「やさしい雨音」
窓を打つ粒の音。その心地よさに思わずまどろむ。
夢に見るのは遠い記憶。
あるいは、望んだ世界。
私がそこにいて、あなたもそこにいて。
朝露に濡れる花々を見た。
柔らかな青空はやがて雲に覆われ、灰色の空となる。
そこから落ちてくる小さな雫を、私たちは浴びる。
浴びる。浴びる。浴びる。
そして、少しずつ、溶ける。
あなたと私と世界とを隔てる壁が崩れてゆく。
目を覚ますと、窓の外から雨が吹きこんでいた。
窓を閉めてしまえば、もう雨音は聞こえない。
「元気かな」
そっちは暖かいかな?
ここは随分と春めいてきたよ。きっとそんな風に思っている内に、すぐ暑くなるんだろうね。
次に長い夏が来て、短い秋になって、葉が落ちるのを見ながら冬に変わっていくんだ。
そしてどんどん時が経ってふたりはいつか再開できるのかな。できないかもしれないね。それでも、いっか。
ねぇ、あなたは今何をしているの?
どんな表情をしているの?
笑ってくれていたら、いいなぁ。
わからないけど。わからないけれど。
この言葉が必ず届くと信じて、あなたの穏やかな日々を祈ります。
「遠い約束」
あの日の小指のぬくもりを私は忘れてしまいました
あの日交わしたことばすら私は忘れてしまいました
けれどあの日ふたり誓い合った
その記憶が私を励ましてくれるのです
「フラワー」
腕いっぱいの花束を、私からあなたに。
捧げます、捧げましょう。
あなたは喜んでくれるでしょうか。
照れたように笑うでしょうか。
想像します、想像してみます。
何色の花が似合うでしょうか。
包みはどんなのがいいでしょうか。
最後のプレゼントを、私からあなたに。
「一輪の花」
そこにあるでしょう、美しいものが。私が手折ったの。どうしても手元に置いておきたくて。毎日水を変えているわ。その度にふわりと舞う香りに、私はますますあれを気に入っていく。でもね、でも。駄目みたい。もうじきお別れをしなくては。少しずつ元気が失われていくのを、見て見ぬふりをしていたけれど、そうもいかなくなってしまった。悲しいけれど、何事もそういうものよね。残念だわ。そうそう、違う話も聞いてくれる? 今日、綺麗な花を見かけたの。それはうっとりとするほど可憐で、可愛らしかったわ。