しそひ

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「ああ、ごめんなあ。キミはじめましてやよね。うちは笹草糖音やで」
「…………ええ、はじめまして。私の名前はメラーニア・クローチェと申します。以後お見知りおきを」
「へぇ〜!外国の方なんやねえ。よろしくなあ、仲良くできるとええねぇ」
まただ。彼女の記憶は残酷なことに突然リセットされて、全て白紙になる。心臓に悪い。私は、もう何十年も前に病で死んでから、ひょんなことに堕天をした天使ですから、心臓もクソもありませんがね。ええ。信じられないとは思いますが。
「あ、薫衣目当てのお客さんやろ?ちょっと待っててえな、あの子まだ眠っとると思うから、起こしてくるわ」
違う。私の目的は貴方だ。貴方が、二度目に記憶を失くしたときに私がそう言ったら、気味悪がられたので、もう二度と言いませんけれど。

「お待ちどおさん!薫衣、メラーニア・クローチェさんやで〜」
「……あ。メラーニア。来てたんだ。おはよう」
「ええ。おはようございます薫衣さん」

他愛のない会話を薫衣さんと交わした。その後、私は仲良くなりたいという理由で彼女とショッピングへ出かけた。彼女は快く承諾してくれた。違うんですけどね。貴方はいつも、私が同行したいと行った瞬間に、若干の嫌悪とも取れる表情を浮かべていたというのに。
「手伝う手伝う言うて、アンタまたドーナツ売り場行くやろ?金出すのはうちのポケットマネーからや。自分で金出してから言えボケ」
「まあまあ。そんな冷たいこと言わずに。私、もう死んでしまってるのですよ?もう少し柔らかく接してくれてもいいじゃないですか。しくしく」
「出たな嘘泣き!!もう騙されへんからな!」
「あ、バレました?ふふふ……」
過去の回想のように話しておりますが、つい昨日の出来事ですよ。私の身にもなってください。

いつも通り、彼女が食品売り場で購入した荷物がエコバッグの中に詰め込まれ、腕に痕ができるほどに重たい荷物を持っていた。半分持ちますよ。と物腰低く言うと、ありがとうな!と貴方は素直に感謝の言葉を口にする。
「半分持ちますよ?」
「ええわ別に。死人の手ぇ借りるほど軟弱やないわ」
「あらあら。私は猫以下ですか」
「なにふざけたこと言っとるんや。さっさと帰るで」
「まあまあそうカッカせずに」
「誰のせいやと思っとんのやおい。いてこますぞ」
……ええ、いつの会話でしたっけ。貴方にとっての仲良しの証、そのキレのある毒舌ツッコミの発揮はいつの日になるんですか。いつ私を思い出してくれますか。糖音、私の名前を言っただけで、私を思い出してください。
そう心の中で想い、蜘蛛の巣に絡まれた鉛のような腕で、雲のように軽い貴方からの荷物を受け取った。

7/20/2023, 11:11:00 AM