屋烏

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#7 雪

つい先日まで彼岸花が咲き誇っていたというのに、いつの間にか朝布団から出るのが嫌な季節になってきた。
季節の移り変わりは早いものだな、なんて、詩人みたいなことを考える。

季節は冬。
まだ雪が降るまではいっていないが、そうなるのも時間の問題だろう。
街中の人が皆似たような格好をするこの時期に、彼も例に漏れず長めのコートを着て電車に乗っていた。
窓を右から左へと流れる景色を見ながら、彼は物思いにふけっていた。

昔から、冬という季節が嫌いだった。
苦手なのでは無い、嫌いなのである。
寒いからだとか、乾燥するからだとか、そんなこと彼にはどうでもよかった。
ただ、植物が死んでしまうことが彼にとって残念でならなかった。

春を彩る桜も、夏を賑やかにする向日葵も、秋の風物詩紅葉も、皆冬になれば消えてしまう。
冬の冷たい風に飛ばされ、雪の中に埋まってしま
う。
本当は雪の中に隠れているだけなのに、誰にも気づかれず、見つけられず、ただただ朽ちていく。
それが彼にはとても残酷で、とても残念に思えた。

しかし、そのことに誰か1人が気づいたところで変わるのか。
そんなことは無い。
その1人が桜の花弁を全部掘り返してくれるのか。
その1人が向日葵の花弁を綺麗に元通りにしてくれるのか。
その1人が1度雪に埋まった紅葉を再度綺麗と感じてくれるのか。
否、有り得るはずがない。
そんなことをする人がいるはずない。

そんな、死体に優しくしてくれる人なんて、いるわけないんだ。

1/7/2024, 10:07:21 AM