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欲望

此処は何処だろう?

暗くて 冷たくて 寒い....
周りは、壁 壁 壁 に取り囲まれて居る。

前方には、鉄格子が嵌まっていて
何重にも鉄の棒が等間隔に置かれ
前方の廊下部分の道を遮っている
私は、ぼうっとした意識がゆっくりと
覚醒し 此処が檻の中だと気付く
ああ そうか... 私は、捧げられたんだ
贄として 鬼に.... 餌として食べられる

そう それが 私の運命
私は瞳から涙を流した。






数日後

私は、鬼の前に姿を晒される。

鬼が口角を上げ嬉しそうに私を見る。

実際 鬼は、見惚れていた。
美しい贄の姿に 神々しい姿に
鬼の食欲は、そそられた。

鬼は大口を開けて私の白い首筋に
噛み付こうとした。

すると贄の少女の瞳から透明で純粋で
清らかな雫が流れる。

鬼は一瞬 躊躇い少女に問いかける。

「死ぬのが怖いか?」
少女は、まっすぐ鬼を見て
「怖いです!」と躊躇い無く言う
しかし続けて 「でも 凄く嬉しい....」
と少女は、涙を流しながら言う
その涙は、恐怖や怯えから来るものと
言うよりは、歓喜に打ち震えた涙だった

「私は、貴方に会う為に 贄としての
役目を果たす為に 今まで生きて来ました」

少女は、涙を流しながら口元を緩ませた

「塊(かい)....」少女のその呟きに
鬼は、目を見開く

「お前は....」鬼は その呟きと共に
自らの思考を回す。

遠い 遠い昔 いや 我にとっては、
ほんの数日に満たない時間

我は、志月の日と呼ばれる
瘴気が完全に払われる  我ら鬼族の
唯一の弱点と言われる その日に
我は山から降りてしまい 誤って
怪我をした
怪我と言っても我にとっては擦った程度の
事 何も気に留める事は無い程度の怪我

だから 我は、何も気にしなかった
しかし そんな我に近づく影があった
幼い 拙い 華奢な少女が我の傷口に
布を宛がっていた。

最初 我は、何をしてるか分からず
目を丸くした。

少女は、我を覗き込んで
「大丈夫?」と首を傾げた。

我は、最初 何でそんなことを言うのか
分からなかった。

しかし志月の日である今日我は、周りに
微かな瘴気も感じられない為 力が
通常時よりも落ちていた。

小さな 人間で言う所の童 程度の大きさ
まで体が縮んでいた。

終いには、我は、鬼化が少し弱まり
形だけなら良く見なければ 人間に近い形になっていた。

我は、少女に顔を見られない様に
目線を合わせず横を向いた。

「これで大丈夫 貴方 名前は?」

「....塊....」

「塊ね.... 私は小夜(さよ)」小夜と言う
少女は我に向かってにっこりと笑った。

我は、その小夜と言う少女の笑顔を
振り切って 駆け出した。
そうして我は山に帰った。

それからその少女には、二度と会わなかった。

気まぐれの戯れみたいな出会いだった。

その少女が今 我の目の前に居る。
我に食べられる贄として.....

「会いたかった 塊....」

その少女.... いやもう少女ではない
その女性 小夜は、我を見つめる

「どうして 我だと....」

すると小夜は、あの日と変わらず
にっこり笑って

「貴方の瞳 凄く 綺麗... 何も変わってない」

あの日 私が声を掛けた少年
怪我をしてるみたいだったから私は急いで
駈け寄った。

傷口に布をあてがって 見ると驚いた
布に血が付いていなかった。

私は咄嗟に「大丈夫?貴方名前は?」と言って 誤魔化した。
私が そう声を掛けた瞬間少年は、
掛け出し 私を振り切った。

その刹那 少年の瞳と目が合った。
その瞬間の瞳の色が惹き付けられる程
綺麗だった。


それから何年か経ったある日 私は
贄の任を仰せつかった。

それは、山の神の怒りを買わない様に
毎年行われる贄の儀
それは山の奥深くに棲むと言う鬼に
捧げ物の餌として若い娘を捧げる事
贄に選ばれた娘は儀に向けて
毎日決まった禊ぎをする
体を清め 純潔を守り
神前にてお祈りをする。

それが決まり 私は体が震えていた
それは最初死ぬのが怖い恐怖から来る物だと思っていた けど違った。

それは私が鬼についてある噂を耳にしたから....

鬼は、傷を受けてもすぐに再生する。
それを聞いた瞬間 私は昔の光景を思い出した。

そうして私は、自分の中に笑いが
込み上げて来るのを自覚した。






「貴方に会いたかった ずっと ずっと....」


そう 私はあの出会いからずっと貴方に
恋をしていたんだ
あの綺麗な瞳に一瞬で心を撃ち抜かれた。
恋い焦がれて 恋い焦がれて

焦がれて 焦がれて やっと此処まで
来られた。


馬鹿な女だ
我に恋情などと言う心はない 鬼に子孫を
残すと言う概念は無い

あるのは食欲だけ そしてその欲には
我は、決して抗えぬ....

だから我は、食うお前を....

だから私は貴方に食べられたい
この欲望塗れの独占欲を貴方の中に残したい

我はお前を食いたい お前の体を余す
所無く 食い尽くして 我の食欲を
満たす糧としたい....




(小夜...)

(塊...)

お前を....

貴方を....

我の....

私の....

欲望で満たしたい。....。

3/2/2024, 7:39:41 AM