お気に入りの続き
枯葉
枯葉が 一枚 二枚 三枚
男の手の中で枯葉が数えられ
黒く靄が掛かって行く
その靄は、大きくなって 道を通りかかる
通行人の体に纏わり付く
知らず知らずの内にその人の寿命を
吸い取って侵して行く....
この世界には、魂の通り道と言う普通の人には、見えない 魂の道と言う物が
存在する
しかし稀に魂が道から外れる時がある
そうした魂は、澱んだ空気や人の負の
感情に触れ穢れる時がある。
その負の感情が強ければ強い程
穢れも強くなる。
その穢れを 浄化して 時には、自分自身に取り込んで活力にする者達が居る。
人間ではあるが決して普通の人間ではない
穢れた魂を狩り 浄化せし得る者
その者達は、バインダーと呼ばれ
普通の人達と同じ様に日常に溶け込み
学校に行く者も居れば
普通に会社を起業する者も居る
魂を己の活力にし 取り込む事ができるが
普通の人間と同じ様に生活し
普通の人と同じ食事を取ることも
睡眠を取ることも
もちろん 恋をする事だってできるのだ...
此処に一人の少年が居る
彼は、鋭い目つきを色眼鏡で隠し
穢れた魂を追いかけ狩るバインダーだ
戦闘好きで 魂狩りの腕は、ピカイチで
浄化した魂の色が見える特殊な目の力があり 本来の生前残した魂の感情を読む事が
出来る。
そんなバインダーの腕は天才的な少年
名前を ハイネ.クラウンと言う
彼とチームを組んでいる仲間達の
魂 検挙率は群を抜いていた。
しかしそんな天才的な彼にも
苦手なものがあるそれは....
『A21ーBエリア』一頻りこの場所で
思いっきり笑った後 ハイネは、我に
返り落ち込んでいた。
(俺の馬鹿...)と頭の中で何度も自己嫌悪に
陥るが あの時は、本当に楽しくて
楽しくて仕方なかったんだから
しょうがねぇだろうと思うが
気づいた時は、後の祭りだった。
あの後ミーナに説教されナイトに諭され
気づいた時には、シズクはもうハイネとは
目も合わせなくなっていた。
やり過ぎたと後悔した時には、もう遅く
此処 一週間シズクは、ハイネの呼びかけには無言を貫いていた。
そう彼ハイネクラウンの苦手な事
それは、恋愛事だった。
好きな子に対して優しくアプローチ
出来ない 小学生男子レベルで
彼の恋愛レベルは、止まっていた。
しかし素直に謝る事も出来ない
かと言って自分だけ無視され続けるのは
精神的にかなりのダメージを負っていた。
そんな自己嫌悪に陥っている時
机の上に置いてあるスマホが震えた。
ハイネは、机に突っ伏しながら電話に出た。
「は...い」声に覇気が失われていた。
「ちょっとあんた 声 死んでんだけど
仕事が入ったから バインダー局に
早く来なさい ハロルド局長 もとい
社長がお呼びよ」
「仕事ったってどうせ いつもの魂狩りだろう... そんなのお前らで ちゃちゃっと
すませろよ 俺は 今日 仕事をする
気分じゃあ....」
「いつものじゃあ無いからあんたに
電話を掛けたのよ! 緊急事態なの
すぐ来て!」
ミーナの切羽 詰まった口調にハイネは
なんだか予感めいたものを感じ
確信する。
(これは、もしかして高レベルの穢れの
予感...)ハイネは、徐に口角を上げ
その瞬間 悩んでた事全てを忘れて
相棒の鎌を手の中でくるくると回し
家を飛び出した。
バインダー局 表の名前 ハロルドカンパニー の扉を蹴破りハイネは挨拶も
そこそこに 社長兼局長の前に飛び出した。
途中 「社長の前で何たる無礼な...」と
呟く声がしたが今のハイネには
聞こえていなかった。
しかしそんなハイネの行動も慣れたものだと ハロルド局長も他のいつものメンバーも気にせず話しをする。
「昨夜の明け方通行人が次々と道端で
意識を失い倒れる事件が発生
穢れの可能性あり 今すぐマップに
送った座標位置まで向かって貰いたい」
ハロルド局長が送った座標が表示された
瞬間 ハイネは風の如く駆け出していた。
それを見て慌てて追い掛ける
ミーナとナイト そして「あ....」と
シズクが小さく声を上げるが....
「シズクは、危ないから此処に居て」
ミーナに止められて立ち止まるシズク
シズクは、三人の後ろ姿を見送って
この前ハイネに言われた台詞を一人頭の中で考えていた。
『いつまでもミーナやナイトに守られたままで良いのかよ 弱っちいまま皆の足引っ張ったまま生きて行くつもりかよ』
(私...は...弱い...)
だからこの頃ハイネの顔が見れなかった
弱い奴は足でまといだと言われる様な
気がして
ハイネと上手く話せなくなっていた
自分が情けなくて 恥ずかしくて....
そんなシズクの心中を見透かした様に
ハロルド局長は声を掛ける。
「大丈夫だよシズク君 君には君のできる
事がある 皆の帰りを待つのも立派な仕事だよ」
(私の出来る事....) シズクは、
ハロルド局長の言葉に「は...い」と小さく
呟く
目的の座標位置に到着した
ハイネ ミーナ ナイト
三人が到着した頃には、空気は澱んで
汚染されていた 明らかに穢れのおりが溜まっていた
穢れの大元は何かと三人は、辺りを見回す。
「何もねぇじゃねぇか!」ハイネが
少し苛ついたその時
はらはらと何かが落ちてきた
「何かしらこれ?」ミーナが手に持って
しげしげと観察すると...
「枯葉....」ナイトも呟く
その時 手の中の枯葉が生き物の様に蠢き
葉の先端が刃の様に鋭くなった
「きゃああああー」手の中に枯葉を
持っていたミーナは、刃で手を切ってしまい傷を受ける。
「ミーナ!!」ナイトが叫ぶ
枯葉がどんどん増えて行き刃となって三人を襲う
「唯の葉っぱ如きどうって事ねぇ!」
ハイネが鎌で葉っぱを切り裂く
ナイトは、拳銃を
ミーナは、レイピアをそれぞれ構えた。
すると.....
「一枚 二枚 .....」どこからともなく
不気味な声が聞こえた。
その声と共に 黒い靄が立ち上り
だんだんと大きくなって人影が現れた。
そこには、男が立っていた。
男と言っても文字通り影になっていて
顔は見えないかろうじて男性的な
シルエットが浮かび上がっているだけである。
「先手必勝!」とハイネが飛び出す。
するとまた枯葉が舞い今度は、枯葉の先端から蔓が伸びて来てハイネの足を
絡め取りハイネを地面に叩き付ける。
「ぐっ!」ハイネは呻くがすぐに立ち上がる。
「ハイネ深追いするな!」
「そうよ 無茶しないで!」
ナイトとミーナが武器で応戦して
ハイネを援護するが二人ともすでに
枯葉の刃に当てられ切り傷を負っていた。
その時 寂しそうな声が聞こえた。
『何で 何で俺は死ななければ行けない
癌で余命三ヶ月だなんて....
俺は会社の為に精一杯やって来た
なのに 上司も部下も面倒な仕事は
全部俺に押しつけやがって 憎い
あいつらが憎い 何であいつらが生きてて
俺が死ななければならない
あいつらが死ねば良いのに 憎い』
思いの感情の丈が溢れ穢れの核が
見えた。
「あそこか....」男のシルエットの心臓の
近い部分に穢れの核はあった。
ハイネは核 目掛けて飛んだ
「誰かを憎んで魂を穢す位なら
誰か一人の為に精一杯生きやがれ!」
鎌を振りかぶり核を粉々に砕いた。
辺りの澱みは消えて 空気が爽やかに
澄んで来た。
魂は浄化され 本来の魂の色を見る為に
ハイネは眼鏡を外す。
「淡いブルーに 金色がかった黄色
少しの寂しさと プライドと誇り
良い魂の色持ってんじゃねぇか!」
珍しくハイネは魂をその場で食べず
バインダー局に持ち帰った。
そうしてぼろぼろの三人がバインダー局に
帰還する。
三人にシズクが駆け寄る。
「皆....け....が 私....直....す」
シズクが最初にミーナの手を取る
そうして怪我した部分に優しく触れる。
そうすると傷がみるみる内に塞がる。
「ナイトも....」シズクがナイトの袖を
引っ張る。
「ありがとうシズク」
「さすがねシズク相変わらずシズクの
治癒術は、凄いわ!」「本当だね!」
ミーナとナイトがシズクを褒める。
シズクは、俯いて
「凄....く無い....よ.... 大きな....
け....が...治せない....し 病気....も......
治せ....無い....」
「そんな事ないわよ いつもシズクが
治癒してくれるから私達 本当に
助かってるし!」
ミーナがシズクを励ます。
「助....か...る... 本....当...」
「本当よ!」
シズクは、ミーナの言葉を聞いて笑顔を
浮かべる。
そのシズクの笑顔を横目で見て踵を
返して帰ろうとするハイネ
(此処に居ると また余計な事が口から
出そうだし.... 気づかれない内に帰ろう...)
もう実はメンタルがぼろぼろのハイネだった。
これ以上ダメージを受けたらしばらく
立ち上がれない程には....
歩を進め様として 控えめに袖を引っ張る
力に思わず足が止まる。
反射で思わず振り返ってしまうとそこには、上目遣いで自分を見上げるシズクの
顔があった。
「っ....」ハイネはたじろぎ 一歩引く
「ハイネ....も...け....が.... 直....す...」
(っ....ドクン)
一週間ぶりにシズクに自分の名前を呼ばれ
耐性が薄らいでいたハイネは不覚にも
胸が高鳴ってしまう.....
(可愛いっ~) シズクに顔を見られない様に後ろを向くハイネ
「お..... 俺は....別に良い こんなの勝手に治るし.....」
顔に熱が上がって来たハイネは
早く此処から逃げ出したくて仕方なかった。
しかしそれを ミーナとナイトの言葉が
止める。
「何言ってんのハイネ 戦闘中
地面に叩き付けられて背中打ってたじゃない」
「そうよ あんた 戦闘中 前に出っ放しで傷だらけだったじゃない!」
「せ....な....か....」シズクがハイネを
じっと見る。
ハイネはその視線に居たたまれない
シズクがハイネの背中に触る
その感触にビクッと背中を震わすハイネ
「せ....な.....か....見.....せて」
シズクがまたハイネを上目遣いに
見上げて来た ハイネはそれに耐えきれず
「良いって!」と全力で断ろうとしたが...
「駄目!!見せて!!」シズクが珍しく
はっきりと大きな声で言葉を紡いだ。
その吊り上がって怒った珍しい表情に
耐性が薄くなっているハイネは
またときめいてしまい二の句が継げなくなってしまい....
「っ.... かっ....勝手にしろ!!」
後ろを向いて眼鏡で顔を隠して
シズクの手の感触を治癒が終わるまで
ひたすら耐えるしか無いハイネにとって
ある意味 穢れを浄化して怪我をするよりも耐え難い拷問だったのだった。....。
今日にさよなら
赤く染まった夕日が今日の終わりを
密やかに告げている。
君とぼくは、手を繋ぎ
今日 一日にあった出来事を反芻して
また明日と心の中で呟いて
今日にさよならを言う
また明日と言う今日を迎える為に
今日にさよならを告げる。
また明日もよろしくお願いしますと
迎える為に....。
お気に入り
屋根の上で寝転びながら俺は果てしなく
上っている青い空を見上げる。
バトンの様に手の中で 自分の相棒である
大鎌を空に放り投げ くるくると回転する
大鎌を落ちてくる瞬間を見極め柄の部分を
捉えキャッチする。
一通り 相棒を弄ぶと起き上がり
獲物を見つけた獰猛な笑みを浮かべ立ち上がる。
そして、一気にジャンプして屋根の上から
駆け下り大鎌を振るった。
「もらったああああー」
「ギャアアアーァ」不気味な断末魔を上げながら 黒い靄が掛かった気体は、
鎌の刃が刺さり消滅した。
「一丁あがり!」
俺は掛けていた眼鏡を外し
黒い靄が掛かった気体が取り払われた後の
透明で しかし完全に透き通っている
訳ではない色味がかった魂を凝視し
その魂の色を見る。
「う~ん 暖色系に微かに茶色が混ざっているなあ~ 穏やかで暖かい人生
少しの未練って所か...」
俺は、その魂を持ち上げ口をあけようとして
ゴンッ 「痛っ!」後ろの後頭部に
衝撃が走り 食べようとしていた魂を
落とした。
「こらっハイネ また一人で単独行動!!」
「いってぇ この暴力女!」
俺の後ろには、赤味がかった髪を短く
おかっぱにした少女と その後ろで
おどおどした目で俺を見てまた隠れる
長くウェーブが掛かった髪を緩く二つに
結んだ少女
そしてその図を 微笑ましそうに見守る
金髪の少年 三人の姿があった。
「まぁまぁミーナその辺でハイネも殺気を
出さない シズクが怖がるでしょ!!」
「そうよ あんた ただでさえ目つき
怖いんだからシズクが怯えるでしょう!」
その言葉に俺はたじろぎ おもわず
シズクと呼ばれた少女の方を見てしまう
シズクは、俺と目が合うとミーナの背中に
隠れてしまう...
俺は、その態度に少しいらつく....
「それより ナイト ハイネなんて
ほっといて もう行こう」
ミーナは、ナイトの腕を組んで寄り添う
俺は馬鹿馬鹿しくなりそっぽを向く
そうして歩を進める。
「ハイネ!」「ちょっとあんた!!」
ナイトとミーナに呼び止められるが
「お前らで仲良くやってろ」
と俺は踵を返す。
(ったくナイトの奴 良くミーナに付き合ってられるなあ あの二人何で付き合って
られるんだ 信じらんねぇ)
あの二人が相思相愛の仲なのは、
仲間内では、周知の事実なので
今更誰も突っ込まない....
しかし二人には....
「じゃあ もうこの辺にめぼしい
穢れを含んだ魂は、見当たらないし
今日は、この辺で切り上げよう」
「じゃあ何か食べようかしらおなかすいたし ハイネあんたも浄化された魂ばっか
食べてないでちゃんと普通の食べ物も
食べなさいよ!」
「シズクも一緒に行こう!」とナイトが声を掛ける。
シズクは、ナイトを上目遣いに見て
「....う....ん...」と小さく頷く
俺は何となくその態度が気に入らず
シズクの方を見てしまう。
シズクは、俺の視線に気づくと
ビクッと肩を震わせナイトの背中に
隠れる。
ミーナがそんな俺を見て
俺の腕を引っ張って行き
ナイト達から距離を取り
俺に小声で、話し掛ける。
「ちょっとあんたその目つきどうにか
ならないの? シズクが怖がってる
でしょう?」
「生まれつきなんだから ほっとけよ
あっちが勝手に怖がるんだ!
俺は知らねぇ」
「あんたそんなんじゃ 一生シズクに
振り向いて貰えないわよ
お気に入りのおもちゃを手に入れられなかった子供じゃないんだから!!」
その言葉が俺の胸にグサッと刺さる。
「....うる...さっ...い」
(そんなこと言ったってあっちが勝手に
怯えるんだから どうしようもねぇだろうが....)
俺は、シズクの方に視線を遣る。
ナイトと何か話していて 控えめな
笑顔を浮かべていた。
俺には、絶対に見せない表情だ
何となく腹が立って
俺は、シズクを睨みつけて
髪を引っ張る。
「い...いっ...た...い」シズクは、
しゃがみ込み 髪を押さえる。
「よし シズクたまには、お前も魂狩り
してみろよ 俺が教えてやるよ
そうだなあ手始めに此処なんかどうだ?」
俺は、手始めに地図マップを広げ
A21ーB の座標を広げる。
此処は比較的 魂の穢れが低レベルの
エリアだった。
まあ行っても 穢れの魂がそんないない
所だし 何もないかもしれないが....
しかし 暗闇が続く裏路地の為
怖がりなシズクには、丁度良いだろう
俺に怯えてばっかのシズクに
お灸を据えて せいぜい泣かせてやる
俺は、さっきミーナに窘められた事も
忘れてA21ーBエリアに怖がるシズクを
無理矢理連れて行った。
後ろから怒りの表情を露わにする
ミーナとやれやれと肩をすくめる
ナイトも付いて来たが 気にせず無視する。
『A21ーBエリア』
暗くどんよりとした空気にシズクは
もう怯えていて ミーナの腕にしがみついていた。
シズクは、目に涙をいっぱい溜めて
暗闇を怖々と見つめていた。
「シズク無理しないで ハイネの言う
事なんか聞かなくて良いんだからね」
ミーナは、シズクを気遣いナイトと
三人で戻ろうとするが
それじゃあこの俺が面白くない。
俺は、シズクの腕を引っ張り
強引に前に出させる。
「ほら シズク いつまでもナイトや
ミーナに守られたままで良いのかよ
弱っちいまま皆の足引っ張ったまま
生きて行くつもりかよ!」
泣いているシズクが涙目で俺を見上げる。
「っ...えぐっっ うわああーん」
終いには、とうとう泣き出す始末
俺は、それを見て気分がスカッとする。
次第に笑いが込み上げて来て
大笑いしてしまった。
「アハハハハ マジ面白い!!」
笑い過ぎて涙出て来た。
シズクがミーナにしがみつきながら
精一杯の怖くない顔で涙を浮かべながら
俺に睨みを利かせる。
「.... ハイネ....嫌い....」ぽつりとシズクが小さな声で呟く
俺は、嫌いと言われた事よりも
やっと俺に怯えなくなったシズクを見て
笑いが込み上げて仕方ない
そんな俺をミーナは眉を吊り上げて
ナイトは、呆れながら見ていたが
今の俺には、どうでも良い
お気に入りのおもちゃで遊べて
大満足の今の俺には、 .......。
誰よりも
誰よりも強く有りたいと願っていた。
大切な人を守りたいと思っていた。
だけど 現実は、厳しくて
僕は、負けて倒れてしまった。
僕は、傷だらけになって気を失って
しまった。
気が付いて目を覚ますと君の顔が僕を
覗き込んでいた。
守りたかった君の顔が優しい笑顔を
浮かべて 僕の頭を自分の膝に
乗せて 微笑んでいた。
「大丈夫?」君が僕に言う
僕は、起き上がり
「ごめん」と君に言う
結局 僕は、格好つけてたくせに
君に迷惑を掛けただけだった。
君は、きょとんとして
「何で謝るの?」君は不思議そうに
僕に言う
「僕は、君をあいつらから守る事が出来なかった。 君に迷惑を掛けて....」
すると君は首を横に振って
「守ってくれたよ だって私は、
君のおかげで 怪我一つしてないよ
むしろ君の方がボロボロになって
私のせいでごめんね」
僕は、それこそ首を振って...
「僕がもっと強かったら君に心配を掛けずにあいつらを追い払えたのに...」
君は、そんな僕の手を優しく握って
笑いかける。
「君は、強いよ誰よりも あの場で
勇気を持ってあの人達に立ち向かって
くれた 勝ち 負けなんか関係無い
君は、私のヒーローだよ」
そう言って 君は僕のボロボロの体を
支えてくれて ゆっくりと僕のペースで
僕の家まで僕を送って行ってくれた。
君の優しい言葉が 暖かい笑顔が
いつまでも僕の 脳裏から消えなかった。
10年後の私から届いた手紙
学校を卒業する日 私達は、入学式の日に
土に埋めた タイムカプセルを掘り起こした。
すると不思議な事が起こって居たのだ。
タイムカプセルを開けて中を見ると
大量の手紙が入っていた。
皆 不思議そうな顔をしていた。
皆 手紙を入れた覚えが無いからだ
皆 思い思いに好きな物をタイムカプセルの中に入れていた。
その中に手紙の類を入れた者は
居なかった。
皆の名前がそれぞれ書いてある
手紙を開くと 皆 驚いていた。
その手紙の文面は、10年後の私達から
届いた手紙だったからだ。
私の手紙には、こう書かれていた。
『10年前の私へ
自分に手紙 書くとか変な感じがするけど
元気にしてるかなあ...
何を書いて良いか思い付かない
だって 貴方にとって私って未来の
貴方なんだよね...
何かちょっと複雑....
未来の事を教えて 過去の私にアドバイスをすれば良いのか...
それとも 余り 余計な事は、言わず
無難に今を楽しめと言えば良いのか
迷いました。
私は、考えた結果 余りこっちの事は、
教えない事にしました。
楽しみにしてたかもしれないけどごめんね
私から言える事は、何もありません
でもせっかく手紙を書ける機会があるので
これだけは、伝え様と思います。
今の私があるのは、貴方のおかげです。
本当にありがとう
今の私があるのは、貴方が悩んで
壁にぶつかって それでも選んだ選択肢の
中で藻掻いた結果なんだよね!!
本当にありがとう
これから貴方には、楽しい事 辛い事
たくさんあると思います。
いろいろな選択肢に悩む事もあると思います。
でもそのどれもが間違いじゃないって
私は、思います。
挫折して 失敗して取り替えしが
つかなくなっても
人間関係につまずいて落ち込んでも
そのどれもが貴方を形づくって今の私が
ある
負けても泣いても良い だけど歩みを進ませる事だけは辞めないで
立ち止まっても 寄り道しても
遠回りしてもいい
だけど歩みを決して止めないで
貴方が選んで進んだ未来で
私は、必ず待ってるから
貴方が悩みながら選んだ選択肢の中の私が
結果の私が 此処に居るから....
何も怖がらなくて良いんだよ...
だから待ってるね!!
貴方を一番良く知ってる私より』
そうして私は、手紙を閉じた。
そしてまっすぐ上を向いて
澄んだ青空に腕を伸ばす。
まだ見ぬ貴方の手を摑む為に...
私達は、手紙と卒業証書を抱えて
それぞれの新しい道へと旅立つのだった。