「既読がつかないメッセージ」
おはよう
いってきます
ただいま
おやすみ
ラリーを返してくれる
毎日毎日同じように
けれどあの日変わりました
以来私は虚空に挨拶
あなたの声を望めども
遠く叶わぬ夢となり
それでもやめることはできない
もしかしたら、もしかしたらを望んでしまう
「秋色」
鮮烈な夏が去り
世界が色彩を失いゆく
その過程がこれらです
どうせ皆朽ち果てるのに
色とりどりに賑やかす
それを私は寂しく思うのです
物悲しく思うのです
これは同情なのでしょうか
それとも単に感動している?
どちらであっても、
冷たくなる空気に
身体の芯を冷やされます
「靴紐」
下手くそだな。それじゃ駄目だよ。
何度やっても同じなんだ。
見とけよ、こうだから。
難しくて分かんないよ。
できるようになればどうってことないから。
けど……。
ちゃんと見ろよ。
うん。
そうして繰り返し
あなたはいつしか諦めて
わたしも自分を諦めて
お互い気まずくなりました
足元でぐちゃぐちゃに結ばれた紐を
わたしは黙って見つめました
次第に視界が滲んできて
虚しく悲しくなりました
あなたも何故だか泣きだして
ふたりわんわん声を上げ
しばらくそのまま泣き続け
いつしか日も暮れだした
辺りが暗くなってきて
不安な気持ちになりながら
最後にもう一度、を決意して
わたしは紐を解きました
できた?
できてる。
よかった。
よかったぁ。
じゃあ帰ろう?
うん。
「答えは、まだ」
ここにいる
ここにいる
ここにいて
ここにいた
それは確かなのに
確かだったのに
わたしという形は
いつしか解けて
わからなくなりました
そのまましばらく
漂って
漂って
漂っていたら
ふたたびわかる日が来ると
誰かが教えてくれました
だからわたしは
そうしました
そうしています
けれど
いつまで経っても
どれほど漂っても
わからないままなのです
「フィルター」
あなたから見た私は
一体どんな姿かしら
私から見たあなたは
何よりも美しいのよ
あなたという輝きを
私の目で屈折させて
そうして投影すれば
誰もがそれを知るの
けれども、けれどね
私は意地が悪いから
誰にも見せたくない
私だけで見ていたい
あなたという存在を
誰も知らないでいて
そんな惨めな願いを
私はずっと抱いてる