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お気に入り

屋根の上で寝転びながら俺は果てしなく
上っている青い空を見上げる。

バトンの様に手の中で 自分の相棒である
大鎌を空に放り投げ くるくると回転する
大鎌を落ちてくる瞬間を見極め柄の部分を
捉えキャッチする。

一通り 相棒を弄ぶと起き上がり
獲物を見つけた獰猛な笑みを浮かべ立ち上がる。

そして、一気にジャンプして屋根の上から
駆け下り大鎌を振るった。


「もらったああああー」

「ギャアアアーァ」不気味な断末魔を上げながら 黒い靄が掛かった気体は、
鎌の刃が刺さり消滅した。
「一丁あがり!」
俺は掛けていた眼鏡を外し
黒い靄が掛かった気体が取り払われた後の
透明で しかし完全に透き通っている
訳ではない色味がかった魂を凝視し
その魂の色を見る。

「う~ん 暖色系に微かに茶色が混ざっているなあ~ 穏やかで暖かい人生
少しの未練って所か...」
俺は、その魂を持ち上げ口をあけようとして

ゴンッ 「痛っ!」後ろの後頭部に
衝撃が走り 食べようとしていた魂を
落とした。

「こらっハイネ また一人で単独行動!!」
「いってぇ この暴力女!」
俺の後ろには、赤味がかった髪を短く
おかっぱにした少女と その後ろで
おどおどした目で俺を見てまた隠れる
長くウェーブが掛かった髪を緩く二つに
結んだ少女

そしてその図を 微笑ましそうに見守る
金髪の少年 三人の姿があった。

「まぁまぁミーナその辺でハイネも殺気を
出さない シズクが怖がるでしょ!!」

「そうよ あんた ただでさえ目つき
怖いんだからシズクが怯えるでしょう!」
その言葉に俺はたじろぎ おもわず
シズクと呼ばれた少女の方を見てしまう

シズクは、俺と目が合うとミーナの背中に
隠れてしまう...

俺は、その態度に少しいらつく....

「それより ナイト ハイネなんて
ほっといて もう行こう」

ミーナは、ナイトの腕を組んで寄り添う
俺は馬鹿馬鹿しくなりそっぽを向く
そうして歩を進める。

「ハイネ!」「ちょっとあんた!!」

ナイトとミーナに呼び止められるが
「お前らで仲良くやってろ」
と俺は踵を返す。

(ったくナイトの奴 良くミーナに付き合ってられるなあ あの二人何で付き合って
られるんだ 信じらんねぇ)

あの二人が相思相愛の仲なのは、
仲間内では、周知の事実なので
今更誰も突っ込まない....

しかし二人には....
「じゃあ もうこの辺にめぼしい
穢れを含んだ魂は、見当たらないし
今日は、この辺で切り上げよう」

「じゃあ何か食べようかしらおなかすいたし ハイネあんたも浄化された魂ばっか
食べてないでちゃんと普通の食べ物も
食べなさいよ!」

「シズクも一緒に行こう!」とナイトが声を掛ける。

シズクは、ナイトを上目遣いに見て
「....う....ん...」と小さく頷く

俺は何となくその態度が気に入らず
シズクの方を見てしまう。

シズクは、俺の視線に気づくと
ビクッと肩を震わせナイトの背中に
隠れる。

ミーナがそんな俺を見て
俺の腕を引っ張って行き
ナイト達から距離を取り
俺に小声で、話し掛ける。

「ちょっとあんたその目つきどうにか
ならないの? シズクが怖がってる
でしょう?」

「生まれつきなんだから ほっとけよ
あっちが勝手に怖がるんだ!
俺は知らねぇ」

「あんたそんなんじゃ 一生シズクに
振り向いて貰えないわよ
お気に入りのおもちゃを手に入れられなかった子供じゃないんだから!!」


その言葉が俺の胸にグサッと刺さる。

「....うる...さっ...い」
(そんなこと言ったってあっちが勝手に
怯えるんだから どうしようもねぇだろうが....)

俺は、シズクの方に視線を遣る。
ナイトと何か話していて 控えめな
笑顔を浮かべていた。

俺には、絶対に見せない表情だ
何となく腹が立って
俺は、シズクを睨みつけて
髪を引っ張る。

「い...いっ...た...い」シズクは、
しゃがみ込み 髪を押さえる。

「よし シズクたまには、お前も魂狩り
してみろよ 俺が教えてやるよ
そうだなあ手始めに此処なんかどうだ?」

俺は、手始めに地図マップを広げ
A21ーB の座標を広げる。

此処は比較的 魂の穢れが低レベルの
エリアだった。

まあ行っても 穢れの魂がそんないない
所だし 何もないかもしれないが....

しかし 暗闇が続く裏路地の為
怖がりなシズクには、丁度良いだろう

俺に怯えてばっかのシズクに
お灸を据えて せいぜい泣かせてやる
俺は、さっきミーナに窘められた事も
忘れてA21ーBエリアに怖がるシズクを
無理矢理連れて行った。

後ろから怒りの表情を露わにする
ミーナとやれやれと肩をすくめる
ナイトも付いて来たが 気にせず無視する。


『A21ーBエリア』

暗くどんよりとした空気にシズクは
もう怯えていて ミーナの腕にしがみついていた。

シズクは、目に涙をいっぱい溜めて
暗闇を怖々と見つめていた。


「シズク無理しないで ハイネの言う
事なんか聞かなくて良いんだからね」
ミーナは、シズクを気遣いナイトと
三人で戻ろうとするが
それじゃあこの俺が面白くない。

俺は、シズクの腕を引っ張り
強引に前に出させる。

「ほら シズク いつまでもナイトや
ミーナに守られたままで良いのかよ
弱っちいまま皆の足引っ張ったまま
生きて行くつもりかよ!」

泣いているシズクが涙目で俺を見上げる。
「っ...えぐっっ うわああーん」
終いには、とうとう泣き出す始末
俺は、それを見て気分がスカッとする。
次第に笑いが込み上げて来て
大笑いしてしまった。

「アハハハハ マジ面白い!!」
笑い過ぎて涙出て来た。

シズクがミーナにしがみつきながら
精一杯の怖くない顔で涙を浮かべながら
俺に睨みを利かせる。


「.... ハイネ....嫌い....」ぽつりとシズクが小さな声で呟く

俺は、嫌いと言われた事よりも
やっと俺に怯えなくなったシズクを見て
笑いが込み上げて仕方ない

そんな俺をミーナは眉を吊り上げて
ナイトは、呆れながら見ていたが
今の俺には、どうでも良い

お気に入りのおもちゃで遊べて
大満足の今の俺には、 .......。

2/18/2024, 9:59:42 AM