『ススキ』
見上げれば、きらきらと輝く星々。
かぎりなく続く空に、しとやかに浮かぶ月。
太陽が眠る間、地上を静かな光で包みつづける。
その光を辿れば、冷ややかな風にそよぐススキ。
所狭しと茂るそれの中に、たおやかに佇む君。
私が眠る間、君は何を思うのだろう。
ススキの葉に切られた手を見る君。
君を受け入れられるのは自分だけだ、と月は君の腕を引き寄せる。
君の白い腕を流れる赤色は月の光に淡く照らされる。
確かに君はこの世に実在しているのだから、かの蓬莱の玉の枝などは必ずどこかに垂れているに相違ない。
君はこの世のものとは思えないほどに美しいのだ。
だから私はこの時判ったのだ。
君はこの地の者ではないことに。
君と月は切れない関係であることに。
私はこの言葉に驚くことはなかった。
「私は月に帰らなければなりません。」
『脳裏』
雨の日の公園、ブランコの上。
無情に降る雨粒がとても痛くて下を向く。それなのに視界はぼやけて一粒、また一粒と大きな雫が落ちる。
いつからこうなったのかな?
ついさっきまで、あなたと一緒にブランコを漕いでいたはずなのに。
あなたは漕ぐのがとても速くて、私はそれに着いていけなくて、次第に私たちはすれ違っていった。
そして私は嫌になってブランコを降りてしまった。
でも、今になって分かったの。
二人の速さは違っていても、行ったり来たりする内にいつか一緒に空を仰げるときが来るって。
時間をかければ必ず一緒に笑い合えるって。
それは会えない時間に比べれば僅かなものだけどね。
それだけで良かったはずなのに、あなたが待ってくれないから、って私が勝手にブランコを降りちゃった。
分かってる。公園のブランコは皆のものなんだから、もう一度乗り直すことは出来ない。
でも。
ブランコを二人で漕ぎ始めた頃のあなたの姿は、まだ私の脳裏に焼き付いている。
『涙の理由』
泣くのは好きじゃない。泣いた後はすごく疲れるし、何より他の人に泣いているところを見られたくないから。だから俺は滅多に泣かないし、泣くとしても誰もいない所で、って決めてるんだ。結果として、俺は悲しいという感情を抑えてるわけだ。
じゃあ、なんで俺は普段その感情を抑えてる?
⸺だって、泣いてたら恥ずかしいよ。
⸺もうそんな歳でもないでしょう?
⸺泣いてたらちょっと引いちゃうかも…
…どちら様?
⸺……………。
……大方予想はつくけどさ。だから自己紹介が出来ないんだろ。本当はそんな事言わないって、頭では分か
⸺いつも見てるヨ。君がどう失敗するのカ。
ってる。理解してる。みんなは俺のことをそこまで見
⸺泣いてルのかイ?呆れタネ。そンナことジャ、
てないってこと。それに、俺の行動にとやかく言うこ
⸺ワタシタチハ君ノコトヲドウ思ウダロウネ?
ともない、善良な人たちだってこと。
⸺イツモミテルヨ。イツモミテルヨ。イツモミテルヨ。イツモミテルヨ。シッパイシタラ、イツモミテルヨ。イツモミテルヨ。イツモミテルヨ。イツモミテルヨ。ハズカシイヨネ。イツモミテルヨ。イツモミテルヨ。イツモミテルヨ。ナイテルノカイ?イツモミテルヨ。イツモミテルヨ。イツモミテルヨ。イツモミテルヨ。イツモミテルヨ。イツモミテルヨ。ボクハミテル
…………………でも、やっぱりそう思っちゃうんだ。結局、俺はこの呪縛からは逃れられない。馬鹿らしい、って自分でも思うけど、これが俺の生き方なんだ。涙は堪えて生きなきゃ。人に俺の弱さは見せられない。見せちゃいけない。感情は弱さだ。隠さなきゃ。心に重い蓋をして、誰も開けられないように。
あ、またあの子が来た。でもこの蓋があれば大丈夫、
「あ、〇〇君やっほー!今日もいつも通りだね!」
当たり前だろ、心の中の混沌を気取られてたまるか。
「…おせっかいかもしれないけど、もし何かあったら気兼ねなく相談してくれていいからね!」
…ほんとにお節介だ。
「相談まではできなくても、その時の気持ちを表に出すだけでも楽になると思うよ!」
……それができたら本当に楽だろうな。
「特に、悲しいときは絶対にその気持ちを抑え込んじゃダメ!」
………。
「抑え込んじゃったら、いつか心が壊れちゃう。
たとえ何があったのかは言えなくても、悲しい、って思いは自分の外に出して、泣きたいときは泣かなきゃいけないの。」
…………。
「だから…もし◯◯君にそういう思いがあるんだったら、遠慮なく私に言ってね!あ、もちろん、そういうのじゃなくて、ただのお話でも大歓迎だよ!気軽に話しかけてね!」そう笑いかけてくれる彼女。
……………。
重い蓋がゆっくりと、しかし確実に開くのが分かる。
思いが溢れてくるのが分かる。
俺の頬に一筋、熱いものが流れる。
『ココロオドル』
ENJOY音楽は 鳴り続ける
もし泣き崩れる としても一旦アイスブレイク
目指しなビッグスケール なメガシンカ最優秀選手
お前らマジで ああ言えばこう言う
呆れたボーイズ 素因数
割り切れないこの気持ちは何だよ
It's join、ってことだよな。
『束の間の休息』
私はふう、と息を吐き椅子に深く腰かける。作業に集中するために遠ざけてあったスマホを手にとり、束の間の休息にと画面をスクロール。どんな投稿が上がってるかな…。
しばらくすると、ふと一件の投稿に目が留まる。投稿主の名前が目に入った瞬間思わず笑みがこぼれてしまう。誰も居ないというのに私は慌てて口元を隠して、投稿をじっと見る。いいねはつけようか、つけていいものか、と逡巡する。その後、私は出来るだけ画面を自分から遠ざけながら恐る恐るハートのボタンの上に指先を乗せた。そしてまるで逃げるかのように素早く画面を閉じて、遂にはスマホもベッドの方へ投げ出して天井を仰ぎ、また一息。
「全然休息になってないよ…」そう言った私の声色は自分でも分かるほどに明るかった。