病室
「ん〜……なんで俺らが医学研修行かなきゃいけないんすかねー……」
「おい愚痴をこぼすな。人手不足なんだから仕方がないだろ」
「なんも知らないど素人っすよ俺」
「みんなそうだよ。素人の俺らは大したこと任されないから大丈夫だ。というかなんでそんな後輩のような口の利き方なんだお前」
「なんとなく?ていうかヤバくね俺。似合ってね?医療服」
「はいはい。気が済んだら静かにしろ」
「へーい」
院長からの説明を聞いた後
「病室にいる子どもの世話か……いいな」
「健も子ども好きなのか?」
「膨らみがないって最高だと思わないか」
「お前捕まったほうが良いと思うぞ」
「あ、ここじゃん。入っていいよな?」
「いいと思うぞ」
「こんにちはーお邪魔しまーす」
「こんにちは。今日はよろしくね」
「よろしくー」
「なあ兼平〜子どもってこんなにいたずらするもんなの?」
「甜められてるんだろ」
「あマジ?俺勝手に自惚れてただけ?だからこんなに落書きされんの?」
「そうだな」
「兼平の方さ、女の子多くね?ずるくね?ねえ君、俺どう思う?」
「心底軽蔑した目で見ているぞこの子」
「正直な子は好きだぜ」
「じゃあこのまん丸どう思う?」
「まん丸はやめろ。普通に太ってる奴って言え……ええ?結婚?俺よりかっこいい人なんぞたくさんいるぞー」
「あれ俺人として負けてる?」
「ずっと前から」
「やべーじゃん」
業務終了
「良い評価貰えてよかったな」
「こんなふざけた顔でもいいって中々良心的な病院じゃね」
「完全に動揺はしていたけどな。お前の顔見て」
「というか兼平結婚するのか。悲しいぞ」
「しねえよ俺今17だぞ」
明日、もし晴れたら
君と海へ行きたいな
そこで一杯遊ぼう!
泳ぐの好き?僕も!
そこでご飯も食べて
思い出に残そうよ!
海よりも君のほうが
ずっと綺麗だからね
見惚れて溺れるかも
……なんちゃって!
助けてくれるの!?
ありがと!大好き!
【明日、もし晴れたら】
だから、一人でいたい。
「ぬ、額狩さん……」
「いいのよ。無理に話しかけようなんて思わないで」
「そんなつもりは、」
「一人じゃないと、壊れそうなの」
「こわ、れる?」
「……友好的に接してくれている、あなただから話すわね。……わたし、家族がいないの」
「っ、そう……なんですね……」
「そう。全員、わたしが高校に行っている間に心中していた」
「し……」
「同じ部屋でみんなでてるてる坊主の様になっていたの。それだけでも辛かった」
「……もっと辛かったのは、恋人の最期。あんなに優しい人、会ったことなかった」
「はい……」
「神様は優しい人ほど先に連れて行ってしまうのよ。彼は病気で逝ってしまった」
「まるで死神よ。わたし」
「!……そんなこと」
「邨松さん、……わがままを言うわ。あなたはわたしと関わらないで欲しい。たくさん生きていて欲しい」
「わたしの大切な人がいなくなるのは、もう、耐えられない……」
「だから、一人でいたい。お願い……」
【澄んだ瞳】
「……何ジロジロ見てんだよ」
視線がうるさいと思えるほどに凝視されていたので、思わずこちらから話をふっかけてしまった。
「いや?別に深い意味はないんすけど。柘榴さんって目ぇキレーっすよねーって感じで見てました」
なんだコイツ。
「当たり前だろ。神に愛されたとでも思ってもらおうか」
当たり前のこと言うなボケナスが。俺は左右で瞳の色が違って、左が昼の間全てを支配するような空。右が夜の間あらゆるものを把握する夜空。医学的観点から言えば虹彩異色症という生まれつきのものらしい。まったく、顔も良くてアクセントがあるなんて、どんなえこひいきだってんだ神様?
「うわーー出たぁー。柘榴さんの自信過剰〜」
「は?処刑処刑」
「いやわたしに死刑執行したら執行人減りますよ!?ヤバー!馬鹿じゃん」
「確定。お前は死罪」
「ふぁ〜w」
うざい。マジでうざい。……だが、その細めた目元から見える朱色。
その強く、しかしどこか透き通ったような色。
俺より綺麗な色をしていること、認めたくなかった。
「嵐が来ようとも、僕はキミを守るよ」
「?」
「……ごめっ、い、言ってみただけだから……忘れて……ホシイデス…………」
「忘れないよ」
「あの、椋ちゃん、これだけは忘れて欲しい…………」
「嵐が来ようとも守ってくれるんでしょ。王子様」
「へっ!?」
「あれ?プロポーズじゃないの?」
「……はい。……も、もう一回いいですか…………」
「えー。我が子にパパのプロポーズはこうだったよ〜って言いたいのに」
「は、恥ずかしいっ!!?!?!お、お願い椋ちゃん……」
「ハハハハハ」
「ちょっと〜!?」