屋烏

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2/28/2024, 2:29:45 PM

#8 遠くの街へ

遠くに行こう

遠く遠く

誰も僕のことを知らない街

そこはどんなところかな

カフェがたくさんあるオシャレな街?

人があまりいない静かで落ち着いた街?

きっとそこがどんなところでも楽しくなる

ちょうど街に着いた時にニュースが流れてるはず

そしたら
皆とそのニュースの話題で仲良くなれるかも

そうなったら嬉しいな


部屋に1人きりの少年は
鏡の前で楽しそうに顔についた血を拭った

1/7/2024, 10:07:21 AM

#7 雪

つい先日まで彼岸花が咲き誇っていたというのに、いつの間にか朝布団から出るのが嫌な季節になってきた。
季節の移り変わりは早いものだな、なんて、詩人みたいなことを考える。

季節は冬。
まだ雪が降るまではいっていないが、そうなるのも時間の問題だろう。
街中の人が皆似たような格好をするこの時期に、彼も例に漏れず長めのコートを着て電車に乗っていた。
窓を右から左へと流れる景色を見ながら、彼は物思いにふけっていた。

昔から、冬という季節が嫌いだった。
苦手なのでは無い、嫌いなのである。
寒いからだとか、乾燥するからだとか、そんなこと彼にはどうでもよかった。
ただ、植物が死んでしまうことが彼にとって残念でならなかった。

春を彩る桜も、夏を賑やかにする向日葵も、秋の風物詩紅葉も、皆冬になれば消えてしまう。
冬の冷たい風に飛ばされ、雪の中に埋まってしま
う。
本当は雪の中に隠れているだけなのに、誰にも気づかれず、見つけられず、ただただ朽ちていく。
それが彼にはとても残酷で、とても残念に思えた。

しかし、そのことに誰か1人が気づいたところで変わるのか。
そんなことは無い。
その1人が桜の花弁を全部掘り返してくれるのか。
その1人が向日葵の花弁を綺麗に元通りにしてくれるのか。
その1人が1度雪に埋まった紅葉を再度綺麗と感じてくれるのか。
否、有り得るはずがない。
そんなことをする人がいるはずない。

そんな、死体に優しくしてくれる人なんて、いるわけないんだ。

8/18/2023, 11:07:31 AM

#6 鏡


鏡とは、反対の世界。

着ている服も、顔も、動きも、全て反対に写す。

でも、反対なのは見た目だけじゃないみたい。

ある日、いつものように学校へ行く準備をしてた。

髪を結ぶ位置は耳より下。

スカート丈は膝下10cm。

前髪も眉毛から出ないように。

模範的で、優等生らしい格好。

そうしてたら、急に鏡の中の私が変わったの。

髪の毛は下ろしてパーマをかけてて。

顔にはメイク。

服も制服じゃなくて肌の露出が激しいワンピース。

鏡の中の私はこう言った。

「こっちの世界、来てない?」

聞くと、鏡の世界での私はやんちゃっ子らしい。

見た目は言わずもがな、素行も悪く。

学校なんかろくに行ってない。

「こっちの世界に来れば、
あんたの好きに遊べるよ。」

そう言われて私、我慢できなくなったの。

今までずっと模範的でいようとしてたけど

ほんとは髪の毛を巻いてみたかった。

スカートももっと短いのが着たいし

勉強なんてしたくない。

だから、すぐに頷いた。

鏡の中の彼女は笑って、私と世界を入れ替えた。

そこからは好きなように遊んだ。

髪の毛も下ろして、可愛くパーマをかけて。

服もノースリーブやミニスカを着て。

普段は行かないような店に行って。

すごく楽しかった。

でも、この世界では、誰も私を褒めてくれなかった。

当然だよね。

だって、この世界での私はいい子じゃないだから。

褒められるようなことなんて何もしてない。

そう思うと、ああやって我慢してたのも無意味ではなかったように思えてきて。

もっと、褒めてほしくなった。

だからね私、鏡の私にお願いしたの。

「元の世界に帰して」

って。

でも、ダメって言われちゃった。

彼女はあの世界が楽しいみたい。

模範的で優等生らしい私の生活が気に入ったみたい。

でも、元々は私の世界なのよ。

私のものなんだから、返してくれたっていいじゃない。

あぁでも、私が元の世界に帰りたくて彼女は帰りたくないなんて。

ほんとに、鏡は全てが反対なのね。

8/1/2023, 3:29:34 PM

#5 明日、もし晴れたら


ただの思いつきだった。

なにか理由がある訳では無い。

いつもと違うことがあった訳でもない。

ただ、何となく。

今しかないと思ったから。

屋上の扉を開けると、雨が降っていた。

せっかくの晴れ舞台だと言うのに、空は全く晴れてない。

出来れば、晴れてる日がいいな。

明日の朝方まで降る予定の雨。

もしかしたら、明日の朝には綺麗な虹がかかってるかも。

よし、それじゃあ、明日にしよう。

明日、もし晴れたら

貴方に会いにいきます。

小さく笑った少女は、静かに屋上の扉を閉めた。

7/28/2023, 3:44:30 PM

#4 お祭り


お祭りは嫌いだ。

だってうるさいから。

色んな角度から聞こえる人の話し声。

絶え間なく耳に入る下駄の音。

太鼓や花火の心臓に響く大きな音。

時々届くシャッター音。

色んな音が混じってる。

隣を見ると君がいる。

普段と全然違う格好で

普段と全然違う雰囲気で

普段と全然違う声色で

普段と全く同じ笑顔で

私の隣に立っている。

左手にはりんご飴を

右手には私の手を大事そうに握って離さない。

じっと見ていると

君はこちらに目を向けて小さく微笑む。

私は思わず目をそらす。

色んな角度から聞こえる人の話し声。

絶え間なく耳に入る下駄の音。

太鼓や花火の心臓に響く大きな音。

時々届くシャッター音。

それらに負けないくらいの大きな音が

私の胸から聞こえてくる。

やっぱり

お祭りはうるさい。

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