もしもタイムマシンがあったら!
材徳ひめ「えー!!!夢ある〜!!!そうだなあ〜……うーむ…………あ!!!2023年に流行ったらしいサカバンバスピスが見たい!!!!!え!そうだよね!?40年前って2023年だよね!?!?」
神火いろり「別に。売る」
竹叢小町「そうだなー。植物の起源。それをこの目で見てみたいかも」
白砂蘭「タイムマシン?多分その場で突然あったら怪しむな。戻るんだったら平安時代かな、となんとなく思った」
笛吹もみじ「うーん。興味ないかも〜……考えるのは今だけでよくない?」
紡糸絹「タイムマシン?もしもというか作れるよ。この時代。縄文、弥生あたりを見たいかな」
「桃弓、明日誕生日だったよな。おめでとう。欲しいものはなにかあるか?」
その言葉で明日は自分の誕生日だと言うことを思い出した。もう少しで成人するという年齢なのに……自らの記憶力が心配で仕方がない。
「ああ、うん。ありがとう。欲しいものか……」
正直に言うとそんなにない……物欲はない方だと自他ともに認められるレベルなんだよ、俺さ……
ただ、物ではないけど欲しい人が目の前にいるって言ったら……ビビるよな、やめようやめよう。いや、だって今まで出会ったことのないくらいに一緒にいると心地よくて、楽しいからさ。欲しいと思ってしまうのは当然だろ。ずっと傍にいたいのも当然だ。いつか言えたらいいのにな、
「おい」
「あっ、ごめん鬼若。中々思い付かなくて黙り込んじゃって……」
長い沈黙は流石に彼でも怒らずにはいられないようで……非常に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「…………」
「本当にごめん。……人からも物欲がなさすぎるとかなんとか言われまくってて。こういうことがあるから直そうとは思ってるんだけど」
「違う…………」
「え」
な、なにが……?
「あの、なんのこと」
「桃ちゃん!!!俺さ!第三者目線から聞いちゃったよさっきの桃ちゃんの独り言!!!!一番欲しい物のこと聞かれて告白なんて大胆すぎない!?」
「な、何言ってるんだ犬山……!?俺はなにも……なあ、鬼若」
「…………おま、心の声全部漏れてんだよ…………」
馬鹿正直に全部言いやがって、などと伝えられたときに、あそこで思っていたことが全て口に出されていたということに戦慄した。や、やばい。鬼若顔覆ってるし完全に引かれてる……!!!
「あっ、えっ、ええと、急に変なこと言ってごめん……気にしないでほしい」
「…………」
「お、鬼若……」
「……桃弓は嘘をつかないことを、俺はよく知っている。さっきのは、本心からの独り言だよな」
「……うん、心からの」
「言わせてしまうようで悪いが、もう一度だけ、俺に言ってくれないか」
「……え、鬼若、それって」
「一番欲しいんだろ?俺が。そんな光栄なことを、独り言で済ませてほしくない。聞きたい。お願いだ、俺に直接言ってくれないか……」
夕暮れ時である今であっても分かるくらいに、真っ直ぐ俺を見てくれている鬼若の顔が赤く染まっていることを、この目で確認した。
「好き。本当に、鬼若のことが大好きなんだ。俺と、ずっと一緒にいてくれないか」
口は勝手に動いていた。こんなこと俺が言っているのかと自分自身に驚いていた。
「……ハハ、俺もだよ……大好きだ、桃弓」
ずっと思ってた。鬼若は、優しくて安心する声だと。
今日気付いた。こんなにも、温かくて、全てを包んでくれそうな声をしていたことを。
誕生日前日だぞ、今日。世界で一番欲しい物を手に入れてしまった俺は、これ以上何をすればいいんだよ。
幸せだなあ。離したくないなあ。
皆の祝福の声よりも鮮明に響いた愛してるの一言が、俺を貫いて、抜けてくれなかった。
「ああ、ごめんなあ。キミはじめましてやよね。うちは笹草糖音やで」
「…………ええ、はじめまして。私の名前はメラーニア・クローチェと申します。以後お見知りおきを」
「へぇ〜!外国の方なんやねえ。よろしくなあ、仲良くできるとええねぇ」
まただ。彼女の記憶は残酷なことに突然リセットされて、全て白紙になる。心臓に悪い。私は、もう何十年も前に病で死んでから、ひょんなことに堕天をした天使ですから、心臓もクソもありませんがね。ええ。信じられないとは思いますが。
「あ、薫衣目当てのお客さんやろ?ちょっと待っててえな、あの子まだ眠っとると思うから、起こしてくるわ」
違う。私の目的は貴方だ。貴方が、二度目に記憶を失くしたときに私がそう言ったら、気味悪がられたので、もう二度と言いませんけれど。
「お待ちどおさん!薫衣、メラーニア・クローチェさんやで〜」
「……あ。メラーニア。来てたんだ。おはよう」
「ええ。おはようございます薫衣さん」
他愛のない会話を薫衣さんと交わした。その後、私は仲良くなりたいという理由で彼女とショッピングへ出かけた。彼女は快く承諾してくれた。違うんですけどね。貴方はいつも、私が同行したいと行った瞬間に、若干の嫌悪とも取れる表情を浮かべていたというのに。
「手伝う手伝う言うて、アンタまたドーナツ売り場行くやろ?金出すのはうちのポケットマネーからや。自分で金出してから言えボケ」
「まあまあ。そんな冷たいこと言わずに。私、もう死んでしまってるのですよ?もう少し柔らかく接してくれてもいいじゃないですか。しくしく」
「出たな嘘泣き!!もう騙されへんからな!」
「あ、バレました?ふふふ……」
過去の回想のように話しておりますが、つい昨日の出来事ですよ。私の身にもなってください。
いつも通り、彼女が食品売り場で購入した荷物がエコバッグの中に詰め込まれ、腕に痕ができるほどに重たい荷物を持っていた。半分持ちますよ。と物腰低く言うと、ありがとうな!と貴方は素直に感謝の言葉を口にする。
「半分持ちますよ?」
「ええわ別に。死人の手ぇ借りるほど軟弱やないわ」
「あらあら。私は猫以下ですか」
「なにふざけたこと言っとるんや。さっさと帰るで」
「まあまあそうカッカせずに」
「誰のせいやと思っとんのやおい。いてこますぞ」
……ええ、いつの会話でしたっけ。貴方にとっての仲良しの証、そのキレのある毒舌ツッコミの発揮はいつの日になるんですか。いつ私を思い出してくれますか。糖音、私の名前を言っただけで、私を思い出してください。
そう心の中で想い、蜘蛛の巣に絡まれた鉛のような腕で、雲のように軽い貴方からの荷物を受け取った。
いつもわたしは貴方の前にいた。出席番号が名字順だし、当然か。後ろにいるから、たまに授業中にいたずらとかされるけど。
「薫衣?言うことは?」
「ごめん最歌。眠たくなってきたからどうにかして起きれるようにと思ったらこれをやるしか……」
「別にやらなくてもいいでしょ……」
学校は好きじゃなかった。ただ学ぶ場所としか思ってなかったし。
「そうだ、今日家来る?」
「ええ?なんで急に」
「なんか、最歌ともうちょっといたいなーって思って」
「ふ、なにそれ」
結構楽しいところ、と知ったのはつい最近であった。
「僕ね〜最近カラダの調子いいんだ〜」
「いいことだね」
「ね。もうちょっと頑張ればさ、運動とかもできるらしいし」
「うん」
薫衣は体が弱いらしい。しかも結構深刻な病にかかっていて、治すことは現在の医療では不可能。調子が良いというのも、本当にその時ばかりのことが多いし、完治は夢のまた夢だろう。
わたしはどうにもそのことについての実感がなかった。なんとなく大丈夫だろうと思っていた。別れは突然訪れるものだと、わたしは、知ってしまった。
うん。まず、話ができるときに挨拶とか、感謝の言葉とかを言えて良かった。言えなくて後悔する人とか山ほどいるって聞くし。小説でもそんな描写があった気がする。一緒に遊びに行けたのもよかった。とても楽しくて、あんな話をしたとか、髪型とか服とかの容姿も鮮明に覚えてる。うん。写真は照れくさくてあまり好きじゃないけど、このときばかりは誘ってくれてありがとう。としか言葉が出ない。
一つだけ嫌だなと思ったこと、貴方がこの世から去ってしまったことだけだ。やっぱり話し足りない。もっと貴方の笑う顔が見たい。この一枚の写真だけなんて耐えられない。貴方の声を、忘れたくない。人間は残酷なことに、声を最初に忘れていくらしい。声なんて、今からどうやって思い出せばいいの。どうして先に行ってしまったの。
そんなことを最後に、いつもの感覚が来た。彼はまた繰り返すんだ。誰も死なないようにするために、という身勝手で、わたしにとって何よりも幸甚なループ。わたしの心は壊れてもいい。だから貴方はわたしよりも幸せに生きて、わたしよりもずっと後ろにいて欲しい。
この一回、わたしは忘れない。
「か、結政くん。僕だけ見て欲しい……ダメ、かな?」
「いいよー」
「えっ」
思っていたよりも軽い……やっぱりどうとも思ってないんだろうな……
「ベルくん。お腹減ったし、ご飯でも作ろう。いつの間にお昼だよー」
「あ、うん」
……まあそうなんだろうけどね。
「ベルくん、ちょっと僕の耳見てみて」
「?」
「…………見えた?」
「う、うん、」
「ベルくん、いや、鈴太くん。鈴太くんのことしか考えてないし見てないよ」
は、はわ〜〜!?
「俺耳触られるのあんま得意じゃないんだ。どう?触ってみる?」
「え、でもお昼ごはん」
「俺がご飯ってことで。ね」