『明日に向かって歩く、でも』
私は時折、ふと思う。
時とは、一体どんなものだろう。明日に向かって歩くと言うが、わざわざ歩かずとも明日は勝手にやってくるものだ。
私の感覚としては、自分というものがあって、それを時がどんどん通り越していくような。なくなれば世界はその瞬間を永遠に保持するのだろう。
だが、同時にこうも思う。もしかしたら、時と言うのは自分から流れ出しているものではないかと。自分が存在することで、次の瞬間が生まれて来るのではないかと。
どちらの場合でも、時というものは死ぬその瞬間まで勝手に流れ行くものである。
だが、ここまで書いてこのお題の『明日』とは、時の流れにおけるものとは違う気がしてきた。それはきっと、自分で作っていく『理想の未来』を指しているのではないか。
未来は誰にも分からないし、私の考えでは分かるも何もまだ存在しないものだと思ってるため、自分の行動で幾らでも作れるもの。の筈だ。だが、それはつまり自分で作らねばならないものである、という意味になる。
作るのは大変だし、間違った場所に城を作り上げても理想の未来とは言い難いだろう。最適な場所で、最適な努力を積み重ねることで理想の未来に近づくことができる。と、私は思っている。
まあ、そのための努力は大変だし、間違ったかどうかなんて作り上げるまでわからなかったりもする。それゆえ、踏み出せない人が多い筈だ。
私は、踏み出す勇気よりも努力が出来ないため何もない。だが、努力出来ればそれなりのことは出来るはずだ。間違った城も、住めば都だったりする。もう一つ城を建てることも、できる人には出来るだろう。
明日へ一歩、歩みだしてみればいい。私はしないけどね。
追い風
びゅうう、と風が吹く。後ろからの風で背中が冷たい。リュック背負ってくればよかったな、なんて今さらだけど。
「風強いねぇ」
「そうか?」
「私飛ばされちゃいそう」
「お前、軽いもんな」
……さすがだな、君は。これで無自覚シスコンなんだからたまったもんじゃない。医者としての観点から体重の軽さを言っているだけなのは分かる分、変に期待してしまう。
「寒い、行きは暖かかったのに」
「防寒対策バッチリじゃねえか」
「あ、寒いんだ〜」
「この格好で寒くないとでも?」
まあ、ジャンパー一枚だけはそれなりに寒そう。マフラーでも手袋でもなんでもしておけばよかったのに。
「晴れてたもんね〜」
「今も晴れてはいるんだがな、風が寒い」
……寒いのか、そうなのか。なら、ちょっとやってみようか。
「じゃあ、私のマフラー貸したげるよ」
「は?いや別に」
「い〜からい〜から」
無理やりマフラーを巻いてやる。背が高い分やりにくいが、どうにか巻き付けた。
「どーだ、シンプルだからなかなか似合ってるよ」
「……お前寒いだろ」
「別にいいって、カイロあるし。それより、帰ったら今日買った服着て妹ちゃんに見せてね」
面倒くさそうにする君は相変わらず仏頂面でちょっと怖い。でも、この顔して家族にはポケポケだし医者として優秀だし不器用なだけでかなり優しい。私のマフラーを巻いた君を見ながら家に帰る、なんて贅沢。今日ばっかりは、冬の追い風にも感謝しておくとしよう。
君と一緒に
「君さぁ……たまには小洒落た服でも買ったら?」
「なんでだ」
「一応、私が隣歩いてんだからさ……」
ショッピングモールは大盛況、子供たちがお年玉を使いにやってくる。そんな中で、柄もない灰色のパーカーにズボン。まあよくある感じではあるが、生憎隣の私はロリィタ寸前の量産服。釣り合わないにもほどがある。
「本なかった分お金余ってるでしょ?」
「その分貯金が増える。今服なんか買うよりいつか見つけた本を買うほうがよっぽどいい」
まあ、それはそうなんだけど。欲しくないものにお金なんか使いたくない、それはこっちだって分かってる。君は着飾ることは好きではないものね。
「それ、妹ちゃんに言われても同じこと言える?」
「あいつはそんな事言わない」
「…………そうだね、言わない」
全く、このシスコンは妹のことを信じて疑わない。そして妹もそんな兄を信じて疑わない。無理なことを言わないのは二人に共通する長所だ。
「じゃあ分かった、私が買ったげる」
「お前金ねえだろ、変な事に使うな」
「いいじゃん、カッコいい人の隣を歩きたいな〜」
「……まあ、勝手にしろ」
「よーし!とりあえずあっちのお店だ〜!」
やっぱり、君はいい。私のやりたい事を咎めない。興味がないだけかもしれないけど(妹には過保護なシスコンだからね)、私にはそれが心地よい。ショッピングは、気の合う君と一緒に。
冬晴れ
「晴れたね」
「晴れたな」
「絶好の買い物日和だ」
「買い物に天気は関係ない気がするが」
「わかってないなぁ、気分だよ気分」
本当はそれ以外にも、雨降りの中荷物を運びたくないとか、雨降りの中歩いてショッピングモールに行くのが大変だからとか、まあいろいろあるがそれらは雨が降っているか否かの問題だ。曇りでも少し暗い程度。但し、今は冬である。
「それにさ、結構歩くんだからあったかいほうがいいじゃない」
「まあ、それには同感だな」
日が出ていたほうが暖かいからね。今日は風も強くないし、本当に買い物日和。
「昨日は何でか忙しかったもんね」
「本当は福袋が欲しかったんだかな」
「お金あるの、今だけだもんね〜」
「福袋が売ってるのは正月だけだ。売れ残った不評なやつしか残ってない」
「まあ何でも買えばいいじゃない」
お年玉をもらってこっそり喜んでたの、知ってるからね。もうそろそろ君もあげる側だ。まあ、あのおばさんたちはいつまでもくれそうだけど。暖かい家、暖かい家族。空は快晴なり。
「あったかいな〜」
「着込みすぎたか?」
「確かに、手袋は要らなかったかも」
今日は冬晴れ、絶好の買い物日和!
幸せとは
「幸せって、なんだと思う?」
「なんだ、藪から棒に」
いきなりこんな事を言ってみる午後四時。暇そうにしている様子が、妙に幸せそうに見えた故の問だった。
「なんかね。私は最近、幸せになったばかりだよ」
「いいことでもあったか?」
「君に会えて、救われたから」
「……そうか?」
君は首をひねる。はたから見ても随分救われたと思っているが、君にとっては些細なことだったようだ。これだけ救われて些事ならば、では幸せとは。
「……別に。不幸じゃないなら幸せだろ」
なるほど、そうなのか。
「まあ、人によるだろうけどな。それに満足できなきゃ、いつまでも幸せなんてこねえよ」
そうか、君はそんなふうに思っていたのか。なんだか、ますます君という生物を理解できなくなってきたような気がする。だって、君はまだ私と同じくらいの歳しか生きていないはずだろう?それなのに、随分と基準が低い。通りで何してても幸せそうなわけだ。そんなのまるで、
「ねぇ、君は実は仙人だったり?」
「しねぇ。なんでそうなるんだ」
さすがになかった。でも、わかってきた。
「やっぱり、君といられて幸せだ」