真夜中の公道が好きだ。
家々の灯りは落ち、煌々と五月蝿い店の明かりもない。
ただ電柱の無機質な白と信号機の赤黄青。
その他はだだっ広い暗闇だけ。
人も獣も車も無い。できれば濃霧だと尚良い。
私の車だけがヘッドライト光らせて、やや法に触れる速度でアスファルトを轢き殺していく。
夜を独り占めしたみたいなスリルが堪らない。
夜明けまで幾許もない夜を謳歌しなければ。
眠りにつく前に、今日を思い出す。
何か良かったことが1つでもあればいい。
それさえあれば、ふんわりとした心地で眠りにつける。
哀しい事はあっただろうか。
耐え抜いた自分を褒めちぎって目を閉じよう。
起きたらきっと元通り。
雨音が一緒にあるといいと思う。
窓硝子に叩きつける水玉の音は何となく心音に似ていて
落ち着く気がする。
眠りにつく前にもう一度だけ、誰かの姿を思い出す。
集めた宝石達を手元に閉じ込めて
箱庭を創る
喜ぶ顔が見たくて
怒るやつもいるだろうけれど
哀しいことはできるだけ生じないように
楽しいことで溢れかえればいい
広くて狭い理想郷
どうか此の掌から擦り抜けていかないで
奮発して買ったアンティーク調の食器棚。白い壁の台所にはあんまり似合ってないけれど個人的には満足している。
戸棚を開けば、これもまた自分が気に入ったものだけを集めたカップとソーサー。最近のお気に入りは誕生日祝いに貰った、白地に茶色の横ラインの入ったすこしゴツめのティーカップ。
実はもうひとつ押し付けられた色違いのカップもあるのだが、これは贈り主が尋ねた時にこれに紅茶を淹れてくれと強請られている。既に何度か使ったお揃いのカップは茶渋が残らないように大切に、壊さないように大事に丁寧に扱っているからすっかり愛着が湧いてしまった。
この緑色の施されたお揃いのカップが有る限り友人が訪ねて来てくれるというだろうという期待も込めて。
棚の中に並んだ紅茶の缶を眺めて小さく唸る。
今日はどれにしようか。
大切な器に淹れる紅い液体はとびきりのものにしなくては。ストレート?ミルクティー?フレーバーティーも捨て難い。お茶請けは何にしよう。焼き菓子でもいいけれどたまには果物なんかでもいい気がしてきた。
悩みに悩んで手に取った紅茶の缶から茶葉を…2人分掬い上げる。調度沸いた湯をポットの中に注いで蒸らす。
その間に今日は横着をしないで洒落た籠の中へ焼き菓子を詰めた。フィナンシェとアーモンドのクッキー。近所の洋菓子屋で手に入れたお気に入りの菓子だ。
そうこうしている内に自分が好みだと認定した時間を迎えてしまった。慌ててポットの中身をティーカップへ注ぐ。
ふわりと品のいい香りが鼻腔を擽った。
窓に反射した自分の顔の口許が緩んでいる事に気が付いてしまい、少しだけ気恥ずかしくなる。
ちょうどその時、ぴーんぽん、と間の抜けたインターホンが鳴り響いた。タイミングを見計らったかのようなその音に堪えきれず吹き出して笑いながら床へスリッパの底を叩き付けるようパタパタと音を鳴らして玄関へ向かう。
「いらっしゃい。来ると思っていましたよ。」
「なんや、バレとったんか。…紅茶の香りすんな、淹れたとこ?」
「まさに今淹れたところです。さぁ、どうぞ。」
「ほな邪魔すんで。」
難しい事を言ってくれるじゃないカ。
そもそもソイツの定義って何なんだ?
定義付けられるようなものじゃないだなんて云うけれど私にはどうしたって定義を求めたくなるものの一等上にあるんだよ。
そもそもだがね、私は君を100人もいらないんだよ。
君一人で腹一杯だと云うのにそんなものを世の人は100人
デキルカナー?なんて挑戦するのかい。馬鹿げてるね!
まあそういうことだよ。私にとっての君みたいなのがそうだと思うんだが違うかね。
私は違うと考えるよ。
友達なんてかっるい間柄じゃないだろう、俺達は。