いつもわたしは貴方の前にいた。出席番号が名字順だし、当然か。後ろにいるから、たまに授業中にいたずらとかされるけど。
「薫衣?言うことは?」
「ごめん最歌。眠たくなってきたからどうにかして起きれるようにと思ったらこれをやるしか……」
「別にやらなくてもいいでしょ……」
学校は好きじゃなかった。ただ学ぶ場所としか思ってなかったし。
「そうだ、今日家来る?」
「ええ?なんで急に」
「なんか、最歌ともうちょっといたいなーって思って」
「ふ、なにそれ」
結構楽しいところ、と知ったのはつい最近であった。
「僕ね〜最近カラダの調子いいんだ〜」
「いいことだね」
「ね。もうちょっと頑張ればさ、運動とかもできるらしいし」
「うん」
薫衣は体が弱いらしい。しかも結構深刻な病にかかっていて、治すことは現在の医療では不可能。調子が良いというのも、本当にその時ばかりのことが多いし、完治は夢のまた夢だろう。
わたしはどうにもそのことについての実感がなかった。なんとなく大丈夫だろうと思っていた。別れは突然訪れるものだと、わたしは、知ってしまった。
うん。まず、話ができるときに挨拶とか、感謝の言葉とかを言えて良かった。言えなくて後悔する人とか山ほどいるって聞くし。小説でもそんな描写があった気がする。一緒に遊びに行けたのもよかった。とても楽しくて、あんな話をしたとか、髪型とか服とかの容姿も鮮明に覚えてる。うん。写真は照れくさくてあまり好きじゃないけど、このときばかりは誘ってくれてありがとう。としか言葉が出ない。
一つだけ嫌だなと思ったこと、貴方がこの世から去ってしまったことだけだ。やっぱり話し足りない。もっと貴方の笑う顔が見たい。この一枚の写真だけなんて耐えられない。貴方の声を、忘れたくない。人間は残酷なことに、声を最初に忘れていくらしい。声なんて、今からどうやって思い出せばいいの。どうして先に行ってしまったの。
そんなことを最後に、いつもの感覚が来た。彼はまた繰り返すんだ。誰も死なないようにするために、という身勝手で、わたしにとって何よりも幸甚なループ。わたしの心は壊れてもいい。だから貴方はわたしよりも幸せに生きて、わたしよりもずっと後ろにいて欲しい。
この一回、わたしは忘れない。
7/19/2023, 12:05:29 PM