刹那
一瞬の刹那の後 まるで時間が止まったみたいにゆっくり流れる。
棒高跳びのバーを背中から飛んで
スローモーションみたいな感覚で
上からマットを眺めるみたいに
体が刹那浮遊する。
バンッと言う音と共に気が付いたら
バーを体が飛び越えてマットに
背中が付いていた。
会場の音が刹那 無音になり
一瞬の静寂 遅れての歓声
仰向けからのガッツポーズ
その瞬間何もかもが報われた様な
達成感が胸の中から湧き上がった。
生きる意味
生きる意味なんて自分じゃ良く分からない
分からないからたまに死にたくなる。
自分が此処に居て良いのか自信が持てない
だけど自分じゃ見つけられなくて
消えてしまいたくなっても
第三者である君が「此処に居てよ」と
声の限りに叫ぶからまるで命を張る様に
「君が居ないと寂しくて死んじゃうよ」と
泣き叫ぶから 僕はまた君に引っ張っられて此処に戻って来てしまうんだ。
まるで罪悪感の様に 駄々を捏ねる子供を
あやす様に僕はしょうが無いなあと笑い
君の涙を拭く為に戻って来ざるを得ないんだ。
また今日も君のせいで死ねなかった。
仕方ないから君が僕より先に死ぬまで
一緒に居ようと決めた。
そうして僕も気付かぬ内にいつの間にか
それが僕の生きる意味になっていた。
善悪
はぁ はぁと息を切らして駆け出す。
追い付かれる前に遠くに逃げる。
「そこまでだ!」不意に目の前に警官帽を
被った男が現れる。
俺は横道に逸れようと方向転換する。
相手は、そうはさせず俺の背中に
タックルして俺の動きを止める。
俺は気が付いたらうつ伏せになり
腕を取られて手錠を掛けられていた。
俺の罪状は、窃盗 ほんの出来心なんて
言い訳にもならない事は分かっている。
お人好しの父さんと母さんが借金の
連帯保証人にならなければ、
きっと今でも幸せな毎日だったのに
何で どうして何で今 俺は、犯罪者に
なって居るんだろう....
俺が項垂れていると俺の横から声が聞こえた。
「山田....?」名前を呼ばれ視線を転じると
俺を捕まえた警察官が目を丸くして俺を
見ていた。
俺はきょとんとして警官を見つめる。
(何だ警察に知り合いなんて居ないのに...)
俺が戸惑っていると
そいつは、警官帽を取って髪を掻き上げる。
「わからねぇか 髪も黒く染めちまったしな ほら学生の頃うぜえ位にお前が屋上に
入り浸って授業をさぼってた俺を呼び
戻してただろう!」
(学生....屋上....もしかして....)
「田中か!」俺は目を見開く
そいつは思い出したかみたいな嬉しそうな
顔でニカッと歯を見せて笑った。
そうこいつの名前は田中 学生時代
喧嘩にばかり明け暮れていた不良だった
そんなこいつをいつも見つけて授業を
さぼらせまいと呼び戻していたのが
俺だった。
田中は俺を護送中にも関わらず
俺に気安く話し掛け
「あの時お前だけが俺の事をうぜえ位に
気に掛けてくれただろう....
あの時のお前があって今の俺があるんだ
だからありがとうな!!
なぁ何があったか知らないけどちゃんと罪を償って刑務所からお前が出られたら
どっかの古びた居酒屋に飲みに行こうぜ
待ってるからな!」
そんな今は俺を咎める側に立って居る田中が気軽に同級生を飲みに誘うテンションで
言うから 思わず俺は涙が出た。
「うん!」と俺は頷いて
田中と約束したのだった。
流れ星に願いを
「流星群を見に行こうよ!」君のその
一声に誘われて僕達は暗い夜の内に家を出た。
流れる流星を今か今かと待っている
時 すーっと空に筋が掛かった。
僕はそれに見惚れて願い事を唱えるのを
忘れた。
もう一回と今度は流れない内にと
願い事を心の中で早口に呟く
僕が願い事を唱えるのに悪戦苦闘していると そう言えば流れ星が流れたのに
此処に連れて来てくれた君の声が
聞こえ無い
流れ星が流れたら一番に燥ぎそうな
ものなのに....
ふと横を見ると君は、寝息を立てて
気持ち良さそうに寝ていた。
僕は呆気に取られ心の中で、嘘だろう...と
呟く。
マイペースにも程があるよ....
何か願い事を一生懸命叶え様としていた
自分が馬鹿らしくなり
僕はふーっと肩の力を抜く
まぁ願い事なんて叶っても叶わなくても
どちらでも良いか....
少なくともこんな無防備な君の寝顔を
間近で見られたのだから....
これ以上の特権は、しばらくは
要らないや そう思える位には
僕はこの状況に感謝した。
ルール
3秒ルールそれは3秒以内に食べ物を
拾えばセーフと見なされる奇跡のルール
だから.... お母さんお願いだから
そのショートケーキの苺は捨てないで
3秒以内に床から拾ったから
セーフだからだからお願いだ
捨てないでくれェ~
そんな僕の切実な訴えも無視され
母は無言でちりとりと箒を持って来て
汚れた床と落ちた苺を一緒に掃き始める。
嗚呼大好物の苺を最後に食べようと
最後まで取って置かなければ良かった
自分の選択に後悔し僕はがくっと
項垂れるのであった。