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善悪

はぁ はぁと息を切らして駆け出す。
追い付かれる前に遠くに逃げる。

「そこまでだ!」不意に目の前に警官帽を
被った男が現れる。

俺は横道に逸れようと方向転換する。
相手は、そうはさせず俺の背中に
タックルして俺の動きを止める。
俺は気が付いたらうつ伏せになり
腕を取られて手錠を掛けられていた。

俺の罪状は、窃盗 ほんの出来心なんて
言い訳にもならない事は分かっている。

お人好しの父さんと母さんが借金の
連帯保証人にならなければ、
きっと今でも幸せな毎日だったのに
何で どうして何で今 俺は、犯罪者に
なって居るんだろう....

俺が項垂れていると俺の横から声が聞こえた。

「山田....?」名前を呼ばれ視線を転じると
俺を捕まえた警察官が目を丸くして俺を
見ていた。

俺はきょとんとして警官を見つめる。
(何だ警察に知り合いなんて居ないのに...)
俺が戸惑っていると
そいつは、警官帽を取って髪を掻き上げる。

「わからねぇか 髪も黒く染めちまったしな ほら学生の頃うぜえ位にお前が屋上に
入り浸って授業をさぼってた俺を呼び
戻してただろう!」

(学生....屋上....もしかして....)
「田中か!」俺は目を見開く
そいつは思い出したかみたいな嬉しそうな
顔でニカッと歯を見せて笑った。

そうこいつの名前は田中 学生時代
喧嘩にばかり明け暮れていた不良だった
そんなこいつをいつも見つけて授業を
さぼらせまいと呼び戻していたのが
俺だった。

田中は俺を護送中にも関わらず
俺に気安く話し掛け
「あの時お前だけが俺の事をうぜえ位に
気に掛けてくれただろう....
あの時のお前があって今の俺があるんだ
だからありがとうな!!

なぁ何があったか知らないけどちゃんと罪を償って刑務所からお前が出られたら
どっかの古びた居酒屋に飲みに行こうぜ
待ってるからな!」

そんな今は俺を咎める側に立って居る田中が気軽に同級生を飲みに誘うテンションで
言うから 思わず俺は涙が出た。

「うん!」と俺は頷いて
田中と約束したのだった。

4/27/2024, 12:05:01 AM