俺にとっての鐘の音は、公園や海にあるイメージだ。
毎年、新年に日の出を見に行く海と、地元の公園には鐘があった。それらにある鐘からは、ぶら下がった紐があって、幼い頃の俺は、背伸びをしても届かないそれに、憧れを抱いていた。
大人が皆一斉に鐘の音を響かせていく。ある人は恋人と、ある人は友達と、ある人は一人で、続々と響かせていく。
俺にとって鐘の音は大人の証だ。一人で響かせられるのは大人だけ。
昔は、一人で鐘を響かせる事が出来る自分が誇らしかった。
だけど、ある時からそれが出来なくなった。意地でも一人で鳴らそうとした。周りが信用できなくて、全て自分で抱え込んで。
限界を迎えて倒れて、初めて一緒に鐘を鳴らされて。最初はショックだった。一人で鳴らせなくなって。俺を馬鹿にしていると思った。
でも、そんな事なくて。そこにあったのは優しい目で。徐々に誰かに手伝って貰いながら鳴らすのも、悪くないと思えたんだ。
7
隣の外飼いのワンちゃん。
君は半分飼育放棄されているよね。俺が見た限り、ご飯は貰っているけれど、散歩もブラッシングも、一度もされていなかった。今だから言えるけど、俺はそんな君がとても憐れで、どこか一方で自分を重ねていたんだよ。
いつしか、うとうとと眠る時間が多くなっていったね。
次、目が覚めるのはいつだろうかと心配しながら思っていたよ。
今は、俺の方が心配される側かな。最近は、少し走ると胸が息苦しくてしょうがないよ。
つぎ、君が目覚めるまでに、俺は元気にならなくちゃね。絶対に君を看取って、天国に行った時、今度は俺と一緒に暮らして欲しいってプロポーズしたのだから。
だから、ちょっとだけ待っててほしいんだ。俺が天国に行くには、悪行を重ねすぎてしまったから。
だいじょーぶ、君だけを天国に置いて行く、なんてこと、してやんないよ。
ああ、でも、願わくば、俺が天国に行く前に、君が天国で多くの友達に囲われていると良いな。君が幸せになれるように。俺一人では限度があるからね。
6
病室
それは怖かった事と嬉しい事、どっちもあった場所。
まずは怖かった事から。
ある時、おじいちゃんが入院した。その時はまだ小さくて、どうして入院したのかは今も分からない。ただ、点滴によって赤黒くなった腕と、やせ細ったおじいちゃんを見て、怖くなった事は覚えている。
次は嬉しい事。
ある時、妹が生まれたのだ。俺よりも4歳年下の小さい赤ちゃん。赤くて、丸っこくて、すやすや眠っていた。俺は不思議で、可愛くて、大事にしようと心に誓った事を昨日の事のように覚えている。
病室って喜怒哀楽が詰まってるな。人によって、場面によって、全然皆の雰囲気が違う。酸いも甘いも噛み分けられるようになりたい。
5
澄んだ瞳の動物。
彼らの瞳はどうしてあんなに澄んでいるのだろうか?
彼らはずっと正直に生きているように感じる。もちろん、彼らにも打算や噓がある。だが、全身全霊で今を生きている感じがして、そこには俺にはない輝きを感じる。ずっと真っ直ぐに世界を見つめている。この過酷な世界の中で。
俺も頑張れば、あんなふうに振る舞えるようになれのだろうか?
俺のペースで、俺が納得のいく世界の見つめ方。理想は彼らだけど、彼らは見え方がバラバラで、全く参考にならない。その多様性といったら困ってしまう。
誰を参考にすればいいのやら。
まだまだ先は長いけれど、どんな見え方でも、それで上手くいくなら良いんだ、と思えるので、これはこれで良いのかな。
4
親から見放され、昔から家事も学校のことも勉強も、何もかも一人で考え、行動してきた俺の心の中は嵐のようだ。
親は確かに俺を愛している。だがそれは、一方通行で俺の事を全く見ない愛。
それでも俺も親を愛している。だが時たま、親への憎しみ、周りの人への羨望で心がぐちゃぐちゃになる。
こんな嵐の中で、それでも立つことができているのは本のおかげ。本が生きる術を教えてくれた。どうすればいいのか、どう考えればいいのか、本はめげずに教えてくれた。そして本は、俺に夢と友人も授けてくれた。
俺は、俺自身の努力を決して忘れない。
本は俺の第2の両親、いつもありがとう。自分よ、いつもありがとう。
3