「すれ違い」
ふと鼻腔を掠めた香りに、遠い記憶を呼び覚まされる。我が青春の日々だ! 大いなる希望と少しばかりの不安とを抱えた、あの日々。
あの頃わたしの隣にはいつだって彼女がいた。わたしたちはふたりでひとつだなんだと言われていた。それを聞いて彼女がどう思ったかは知り得ないが、少なくともわたし自身もそう思っていた。どこまでも、一緒なのだと。そう信じてやまなかった。彼女さえいればわたしはなんだってできると感じていた。
だが、別れというのは案外あっけないものだ。わたしと彼女は進む道を違えてからというものの、すっかりと疎遠になってしまった。ドラマチックな決別というものもなく、単純に進むべき道が変わり、我々は互いに遠くへと言ってしまった。今考えてみれば、わたしたちの出逢いというのは、交差点のようなものでしかなかったのかもしれない。
振り返り、香りの主の姿を探してみる。しかし、そこには思い当たる姿がある訳でもなかった。まあ、所詮、こんなものなのだろう。
「忘れたくても忘れられない」
この季節になると君のことを思い出すよ。微睡みながらゆっくりとまばたきをする君のことを。
でもあの頃には既に僕達の関係は破滅へと向かっていたね。季節が少しずつ冬へ向かって移ろいゆくように。僕と君は、あの夏のような情熱を遠くに置き去りにしてきてしまった。
それにも関わらず僕に縋ろうとする君は、まるで醜かった。君ではないと思いたいくらいに。だから僕は君が、君であるうちにお別れをしたかった。急いで、急いで、急いで。今すぐに!
そうして、あの時君に触れた感触が、今も僕の手にべったりとまとわりついて離れないんだ。
「やわらかな光」
あなたは輝いていた。
あなたは美しかった。
あなたは唯一だった。
これまで出逢った何者ともあなたは違っていた。
あなたはあなたのことを考えていなかった。
あなたの優しさを他人に分け与えることに躊躇などしなかった。
春の陽のようなあなた。
ずっと傍にいたかった。
そうするつもりだった。
そうできたらよかった。
欲張りな私はそうするだけでは満足できなかった。
今はもう一筋の光も見えない。
「踊りませんか?」
アン・ドゥ・トロワ
リズムに乗って
くるくる回る
アン・ドゥ・トロワ
わたしはここで
ひとりで踊る
アン・ドゥ・トロワ
できることなら
あなたと再び
アン・ドゥ・トロワ
アン・ドゥ・トロワ
アン・ドゥ・トロワ……
「巡り会えたら」
またここで会いましょう。
その時にはもう、わたしとしてのわたしじゃないかもしれないし、
あなたとしてのあなたじゃないかもしれないけれど。
それでもいいよね。