが一件送られていることに気付き、私はメールをタップして画面を開いた。
『家行ってもいい?』
 仲の良い女友達からで、送られてきたのは今から十分前と送られてきたばかりのようだった。返信を見ないで来るんだろうなと思いながら、私は『いいよ』と返信してメールを閉じた。部屋の中が客を迎えるには汚いので軽く片付けと掃除をして友達を待った。
 数分後、昼に聞いたばかりのチャイムが鳴り響き、私はすぐに扉を開けた。そこには友達が居り、片手にはビニール袋を持っている。おそらく来る途中にコンビニかスーパーで買い物をしたのだろう。
「やっほ〜。コンビニの新作スイーツ買ってきたから食べない?」
「じゃあお茶出すね。というか聞いて、私の元彼がさ……」

◇ ◇ ◇

8/28/2024, 12:47:50 PM