微熱の続き
風邪
俺の風邪は、あの白衣の痩せぎす野郎を
怒鳴ったせいか ぶり返した。
全く元軍人が聞いて呆れると自分で思う....
次の日
今度は元上司が見舞いに来た。
コンコンッとドアが静かにノックされる。
俺は、熱がぶり返して 返事も
億劫だったので無言を貫く
「新庄(しんじょう) 阿久津(あくつ)から
聞いたぞ! 風邪は、大丈夫か?」
俺の名前と 昨日見舞いに来た
元同僚の名前が出され 反射的に
顔を上げる。
「・・・・はい・・・」
そこには、凜とした佇まいの
女性が立っていた。
俺の元上司だ。・・・
「鷺宮(さぎみや)隊長・・・心配を
掛けてすいません
ちょっと熱がぶり返しましたが
大丈夫です。・・・」
元上司なので俺は、無意識的に言葉を
整える。
「隊長は、よせと言っただろう
鷺宮で良い」
「すいません・・・つい癖で...」
鷺宮さんは、苦笑して笑い返す。
「ちょっと顔を見に来ただけだ
もう帰るよ! お前に負担を掛けたくないからな」
そう言って 鷺宮さんは、踵を返そうと
する。
俺は、その背を見て 咄嗟に...
「あ...」と一音口から零してしまう...
俺は、内心で 舌打ちする。
その言葉を聞き逃さなかった
鷺宮さんは、振り向いた。
「ん?どうした?」
「別に・・・何でもないです...」
俺は、目線を外して答える。
俺のその態度を見た 鷺宮さんは
怒るでも 気分を害するでもなく
口元を緩く綻ばせ
見透かした様に 俺が言い淀んだ言葉の
応えを言う。
「ニフジなら元気だぞ!お前に会いたがってた ニフジの為にも早く元気に
なるんだな!」
「・・・別に...あいつが居ると
うるさいし...居なくて清々してます....」
俺は、そっぽを向いて答える。
すると鷺宮さんは意地悪く口角を
釣り上げ
「そうか...ならニフジの事は今後
私が預かろうか?」
その言葉に背を向けていた俺の肩が
反射的にぴくりと動いてしまった
自分の体が忌々しいと また内心で
舌を打つ
「・・・御自由にどうぞ・・・」
俺は、壁際に顔を背け背中越しで答える。
鷺宮さんは、「冗談だよ!何せニフジが
それを拒絶するだろうからね!」
くすくすと鷺宮さんは、笑い
その言葉を最後に鷺宮さんは、
手を振り帰って行った。
全く 阿久津と言い鷺宮さんと言い
一体何なんだ....
俺は、腹立たしい気持ちになり
しばらく眠った。.....
夜の闇が深くなった頃 俺は再び目を
覚ました。
見るとスマホの液晶画面が 眩く
光っていた。
(メール...いや....動画か....)
俺は、何の気なしにその動画を開く
すると・・・
「先輩 大丈夫? 早く元気になってね!!」
俺は、驚愕で目を見開く
日溜まりみたいな少女の笑顔が
其処には、あった。
「私も先輩のお見舞いに行きたいのに~
皆が駄目って言うの~」
少女が頬を膨らませ必死に抗議する
姿が映る。
その姿を見て 自分の口角が上がりそうに
なるのを抑える。
「馬鹿....」そう微かに呟くのが
精一杯だった。
俺は、布団を被り もう一度 目を閉じ
眠りに付いた。
雪を待つ
シャク シャク シャク 息子(3歳)は、
この音が大好き
秋に地面に降る 落ち葉
敷き詰められたように落ち葉が
全面に落ちると 息子は、パリッ パリッと落ち葉を踏む この音も大好き
最初に言った シャクっと言う音は、
雪に足跡を付ける音
一面 真っ白で 綺麗な銀世界
その雪の地面に 何の脈絡も無く 小さな
足跡を付ける。
まるで 真っ白いキャンパスに
落書きするみたいに....
息子は、意味も無く駆け回り
きゃきゃきゃきゃ 両手を振る。
それが 息子なりの雪遊び
しかし 今年は、その雪がまだ降らない
しかし息子は、雪を待つと言うより
雪を見つけたら 家から飛びださん勢いに
なる。
息子は、雪が降ると言う概念では無く
見つけると言う概念らしく
みかけたら ラッキーみたいな
宝箱に入っているラッキーアイテムみたいな
感覚だ。
いつかこの遊びも息子にとって
終わりを迎える時が来るだろう....
それまでは、私も一緒になって見守る。
息子の代わりに私が雪が降るのを
待っている。
いつか息子が「雪降ったよ~」と自分から
教えて 自分から雪を待ち望む日も
来るだろうから....
それまでは、秘密のラッキーアイテム扱い
させておくのだ。.....
イルミネーション
キラキラと輝くイルミネーション
チカチカと瞬く光
眩い光明が 目に痛い
だけど とても綺麗
電飾の コードを絡めて
クリスマスツリーの形やサンタクロース
トナカイ そり 雪だるま
クリスマスを主張するイルミネーション
電球も 赤 青 緑など色とりどりの
光を催す。
此処に 貴方と来れて幸せ
この景色を貴方と見れて幸せ
手を繋ぎ 一年の終わりの日数を
数える。
今年も あともう少しで終わりだね!
毎年 毎年 貴方とクリスマスの
イルミネーションを見ながら
こうして、手を繋ぐのが冬のデートの
定番だね!
来年も同じ景色に飽きる事なく
幸せを噛みしめる。
貴方と言う存在が変わる事なく
隣に居てくれるだけで
私にとっては、毎年のイルミネーションが
変化を伴う輝きに等しいから
これからも ずっと側に居てね!
大好きだよ!
メリークリスマス!!
愛を注いで
チュ チュと 小さなリップ音
彼女は、愛情の印に 僕に小さなキスを
送る。
「チロ 可愛い!」
耳や口に愛情表現 チュっとまた一つ
キスを落とす。
肉球を 親指で グリグリと弄られた
時は、身体が ゾワッとして
しばらく 身体が 硬直して
擽ったさに 身を捩る暇も 無かった。
堪らず 僕は 彼女の腕から
逃げ出すと....
「あ~チロ 待ってよ~」彼女は
途端に僕を追いかけて来る。
いい加減 飼い猫離れして欲しい.....
とか言って 飼い主離れできないのは
僕の方....
僕は、大きくため息を吐いた。
「また 彼女から抜けだせなかったの?
いい加減 正体がばれるよ!」
仲間の猫又に 毎度 毎度 同じ事を
注意される。
そう 僕は、普通の猫じゃない....
猫又に分類される類の 所謂
妖だ...
だから 普通の猫と違って 寿命も
何百年 何千年とある。
だから 寿命が ばれない様に
そろそろ 今の住処を変える必要が
あるのだが.....
僕は今の飼い主 彼女の元から
なかなか離れられずに居た。
「君がまさか そんなに 人間に
入れ込むなんてね
一層の事 人型に なって仲良くなって
恋人関係を作れば良いのに...」
「ばっ馬鹿言うなそんな事....」
「今 僕の目の前で見目麗しい 人型に
なっているのにかい?
彼女の前でも そうやって人型に
なれば良いのに...
今 猫の姿の僕から見ても....
人型の君は、美しいと思うよ
彼女も君のその姿を見れば
君の虜になると思うよ!」
仲間に そう言われて 僕は、
顔が火照り 両手で顔を隠す。
「そっ そんな事できる訳ないだろう!!」
「何でさ?」仲間は、心底 不思議そうに
首を傾げる。
仲間のその質問に 僕は、
黙ってしまう....
だって.... 彼女が 僕を溺愛してくれるのは 猫の姿だからだ。
猫の姿だから 毎日 毎日 僕に口づけをしてくれ 愛を注いでくれるのだ。
それに下手に人間の姿になって
彼女の前に現れたりしたら...
「どうした?」仲間が 顔を赤くしながら
のたうち回る 僕を心配して声を掛けて
くれるが 僕は、それに答える事が
出来ない。
そんな事になったら 僕は、
もう 彼女から愛を注がれるのを待ってられなくなるだろう....
猫の姿のままの今だって...
必死に抵抗して逃げ出すのに
精一杯なのだから....
そんな事になったら
僕は自分から彼女に愛を注いでしまうから
彼女に溺れてしまうから....
心と心
心と心を重ね合わせるなんて出来ない
お互いの思っている事が100%分かり
合えないのと同じ様に・・・
でも 私は、それでも 貴方を
待ってる。.....
1時間 2時間 待ちぼうけを
喰らっても 諦めきれず
まるで ストーカーの様に待ってる。
「馬鹿みたい....」小さく呟き
瞳から 涙を滲ませる。
それは、やがて瞳から 洪水の様に
溢れて来て 後から 後から雫となって
頬に伝って行く。
「っ.....」せめて 声だけは、
周りに聞こえ無い様に 必死に
我慢する。
溢れる雫を手の甲で 一生懸命に拭い
周りに 怪訝な目で見られない様に
取り繕い 諦め掛けたその時
ポンっと肩を叩かれる。
「待った!」緩い笑顔を向けて
にへらと 私に声を掛けて来た
青年の胸を叩く
「待ったじゃない この馬鹿
遅くなるならメールしろ
ラインもしたのに 何も返さないし」
「いや~どうしても 仕事抜けられなくて
長引いちゃって それでも もう
帰ったかなあと思ってたから
だから 俺も帰ろうかなあと
思ってたんだけど... まさか 居るし」
私は、持っていた鞄で さっきより 更に
青年の胸を叩いた。
「帰ろうとすんな馬鹿! 私が何時間
待ってたと思ってんだぁ~!」
「何時間待ってたの?」キョトンとした顔でそんな事を言うから
また 腹が立って バシンと 今度は
鞄で青年の頭を叩く
「普通に質問して 聞いて来るな
馬鹿じゃないの!!」
「あの~さっきから俺 馬鹿 馬鹿しか
言われて無いんだけど....」
私は、青年を思いっきり 睨み上げ
バッと駆け出し 青年の胸に
飛び込んだ。
「えっ 何 何? ? ?」
青年は、キョロキョロと 目線を動かす。
「寒い 暖めろ 馬鹿!」
「ん~何か良く 分かんないけど
分かった。」青年は、私の背中に
自分の腕を回す。
そして... ぎゅうっと 私の身体を
自分の胸に閉じ込める。
その 力加減に 私の気持ちも緩む
そして 青年の胸の中で
はぁ~っとため息を吐く
両思いのはずなのに いつだって
一方通行 私の方が 怒ってばっか
彼の方は 友達の頃から 変わらず 緩い
私はもっと 彼との時間が欲しくてたまらないのに....
だけど こうして 抱きしめ合えば
彼が私を自分の胸の中に閉じ込める
この瞬間だけは、彼の心と私の心が
重なったと感じる。
この緩い彼氏が私の心より
もっと私を欲しがってくれる日はいつか
分からないけど...
「じゃあ行くよ!!」
「えっ!!帰るんじゃないの?」
「何言ってんのよ! 人を待たせといて
お店回ろうって言ったじゃん
まだ開いてるお店 探せばあるよ
行くよ!!」
「え~もう帰ろうよ~」
「ほら文句言って無いで歩く」
彼は、ぶつくさ付いてくる。
もう仕方ないなぁ~
私は、彼の腕を引っ張り手を繋ぐ
そうすると彼は、私に誘導されるまま
付いて来る。
彼の心と私の心 全然噛み合わないけど...
だけど 心と心を近づけると
愛情の総量は、違うかもしれないけれど
やっぱり私は、最終的には、
彼に側に居て欲しいと願うのだ。