貝殻
「そっちは、どうだい?」貝殻を耳に
当てて僕は、君に問いかける。
「変わらず青く透き通っているわ
貴方のおかげね!」
水質は、元に戻りつつある。
君の故郷を汚すわけには行かないからね
僕と君が出会ったのは、僕が小学生の頃
君は、海の上に顔を出して船の上で
釣りをしていた僕を見上げていた。
両親は、釣れずに粘っている僕を
遠くで見守っていたが君の存在には
気づいていなかった。
上半身を貝殻の水着で隠し
そして下半身である鰭をちょっと持ち上げて僕だけにその姿を見せてくれた
人魚である君
それ以来秘密の友達である君に僕は、
ちょくちょく会いに行った。
しかしある時 君が僕に言った。
観光客が増えて住処にしていた海の
水質が落ちて人魚である私たちが
住めなくなった事
私たち種族は、繊細な生きもので水質が
一定以上汚れると生きて行けないと
言う事
僕は、離れたくなくて思わず君に
問いかけた。
「もう会えないの?」
君は、困った様に苦笑して
僕の質問に答えてくれた
「水質がまた元通りになればまた戻って
来られるんだけど....」と君は、そう答えてくれた。
その言葉を聞いて僕は、幼心に決意して
君に宣言した。
「僕が大人になったら海を元通りにして
君の故郷を取り戻してあげる」とそう拳を
握り締めて君に約束した。
君が幼かった僕の言葉を何処まで信じてくれたかは、正直分からない。
しかし君は、僕を馬鹿にするでも無く
呆れるでもなく僕の小さな手に
手の平大の巻き貝を握らせた。
君は、言った。
「この貝殻を耳に当てると私が別の海に
行ってしまっても貴方の声が聞けるから」
遠くの海に行ってしまった君と繋がる
唯一の連絡手段を僕の手の中に残して
君は、仲間と共にこの海を去った。
それから十五年君との繋がりは、まだ
続いている。
青く透き通った海の景色を眺めながら
君との電話が中々切れずに居る
この仕事が終わったら僕は、もう一度
秘密の友達の君に会いに行く....
9/5/2024, 11:12:34 AM