世界に一つだけ
私は、皆と違う自分の容姿が嫌いだった。
寝癖だらけでうねる赤い髪
手足も細くて華奢で枝木の様
肌も浅黒く汚れているのに瞳の色だけは、
髪の毛と同じで真っ赤だった。
周りの人からは化け物と言われていた。
私もその通りだと思っていたから
別段反論しなかった。
でも 君だけは、私の髪や瞳を綺麗だと
言って褒めた。
最初は、その言葉が信じられなかった。
適当な事を言って私の機嫌を伺っている
だけだろうと....
けど君は、真っ直ぐ私の瞳を見て
「君は、世界に一つだけの大切な宝物を
持っているんだね!」
私は、瞳を瞬かせて 君の言葉をもう一度
頭の中で、反芻するけれど君の言葉の意味が分からなかった。
君は、可笑しそうに私を見て
「ほら!」と私の前に手鏡を差し出した。
そうして君が手鏡を近づけて私の顔が
鏡に大きく映しだされると
私は、今まで気付かなかった事実に気付き
目を大きく見開いた。
私の瞳の中に小さく星が映っていた。
瞳の色と相まってまるで赤く火花が
燃えているようだった。
赤い髪もそれに映えて浅黒い肌もその赤い
星を引き立たせる様に闇夜を写していた。
私は、その事実に気付き思わず君の顔を
見上げた。
君は、ほら 言った通りでしょうとでも
言う様に私ににっこりと笑顔を向けていた
私は、嬉しくなって気づけば君と一緒に
笑い合っていた。
二人一緒に明るい笑い声を周りに響かせていた。
些細なことでもの続き
胸の鼓動
ドクン ドクンとさっきから心臓の音が
やけにうるさい
ハイネは、目の前の光景が信じられなかった。
シズクの脈がない.... それは、つまり....
シズクが死んだ.... 嫌だそんなの認めたくない.... そんなの何かの間違いだ....
悪い夢なら 早く覚めてくれ....
シズク.... シズク....
何で最後に会った時 俺は、シズクの腕を
離してしまったんだろう....
何でシズクの笑顔を見送ってしまったんだろう..... ハイネの体は、頽れて
目からは、止めどなく涙が流れてくる。
「っ.....うっっ....」歯を食い縛って
必死に迫り上がって来る嗚咽に耐えるが
涙は、ハイネの意思に反して後から
後から流れてくる。
何で俺は、もっとシズクを大切に出来なかったんだろう....
気持ちを誤魔化して泣かせてばっかで
結果守れないんじゃあ....
好きだなんて言う資格なんか無いじゃあないか....
「っシズク....ごめん....俺 お前に何も
してあげられない....」
こんな事になるならもっとシズクが
喜ぶ事をすれば良かった....
好きだって早く伝えれば良かった....
告白してフラれてギクシャクして
シズクと喋れなくなる事が怖くて...
気持ちを誤魔化して 先延ばしにして
結局 俺は、自分の事ばっかだった...。
「シズク....シズク...」俺は、シズクの体温をこれ以上逃がさない様にシズクの体温の残りを探し求める様にシズクを抱きしめた。
「っ ふっ うっ うっ っっ」嗚咽が
止まらない肺に空気が送れない苦しい
シズクの顔に俺の涙の雫が零れるが
涙は、指先で拭いても 拭いても止まってくれなくて....
どれくらい俺は、そこに蹲っていただろう
我に返った時には辺り一面暗くなっていた
「タマ....」俺は、今の今まで存在を忘れて
いた魂の名前を呼ぶ
俺がシズクを抱きしめながら視線を上に
向けるとタマの魂の質量が大きくなって
透明で青みがかっていたタマの魂の色は
いつの間にかどす黒く澱んでいた。
黒く穢れたタマは、あのルークとか言う
男に襲いかかる様に大きく口を開けその男を丸呑みするかの様にルークの体に
タマが飛びかかる。
ハイネは、咄嗟にタマとルークの間に入り
鎌でタマの動きを止める。
「タマ正気に戻りやがれそれ以上穢れたら
俺は、お前を浄化するんじゃなくて消滅させなきゃならなくなる.... そんなこと
俺にさせないでくれ」ハイネは、タマを正気に戻す為に必死に頼み込む
ハイネの言葉が通じたのかタマは正気を
取り戻す。
『ハイネ少年!』
ハイネの言葉に合わせる様に魂が縮んで行きタマは、元の大きさに戻った。
これで場が収まったかに見えたが
そんな空気を裂く様にルークファーラムが
ハイネの背中に声を掛ける。
「君とは、初対面のはずだけどまさか
庇われるとは思わなかったなあ....
別れの挨拶は、済んだ?じゃあさっさと
シズクちゃんを僕に返してくれない?
姉さんの大事な器なんだから....」
その瞬間 ハイネは、ルークを睨み上げる
「黙れよ!別にテメェを庇った訳じゃねぇ
テメェの事情なんか俺にはどうでも良いんだよ!シズクは、渡さねぇこれ以上お前の好き勝手にシズクを良い様にされてたまるかよ!」
ハイネの挑発する様な言葉にルークは、
ハイネに対して理不尽な言葉を投げかける
「どうして皆僕の邪魔をするのかなあ
あともう少しなのに...... あ~イラつく」
ルークの纏う空気が変わる
その異様な空気にハイネは一歩後ずさる
その空気を破る様に扉が開かれる
「「ハイネ君!」」 「「ハイネ!」」
見ると扉から ハロルド局長 マリア
ミーナ ナイトが姿を現した。
倒れているシズクを見て ミーナ ナイト
マリアが駆け寄る 「「シズク」」
「シズクちゃん」マリアがシズクの脈を取り目を見開く
「局長!」マリアがハロルドと目線を合わせる。
ハロルドがそれを受けて一つ頷く
「マリア君 手筈通りに頼むよ!」
「かしこまりました局長!」
ハロルドの言葉を受けてマリアがシズクの
体に手を翳す。
そしてマリアは、タマに話掛ける
「タマさんこちらに手を貸してくれませんか?」
『もちろんだ生憎手は、無いがこの身
一つでもいくらでも貸そう!』
タマの声は、マリアには、聞こえないはずだがまるでお互い分かっているかの様に
意思疎通が取れていた。
「シズクちゃんは、まだ死んでないわ!
私とタマさんが必ずシズクちゃんを
助ける!だから貴方達は、局長と一緒に
ルークファーラムを止めて そしてもう
一つの魂もルークファーラムの手から
取り戻して!」
シズクは、死んで無いその言葉でハイネの
心は、奮い立つ
四人は、それぞれ武器を構える。
ナイトとハロルドは、短銃と長銃を
ミーナは、レイピア ハイネは、愛用の鎌を....
四人が対峙したルークファーラムは
禍禍しい黒いオーラを放つ長剣を携えて
歪んだ不敵な笑みを湛えて
四人を迎え撃つ
今 最終決戦の火蓋が此処に落とされたの
だった....。
踊るように
踊るように独楽(こま)が回る
くるくるとスピンする様に他の独楽が
乱入して、ぶつかって来る。
ぶつかりながら回転速度を上げお互いの
踊りを見せつける様に回る回る。
果たしてどちらの踊りが優れているか
それが分かるのは、相手より多く踊り
回っていた物だけだ....。
時を告げる
時を告げる 風雲急 手綱を引く手に
力が籠もる。
馬の尻に強く鞭を入れて早馬のスピードを
自分の出来る限りの方法で上げる。
間に合うか いや絶対に間に合わせて見せる。
敵が攻めて来るまでまだ時がある。
まだ間に合うこの事実を早く皆に伝えて
準備を整えれば勝ちの目は、ある。
急げ 急げ 早く 早く
何かが私の体を急き立てる様に
馬の蹄の音がやけに私の耳の奥に深く
響いて 私は、また馬の尻に強く鞭を当てた。
貝殻
「そっちは、どうだい?」貝殻を耳に
当てて僕は、君に問いかける。
「変わらず青く透き通っているわ
貴方のおかげね!」
水質は、元に戻りつつある。
君の故郷を汚すわけには行かないからね
僕と君が出会ったのは、僕が小学生の頃
君は、海の上に顔を出して船の上で
釣りをしていた僕を見上げていた。
両親は、釣れずに粘っている僕を
遠くで見守っていたが君の存在には
気づいていなかった。
上半身を貝殻の水着で隠し
そして下半身である鰭をちょっと持ち上げて僕だけにその姿を見せてくれた
人魚である君
それ以来秘密の友達である君に僕は、
ちょくちょく会いに行った。
しかしある時 君が僕に言った。
観光客が増えて住処にしていた海の
水質が落ちて人魚である私たちが
住めなくなった事
私たち種族は、繊細な生きもので水質が
一定以上汚れると生きて行けないと
言う事
僕は、離れたくなくて思わず君に
問いかけた。
「もう会えないの?」
君は、困った様に苦笑して
僕の質問に答えてくれた
「水質がまた元通りになればまた戻って
来られるんだけど....」と君は、そう答えてくれた。
その言葉を聞いて僕は、幼心に決意して
君に宣言した。
「僕が大人になったら海を元通りにして
君の故郷を取り戻してあげる」とそう拳を
握り締めて君に約束した。
君が幼かった僕の言葉を何処まで信じてくれたかは、正直分からない。
しかし君は、僕を馬鹿にするでも無く
呆れるでもなく僕の小さな手に
手の平大の巻き貝を握らせた。
君は、言った。
「この貝殻を耳に当てると私が別の海に
行ってしまっても貴方の声が聞けるから」
遠くの海に行ってしまった君と繋がる
唯一の連絡手段を僕の手の中に残して
君は、仲間と共にこの海を去った。
それから十五年君との繋がりは、まだ
続いている。
青く透き通った海の景色を眺めながら
君との電話が中々切れずに居る
この仕事が終わったら僕は、もう一度
秘密の友達の君に会いに行く....