高く高く
眩しい青空の下 白い軌跡が青空の上を
通過して行く 小気味良い金属がカンッと
当たる音 そうしてなだらかな放物線を
描いて白球が空を高く高く飛んで行く
気が付けばフェンスを越える特大ホームランが青色の空の中に白く輝いていた。
子供のように
子供のように燥ぐ君を見て微笑ましい様な
羨ましい様な気持ちになる
そりゃあ いつまでも子供のままで居られ無いのは分かってる
けれどふと何かに追われていると
あの頃の無邪気で無鉄砲で怖い物知らずで
楽しいと言う気持ちだけが自分を動かす
原動力だったあの頃が一番無敵だったのでは無いかと思う
なんて公園で無邪気に子供と全力で遊ぶ
君の姿を見ているとあの頃の自分も其処に
混ざって一緒に追い掛けっこをしている
幻が浮かぶ
その内シャツを汗だくにして僕が座っているベンチの隣に腰掛けて君は言う
「いやあ~やっぱりちょっと動くだけで
疲れるわ~年かなあ」とTシャツの襟の近くを持ち上げてパタパタさせて首元に風を
送りながら君がそんな事を言うから
思わずさっきまでの子供の様な君の姿の
ギャップと相まって僕は笑いが込み上げてきて大きな声でくすくすと笑ってしまった
君は、首を傾げて「何~笑ってんだよ!」と聞いて来たけど僕は笑いが収まるまで
説明することが出来なかった
僕の笑いが収まるまで君は、頭に疑問符を
浮かべ首を傾げ続けていた。
放課後
キーンコーン カーンコーンと
下校のチャイムが鳴る
一斉に下校する者
放課後の部活に向かう者
寄り道の相談をする者さまざまだ
学校が終わっても私達の日常は、続いて行く そんな日常風景を窓から目に焼け付けながら 私は、愛用のカップに入れたコーヒーを一口啜り 自分の職員室にある
デスクに戻り椅子に座り大きく伸びをして
テストの採点作業に戻った。
カーテン
しくしくとカーテンの裏で君が泣いている
此処なら誰にも見つからないと思っているのか それでも周りの気配に気を配っているのか嗚咽を堪える様では無いけれど
それでもさめざめと小さく泣き
はらはらと小粒の涙を手で覆い隠して
君は、泣く そこには、悔しいやら
寂しいやらも詰まっているのだろう
一人で泣きたくてカーテンの裏を選んだくせに一人のままで居るのは、苦手な君
だから今日も僕は、いや これから
何度だって君が泣いていたらどこに居たって探しに行く だから気が済むまで泣いて
良いよ 必ず君を一人になんてさせないから そうしてカーテンの裏で泣きじゃくって気が済むまで泣いて泣き止んだ君は、
恥ずかしそうにカーテンの裏から顔を出して僕に笑った。
涙の理由
最初は、分からなかった『涙』と言う
物が私には、涙を流す機能が無いから
そう言う風にプログラムされてないから
博士は言った「君は、まずいろいろな経験を積んで外部からいろんな刺激を受けるんだそうすればたとえ涙を流す事が出来なくてもいろいろな事が分かるはずだよ」
(いろいろな事? いろいろな事って何?)
訳が分からなかったが博士が言うなら
従わなければならない だって私は博士に
作られたのだから命令なら実行しなければ
ならない こうして私は博士の命令通り
いろいろな物を見たり聞いたり
博士以外の人間とも触れ合った。
そうしてその命令を実行して30年の時が
過ぎたいつしか仲良くなった人間達も
年を取り皆『死』と言う物を迎えた。
私は、『死』と言う物も具体的には
分からなかった。
唯 『死』と言う物を迎えたら皆消えて行く でもそれは、私達のいわゆる『壊れた』とは、違うらしい
死んだら修理して直せば良いと思っていた
でも人間の体は、修理して直す事は
出来なかった。
治療して心臓を動かしたり怪我に絆創膏や
包帯をしたり病気をしたら薬を飲んだり
そう言う事は、私達の修理とは微妙に違うらしい
私達は、部品さえあれば修理して完璧に
体を直す事が出来るけれど人間の治療は
違うらしい手術と言う治療を施しても
時には感染と言う物をしない様に人体の一部を切る事もあるらしい
病気をして薬と言う物を飲んでも時には
それは、病気の進行を遅らせるだけで
完璧には、直らない事もあるらしい
そう常に人間は、生きると言う行為をする
だけで『死』と言う物に直面する
それなのに人間は何故立ち上がろうとするのだろう いや 絶望する人間も
確かに存在する でもそんな時は他の人間がその人間を励まし支えようとする
そんな姿の人間を見ると何て言うんだろう
私のプログラムのデータの中では見つけられない言葉で上手く表現出来ないが....
そんな姿の人間を見ると何だか一層輝いて
見えるのだ....
ふいに気が付くと私の目からオイルが流れた。