大空
真っ青な空が 白い入道雲を湧き立たせて
まるで 白いペンキを全面に零した様な
空だった。
手を伸ばせば 白い雲が 綿菓子みたいに
摘まめそうな 口に入れられそうなそんな
予感がする空だった。
俺は、屋上で寝転びながら ゆっくりと
動く雲を見ていた。
何処までも果てしない大空が スローモーションの映像を流すみたいに
雲を誘導する。
こうして、寝転びながら 綺麗な青を
纏った 大空を見ていると
体が宙に浮いて 上昇するような
感覚に陥る。
空に吸い込まれる様な
雲の上に乗れる様な 何処までも雲に
乗って飛べる様な
そんな自由になる この景色をみるのが
俺は、好きだった。
学校と言う箱庭で 皆して同じ態勢で
黒板を睨み付け ノートを板書するより
ずっと良い。
俺は、何だか嬉しくなって 寝転びながら
大きく深呼吸する。
ずっとこの時間が 続けば良い
青い空間に閉じ込められて居たい
そんな 俺のささやかな願望を
打ち砕く声が聞こえた。
「あ~また 君こんな所でさぼって!」
その声で俺の自由で 伸びやかな時間は、
終わりを告げた。
(はぁ~) 俺は、内心で溜息を吐き
起き上がる。
「委員長!」 俺は、生真面目に
眼鏡を掛け 長い髪を もっさい
三つ編みにし 校則通りのスカートの丈の
長さで 俺を毎回 迎えに来る
委員長を見上げる
「委員長 こんな所まで毎回来るなんて
暇だなあ~」俺は、欠伸を噛み殺しながら
ぼやく....
「暇じゃない!!先生に頼まれてるから
来てるだけだよ!!」
「はぁ~そうすっか」
先生 先生ってそんなに教師の評価を
上げたいかねェ....
俺は、委員長を横目で見遣る。
「ほら 早く 立ち上がって 行くよ!」
俺は、委員長の急かす言葉に気が進まず
その声を無視し しばらく 座り込んで
居た。
「ほら 早く!!」 委員長が俺の所に
来て 俺の腕を引っ張り 立ち上がらせ
ようとする。
俺は、反抗するのが面倒臭くなり....
「へいへい」と渋々立ち上がる
俺は、委員長と共に屋上を後にした。
でも俺は、どんなに委員長に怒られて
連れ戻され様とも
晴れた日の屋上通いを辞めるつもりは
無い
このどこまでも続く大空の澄んだ青を
この目に焼き付けて 手を伸ばし
『自由』と言う開放感をまた
手に入れる為に...
止められても 何度でも又 此処に来る。
大空と言う名の自由をこの手に
摑むまで・・・
ベルの音
24日・25日
(クリスマスイヴ・クリスマス) この
二日間は、毎年かき入れ時 私の仕事の
本番と言って良い。
世界中から届いた 子供達からの手紙を読み プレゼントのリストを確認し
それぞれの地域 国に選りわけ
白い大袋に入れる。
私の助手達である 小人達が 小さく
細かく 忙しなく動く
それぞれの担当のそりに大袋を積み
多頭で群れている トナカイを それぞれの決まったそりに繋ぐ
たくさんの私が たくさんのプレゼントを
詰め込んだ 大量の大袋を積んだ そりに
それぞれ乗る。
最後に私の助手達である 小人達がそりに
備え付けられてある ベルを磨く
そして それぞれの私が手綱を打ち
トナカイ達に合図を送る。
トナカイ達は前足を踏み出し 夜空を
昇って行く
その際 シャンシャンとベルの音が
軽やかに夜空に響く
私サンタが 子供達にプレゼントを配る
これが 毎年の私の仕事
子供達の寝顔を見ながら 見つからない
様に プレゼントを配る。
最後にベルの音を軽やかに 微かに
乗せて 子供達に 夢の余韻を
残しながら.......
寂しさ
はらり はらりと枯葉が落ちる
しんしんと 空気が 澄んで冷たい
ぽっかりと空いた丸い穴に一匹の子狐が
自分の毛皮に包まって 一時凌ぎの暖を
取りながら 親狐の帰りを 今か 今かと
待っていた。
(絶対に 此処から動いてはいけないよ)
そう言い聞かせた 親狐との
約束を守って....
(父さん 母さん 寂しいよ... 早く帰って来て....)
不安に打ち震えながら 涙を目元に
零しながら 二匹の暖かな 笑顔を
想像して・・・
二匹の親狐に 自分が呼ばれるのを
冷たい風の音を聞きながら 必死に
待っていた。
その内に微かな音が 子狐の耳に届いた。
「坊や!」その声に反応し 子狐は、
耳をそばだてる。
近くまで二匹が来ている。
それは、分かる
けどまだ 駆け出しては、いけない....
二匹の親狐が 自分が居る 穴の側に
寄るまでは....
「坊や!」二匹の狐のシルエットが見えた。
その瞬間 子狐は、脱兎の如く駆け出した
「父さん 母さん!!」
「遅くなってすまなかったね!」
三匹は、抱擁をする様に寄り添う
「ううん...良いの だって...」子狐は、
安堵の余り その続きの言葉を
紡げない....
「さあ早く 穴の中に入ろう!」
親狐は、そんな子狐を暖かな穴の中に
誘う 「うん!!」子狐は、安心した様に
頷く。
だって 絶対帰って来てくれるなら
僕は、寂しくても 何度だって待てるから...
父さん 母さんの笑顔を待てるから...
だから 寂しさなんて怖くない...
父さん母さんが 抱きしめて迎えてくれる
事を知っているから...
いつも僕の為に 大変な思いをして
食事を取って来てくれる
父さん母さんの 苦労に比べたら
寂しさなんてへっちゃらだから...
冬のはじまりの続き
冬は一緒に
クリスマスが明け 冬休みになり
年末が差し迫る冬 手袋を嵌め マフラーを巻き 私は、コンビニに向かっていた。
冬限定の新作お菓子を買い占める為だ。
(これと これも あと...)と私が考え込んでいると... ポンと肩を叩かれる。
私が振り向くと...
「よお....」と無愛想に声を掛ける顔が
あった。
「あっ夏樹!!」と私は、しゃがんでた態勢を
解き立ち上がる。
「また 大量に籠に詰めてんなぁ....」
呆れた様に 夏樹が 私が持ってる
籠の中を見つめる。
「違うよ! 私 一人で食べるんじゃないよ
親戚の人が来てるからその差し入れ」
と 言ってから ちょっと言い訳じみてるなぁと気付く
「ああ...なるほど」夏樹は、私の心中など
気付いて居ない様に 一人で納得する。
そのまま一緒に歩き家路に着いた。
玄関先で別れようとして 夏樹に別れの
挨拶をしようとすると・・・・
玄関のドアが開き 小さい女の子が飛び出して来た。
「あっ 冬美お姉ちゃん!」トタトタと私に近づいて来る。
「あっ紫ちゃんお菓子買って来たよ!」
私が袋を持ち上げて 従兄弟の紫ちゃんの
方を見ると・・・
紫ちゃんは、キラキラした瞳を夏樹の方に
向けていた。
このパターンは・・・
「冬美お姉ちゃん この格好良いお兄ちゃんは、誰?」やっぱり...
私は、内心でため息を吐いて
それでも少女の純真無垢な瞳に逆らえず
隣に並ぶ夏樹を紹介する。
「隣に住んでる夏樹お兄ちゃん
紫ちゃんは、会うのは、初めてだっけ?」
「うん!」紫ちゃんは、素直に答える。
「よろしくな!」
夏樹は、紫ちゃんに笑顔を向ける。
その笑顔がまた紫ちゃんの瞳をキラキラ
させる。
私は二人に見えないように 小さくため息を吐き....
「じゃあ 紫ちゃん寒いから中入ろうか?」
私が紫ちゃんを促すと....
「夏樹お兄ちゃんも入ろう!!」と
紫ちゃんが小さな手で夏樹の腕を取る。
「いや...俺は、遠慮しとくよ...」
と 夏樹が下がろうとすると...
途端 紫ちゃんの瞳から水が溜まって来た。
私は、これはまずいと思い
咄嗟に....
「夏樹も一緒に入れば、遠慮する事ないって 勝手知ったる家でしょ!!」と
私が請け負うと
紫ちゃんの瞳がまた キラキラ輝き出し
夏樹の腕を引っ張り
「こっち こっち」と紫ちゃんが夏樹を
誘導して 家の中に引っ張って行った。
私は、その後ろ姿を見送り
何となく・・・
また変な感じがした。
なんだろう・・・これ・・・
「冬美 何立ち止まってんだ お前の
家なんだから 率先して入れよ!」
そんな夏樹の私を呼ぶ声が聞こえる。
「分かってるよ!」私は、玄関の階段を
昇り駆けだした。
私は、そのモヤっとした変な感じに蓋をし
今は、紫ちゃんと夏樹と一緒に楽しい事が
出来るという事だけを考えよう!!
そうだよ せっかく 夏樹とも一緒に
遊べる日になったんだから
紫ちゃんに感謝しなきゃね!!
だって 紫ちゃん 私 夏樹 三人で
遊べるんだから
楽しい事は、人数が多い方が
絶対楽しい
だから さっき思った事は 絶対気のせい
二人で居た方が 何か楽しかったなぁ
なんて.....。
とりとめもない話
「ねぇ 今日の放課後 新しく
出来た クレープ屋さん寄ってかない?」
そう 友達に声を掛けられ お喋りに
夢中になっていた私を含む 数人の
女子達が振り向く
そして 一斉に
「行く」 「私も!」 「私も!」と
賛成の声を上げる。
そんな 放課後の寄り道を楽しみに
真面目に授業に勤しみ
お昼休みは、来週のテストの話で
憂鬱になり 週末 勉強会をしようと言う
話になり
午後の授業は、眠い目を擦り 欠伸をし
睡魔と闘いながら 何とかノートを取る。
そして放課後 楽しみにしていた
クレープ屋さん
バナナチョコ イチゴ生クリーム
ツナサラダ メロンカスタードなど
メニュー決めで時間を浪費し
やっと決まり 一息吐いたら
いつの間にか恋バナ大会に話が発展し
誰々ちゃんと誰々君が実は付き合ってるだの 誰々ちゃんは、誰々君に片思いしているだの
はたまた 私達のグループの中で
好きな人は、居るのか それは、誰なのか
など 恥ずかしがりながら 名前を隣の子に耳打ちして こっそりおしえる子や
頑なに追及されても絶対に口を割らない子など様々だ。
これが私達のとりとめもない日常
とりとめもない会話だ。