たった1つの希望
意識が遠のく 目が霞む もう俺は
死ぬのかと心の底で思った。
国の為に戦った。
これから 今よりも良くなると信じて
人に銃を向けた。
でも 誰かに銃を向けて殺したなら
自分も殺されると思わなければいけない
そんな事は、戦場に立った時から
分かっていたはずだったのに....
嗚呼 俺は、死んで行く 此処で
こんな所で....
ふと俺は、無意識に 服の懐に手を入れる
最後の意識の中で取り出したのは....
家族 皆と一緒に撮った写真だった。
楽しそうに笑う 娘
慈しみを湛えながら笑う 妻
嗚呼 二人の元に帰りたい
あの日の幸せの日々に戻りたい
「....愛してる....」最後の力を振り絞り
俺は呟き 涙の雫を流しながら
意識を失った。
「此処は.... 俺は生きているのか....?」
次に意識を取り戻した時 俺はベッドの
上にいた。
そうして 体中 包帯が巻かれていた
「あ....気が付かれましたか....」
看護師さんの優しい声が耳朶を打つ
涙を流しながら 手を微かに動かすと
何かに当たった。
しかし腕を動かす力が俺には残っていなかった。
それを 見かねた 看護師さんが俺の手の
中から 俺が持っていた物を俺の手の中から取り出してくれた。
そうして俺の目線までそれを持ち上げて
くれる。
「ずっとこれを握り締めていて 離さなかったそうです!」
看護師さんが見せてくれたのは
俺の家族の写真だった。
俺は、それを目に留めた瞬間 また涙が
雫となって次から 次へと溢れ
ベッドのシーツを濡らした。
嗚呼.... 俺のたった1つの希望
俺の生きる意味
それを噛み締めて 俺は、涙を滂沱と
流した。
看護師さんが優しくハンカチで俺の目から
次から次へと流れる涙を労る様な笑顔を
浮かべながら拭ってくれていた。
嗚呼.... やっと帰れる 君たちの元へ....。
3/3/2024, 1:54:38 AM