物憂げな空の続き
大好きな君へ
「も~ナイトの馬鹿」と私は、大好きな
貴方に叫ぶ
「ミーナ でも 僕は 君が心配なんだ!」
大好きな君と本当は、口論なんてしたく
ない....
ナイトとミーナの他に お馴染みの
メンバー シズクとハイネも部屋に
居た
四人の共用スペースでいつもの様に
集まって いつもの様に他愛ない話しをして終わるはずだった。....
ミーナが一人でレベルの高い穢れを
払いたいと言い出すまでは....
「私だって強くなりたい ナイト達の
役に立ちたいの どうして分かってくれないの!」
「いきなりは、危ないよ! まずは
最初は、僕も行くから」
「それじゃあ意味がないって言ってるの!!」
だんだん白熱して感情が荒ぶるミーナ
冷静さを取り戻させ様と諭す様にミーナに
話し掛けるナイト
二人の間でオロオロするシズク
唯一人 ハイネだけは、他人事の様に
ソファーに仰向けに寝転がり
足を組んでソファーの肘掛けに足を投げ出して欠伸をしていた。
「もう良い!」とミーナは怒りながら
共用スペースを出て行ってしまう
シズクは、ミーナとナイトを視線で見比べ
「ミ....ーナ....」とミーナの後を追い掛けた
後に部屋に残されたのは ハイネとナイト
二人だけだった。
「終わったか....」体を起こし 眼鏡を
持ち上げながらナイトに声を掛ける
ハイネ
ハイネの方に振り向いたナイトは、
いつものにこにこした笑顔を消して
悲壮な表情をしていた。
そして力が抜けた様にソファーに
座り込む
「ハイネだって シズクがミーナと同じ様な事を言ったら 気が気じゃ無いくせに...」ナイトにしてはめずらしく
子供っぽい八つ当たりの様な口調で
ハイネに言葉をぶつける。
「・・・・・ それでも 最後に決めるのはミーナなんじゃねぇのか.....」ハイネは
ぽつりと呟く
「分かってるよ.... でも僕はミーナに
何かあったら生きて行けない....」
肩を落として呟くナイト
「ちっ」とハイネは軽く舌打ちして
がばっとナイトの両肩を掴み無理矢理立たせる。
「じゃあさっさと連れ戻しに行け
うじうじ うじうじ 鬱陶しいんだよ
テメェとミーナの事なんざ俺には
関係ねぇんだよ その鬱陶しい顔
何時までも俺の前にさらし続けんな!!
消すぞ カス!」
ハイネはどんと強くナイトの背中を押す。
ナイトはその反動でハイネの方を振り向くが もうハイネは無言を貫き
またソファーに寝転がって居た。
ナイトはその姿を見てから踵を返して
駆け出す。
ナイトの足音がとおざかってから....
「ったく.....うぜぇ....」とハイネは
面倒くさそうに呟いたのだった。
シズクは、階段の段に座り込み
蹲るミーナを見て言葉を掛けあぐねていた。
「ミー.....ナ....」とシズクが声を掛けて
言葉を探していた時
後ろからシズクの肩をそっと摑む影が
あった。
シズクは、その影を認めて そっと
後ろに一歩引く
ミーナは、後ろをむきながら
自分を追い掛けて来てくれたシズクに
声を掛ける。
「ごめんね シズク 私の我が儘に
巻き込んで ナイトが私を心配してくれる
のは分かってるの.... だけど私は、
ハイネみたいに強くないし....
ナイトみたいに器用でもない
シズクみたく治癒術を使えるわけじゃないし.... 私はナイトに守って貰いたい
訳じゃない ナイトと対等に並びたいの...
私ナイトに頼られたいの....
ナイトに私が居て良かったって思って貰いたいの....」
我が儘なのは分かってる けど...
自分が情けなくて
気が付けばミーナの瞳から涙が零れ
自分が泣いて居る事に気付く
すると....「馬鹿だなあ...」シズクでは
無い聞き慣れた声がミーナの耳に響く
気が付いた時には大きな腕がミーナの
体を包む
いつの間にかナイトに後ろから抱き締められていた。
「僕は、ミーナが居ないと全然駄目なのに.... いつも僕は君に支えられてるよ」
「ナイト....」ミーナが顔をナイトの方に
向ける。
その目には涙の雫が流れ落ちていた。
ナイトが優しくミーナの目尻に溜まった
涙を指先で拭う
そうして もう一度ミーナを後ろから抱き締め ミーナの耳元で囁く
「大好きだよミーナ 何時までもずっと」
「私だって.....んっっ」ナイトに何か言おうとしていたミーナの口をナイトは
優しく塞ぐ 蕩ける様な甘いキスが二人の
体に浸透して行く
キスをし終わった二人は、お互い見つめ合い 笑い合った。
大好きな君へ 君の側にずっと居たい
君を失いたくないから....
大好きな貴方へ 貴方の隣に並びたい
貴方を助けたいから....
一方その頃ミーナの事をナイトに
任せて共用スペースに戻っていたシズクは
ソファーの上で寝ているハイネの丁度 頭の部分の位置の床に膝を抱えて座っていた。
(私....ミーナに何も言ってあげられなかったなあ....)
きっとミーナはナイトの為に
ナイトはミーナの為に
お互いがお互いを思って口論になってしまっただけなんだ....
お互いの事が大切だから....
シズクは三人の事が好きだ
ミーナの事も ナイトの事も
バインダー局のハロルド局長の事も
職員のマリアさんの事も
ハイネは時々意地悪だけど
それはシズクがおどおどしていてハイネを
いつも怒らせてしまうから....
それにこの前 スープを作った時....
(まぁ不味くはなかったそれなりには
美味かった)
美味しいって言ってくれた
あれは凄く嬉しかった。
ハイネは時々意地悪だけど時々凄く優しい
意地悪された時は嫌いと言ってしまう時も
あるけれど.....
でもやっぱりハイネも皆と同じで好きだ
大切な仲間だ。
でも ミーナがナイトを好きと言う気持ちと 私が皆を好きと言う気持ちは多分
違う
それはきっと恋と呼ばれる物で
シズクはまだ恋と言う物がどう言う物か
よく分かっていなかった。
ふとシズクは、気持ち良さそうに目を瞑って寝ているハイネの顔を見た。
ハイネにも もしかしたら 恋で好きな人が居るかもしれない
分からないけどハイネはそう言う事は自分からは言わないから....
それはとても喜ばしい事で 心から祝福したい事で なのに....
(ハイネにも恋人が出来てしまったら
もう四人で居られ無くなっちゃうのかなあ....)それは、シズクにとっては凄く
寂しい事だった。
シズクは首を振り 自分の思いに蓋をする
たとえ いつかそうなったとしても
今は皆の為に自分に出来る事をしよう
シズクがそう胸の中でそう決意していた時
ハイネも別の意味で葛藤していた。
実は何だかんだでミーナとナイトの事が
気になって居たハイネは目を瞑って寝た振りを決め込んでいた。
そろそろ起き上がって様子を窺おうかと
思っていた矢先 シズクの後ろ姿が
自分の顔近くにあるのに気付き
起きるに起きられずに居た。
(何の地獄だよ これは....)
気を抜くとシズクの長いふわふわした
柔らかそうな髪に手を伸ばしそうに
なるのをぐっと堪え
ソファーの背もたれの方に顔を向け
顔に熱が上がって来るのに耐え
本格的に目を瞑り本気で眠りが来るのを
心の中で願って居た。 ....。
ひなまつり
3月3日 ひなまつり 娘が大喜びして母親と 雛人形を飾っていた。
私は スーパーやコンビニを回って
ひなあられを買う役目を仰せつかっている
目的のひなあられを買った
ピンクの袋に 白 緑 ピンクなどの
カラフルなあられが入ったそれは
娘も大好きだ。
自宅に戻ると 娘が手足をバタバタさせて
キャキャと笑っていた
いつの間にか 居間には7段飾りの
大きな雛壇が出来上がっていた。
私は、妻にひなあられを渡すと
雛壇を見つめた
目に焼き付く赤い色が豪華さと
煌びやかさを部屋に齎してくれる。
娘は小さな手でひなあられを鷲掴み
美味しそうに食べている。
私は目を細め 娘がこれからも元気に
健やかに育ってくれますようにと
雛人形達を見つめながら
心の中で静かにこれからの事を祈った
のだった。
たった1つの希望
意識が遠のく 目が霞む もう俺は
死ぬのかと心の底で思った。
国の為に戦った。
これから 今よりも良くなると信じて
人に銃を向けた。
でも 誰かに銃を向けて殺したなら
自分も殺されると思わなければいけない
そんな事は、戦場に立った時から
分かっていたはずだったのに....
嗚呼 俺は、死んで行く 此処で
こんな所で....
ふと俺は、無意識に 服の懐に手を入れる
最後の意識の中で取り出したのは....
家族 皆と一緒に撮った写真だった。
楽しそうに笑う 娘
慈しみを湛えながら笑う 妻
嗚呼 二人の元に帰りたい
あの日の幸せの日々に戻りたい
「....愛してる....」最後の力を振り絞り
俺は呟き 涙の雫を流しながら
意識を失った。
「此処は.... 俺は生きているのか....?」
次に意識を取り戻した時 俺はベッドの
上にいた。
そうして 体中 包帯が巻かれていた
「あ....気が付かれましたか....」
看護師さんの優しい声が耳朶を打つ
涙を流しながら 手を微かに動かすと
何かに当たった。
しかし腕を動かす力が俺には残っていなかった。
それを 見かねた 看護師さんが俺の手の
中から 俺が持っていた物を俺の手の中から取り出してくれた。
そうして俺の目線までそれを持ち上げて
くれる。
「ずっとこれを握り締めていて 離さなかったそうです!」
看護師さんが見せてくれたのは
俺の家族の写真だった。
俺は、それを目に留めた瞬間 また涙が
雫となって次から 次へと溢れ
ベッドのシーツを濡らした。
嗚呼.... 俺のたった1つの希望
俺の生きる意味
それを噛み締めて 俺は、涙を滂沱と
流した。
看護師さんが優しくハンカチで俺の目から
次から次へと流れる涙を労る様な笑顔を
浮かべながら拭ってくれていた。
嗚呼.... やっと帰れる 君たちの元へ....。
欲望
此処は何処だろう?
暗くて 冷たくて 寒い....
周りは、壁 壁 壁 に取り囲まれて居る。
前方には、鉄格子が嵌まっていて
何重にも鉄の棒が等間隔に置かれ
前方の廊下部分の道を遮っている
私は、ぼうっとした意識がゆっくりと
覚醒し 此処が檻の中だと気付く
ああ そうか... 私は、捧げられたんだ
贄として 鬼に.... 餌として食べられる
そう それが 私の運命
私は瞳から涙を流した。
数日後
私は、鬼の前に姿を晒される。
鬼が口角を上げ嬉しそうに私を見る。
実際 鬼は、見惚れていた。
美しい贄の姿に 神々しい姿に
鬼の食欲は、そそられた。
鬼は大口を開けて私の白い首筋に
噛み付こうとした。
すると贄の少女の瞳から透明で純粋で
清らかな雫が流れる。
鬼は一瞬 躊躇い少女に問いかける。
「死ぬのが怖いか?」
少女は、まっすぐ鬼を見て
「怖いです!」と躊躇い無く言う
しかし続けて 「でも 凄く嬉しい....」
と少女は、涙を流しながら言う
その涙は、恐怖や怯えから来るものと
言うよりは、歓喜に打ち震えた涙だった
「私は、貴方に会う為に 贄としての
役目を果たす為に 今まで生きて来ました」
少女は、涙を流しながら口元を緩ませた
「塊(かい)....」少女のその呟きに
鬼は、目を見開く
「お前は....」鬼は その呟きと共に
自らの思考を回す。
遠い 遠い昔 いや 我にとっては、
ほんの数日に満たない時間
我は、志月の日と呼ばれる
瘴気が完全に払われる 我ら鬼族の
唯一の弱点と言われる その日に
我は山から降りてしまい 誤って
怪我をした
怪我と言っても我にとっては擦った程度の
事 何も気に留める事は無い程度の怪我
だから 我は、何も気にしなかった
しかし そんな我に近づく影があった
幼い 拙い 華奢な少女が我の傷口に
布を宛がっていた。
最初 我は、何をしてるか分からず
目を丸くした。
少女は、我を覗き込んで
「大丈夫?」と首を傾げた。
我は、最初 何でそんなことを言うのか
分からなかった。
しかし志月の日である今日我は、周りに
微かな瘴気も感じられない為 力が
通常時よりも落ちていた。
小さな 人間で言う所の童 程度の大きさ
まで体が縮んでいた。
終いには、我は、鬼化が少し弱まり
形だけなら良く見なければ 人間に近い形になっていた。
我は、少女に顔を見られない様に
目線を合わせず横を向いた。
「これで大丈夫 貴方 名前は?」
「....塊....」
「塊ね.... 私は小夜(さよ)」小夜と言う
少女は我に向かってにっこりと笑った。
我は、その小夜と言う少女の笑顔を
振り切って 駆け出した。
そうして我は山に帰った。
それからその少女には、二度と会わなかった。
気まぐれの戯れみたいな出会いだった。
その少女が今 我の目の前に居る。
我に食べられる贄として.....
「会いたかった 塊....」
その少女.... いやもう少女ではない
その女性 小夜は、我を見つめる
「どうして 我だと....」
すると小夜は、あの日と変わらず
にっこり笑って
「貴方の瞳 凄く 綺麗... 何も変わってない」
あの日 私が声を掛けた少年
怪我をしてるみたいだったから私は急いで
駈け寄った。
傷口に布をあてがって 見ると驚いた
布に血が付いていなかった。
私は咄嗟に「大丈夫?貴方名前は?」と言って 誤魔化した。
私が そう声を掛けた瞬間少年は、
掛け出し 私を振り切った。
その刹那 少年の瞳と目が合った。
その瞬間の瞳の色が惹き付けられる程
綺麗だった。
それから何年か経ったある日 私は
贄の任を仰せつかった。
それは、山の神の怒りを買わない様に
毎年行われる贄の儀
それは山の奥深くに棲むと言う鬼に
捧げ物の餌として若い娘を捧げる事
贄に選ばれた娘は儀に向けて
毎日決まった禊ぎをする
体を清め 純潔を守り
神前にてお祈りをする。
それが決まり 私は体が震えていた
それは最初死ぬのが怖い恐怖から来る物だと思っていた けど違った。
それは私が鬼についてある噂を耳にしたから....
鬼は、傷を受けてもすぐに再生する。
それを聞いた瞬間 私は昔の光景を思い出した。
そうして私は、自分の中に笑いが
込み上げて来るのを自覚した。
「貴方に会いたかった ずっと ずっと....」
そう 私はあの出会いからずっと貴方に
恋をしていたんだ
あの綺麗な瞳に一瞬で心を撃ち抜かれた。
恋い焦がれて 恋い焦がれて
焦がれて 焦がれて やっと此処まで
来られた。
馬鹿な女だ
我に恋情などと言う心はない 鬼に子孫を
残すと言う概念は無い
あるのは食欲だけ そしてその欲には
我は、決して抗えぬ....
だから我は、食うお前を....
だから私は貴方に食べられたい
この欲望塗れの独占欲を貴方の中に残したい
我はお前を食いたい お前の体を余す
所無く 食い尽くして 我の食欲を
満たす糧としたい....
(小夜...)
(塊...)
お前を....
貴方を....
我の....
私の....
欲望で満たしたい。....。
列車に乗って
私は、今列車に乗っている。
別に目的地なんて決めてない
ただなんとなく 衝動的に列車に乗って
あてのない逃避行
車窓から流れる景色が列車のスピードに
寄って後ろに映像の様に流れていく
私は、頬杖を付いてその窓の景色を
何も考えずぼーっと眺める。
そうすると此処まで来たんだなあと言う
思いが浮上し 一種の黄昏れると言う
状況になり ふっと感慨が募る。
日常生活の事が頭をもたげ 色々な人の
顔が浮かぶ
友達 家族 知人 親戚など
恋人は居ないけど
その人たちとの日常 風景 楽しかった事
悲しかった事 面白かった事など
普段は、日常の風景の一部になって溶けて
見逃してしまう数々の事象の一つに
過ぎないのに こうして一人で列車に乗って 物思いに耽っていると
一人一人との大切な日常が改めて思い出される。
普段は窮屈で鬱陶しいのに こうして一人でいると寂しくなって 懐かしくなって
恋しくなって 無性に会いたくなる
涙がでてくる程に....
次の駅に着いたら 降りて お店を探してみよう
そうして皆にお土産を買って行こう
そう私は、決めて 次の駅の降車を知らせる アナウンスを聞き ドアが開いた
瞬間 立ち上がり 列車を降りたのだった。 ....。