ほねこ

Open App

「すれ違い」

 ふと鼻腔を掠めた香りに、遠い記憶を呼び覚まされる。我が青春の日々だ! 大いなる希望と少しばかりの不安とを抱えた、あの日々。
 あの頃わたしの隣にはいつだって彼女がいた。わたしたちはふたりでひとつだなんだと言われていた。それを聞いて彼女がどう思ったかは知り得ないが、少なくともわたし自身もそう思っていた。どこまでも、一緒なのだと。そう信じてやまなかった。彼女さえいればわたしはなんだってできると感じていた。
 だが、別れというのは案外あっけないものだ。わたしと彼女は進む道を違えてからというものの、すっかりと疎遠になってしまった。ドラマチックな決別というものもなく、単純に進むべき道が変わり、我々は互いに遠くへと言ってしまった。今考えてみれば、わたしたちの出逢いというのは、交差点のようなものでしかなかったのかもしれない。

 振り返り、香りの主の姿を探してみる。しかし、そこには思い当たる姿がある訳でもなかった。まあ、所詮、こんなものなのだろう。

10/20/2023, 6:11:15 AM