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10/10/2024, 1:30:21 PM

「 ₍₍⁽⁽ココロ₎₎⁾⁾

 見て、沙都子!
 ココロが踊っているよ。
 かわいいね」
「キモッ」
「 ココロ

 沙都子の心無い言葉のせいで、ココロは踊るのをやめてしまいました
 お前のせいです
 あ〜「ウザい」ああああ」

  ビリビリビリビリ。
 なんということでしょう。
 沙都子によって、私のココロがズタズタに引き裂かれてしまった!
 これには抗議せざるを得ない。
 
「なんて酷いことをするんだ!」
「百合子も大げさね。
 『ココロ』って書いただけのルーズリーフじゃない」
「心は傷つきやすいから、優しくしないといけないんだよ!」
「それが通じるのは小学生までよ
 高校生にもなってやるもんじゃないわ
 それに、それはゴミでしょう?」

 相変わらず、酷い言い草だ。
 私のココロになんの恨みがあるのか?
 さては私の人権を認めてないな。

「ところで、なんで『ココロ』?
 元ネタはサボテン(₍₍⁽🌵₎₎⁾)だったわよね?」
「今日、国語の授業で、夏目漱石の『こころ』をやったじゃん」
「それでか……」
「で、サボテンとこころを悪魔合体させてみた」
「しょうもな」
「それに今の沙都子はココロ踊っているだろうから、私が表現してみたの」

 私がそう言うと、沙都子は味わい深い表情になる。
 言ってることが伝わらなかったようだ。
 でも私と沙都子はツーカーの仲、気持ちを読むのは造作もない
 この顔は『何言ってんの、お前』である。

「沙都子は『こころ』を読んだら心が躍るでしょ」
「うん、なんで?
 なんで『こころ』を読んだら、私の心が踊るのかしら?
 本は好きだけど、別段文学少女ではないわよ」
「ええ!?
 沙都子、誰かが不幸になる話好きでしょ?
 寝とられて裏切られて、Kが絶望するシーンはぞくぞくしたでしょ?」
「あなた、私のことをそんな風に見ているのね」
「だって、沙都子はいつも私をいじめて喜ぶくそ野郎でしょ――
 待って、顔が怖いよ」

 沙都子が満面の笑みを浮かべる
 でも私と沙都子はツーカーの仲、裏の気持ちを読むのは造作もない
 この顔は『よし、絶望させるか』である。

「すいません、言い過ぎました、ごめんさない」
「何を謝っているの百合子。
 私は何も怒ってないわ。
 何も、ね」

 ひえ、怒ってる。
 何か怒りを和らげるものを……
 そうだ!

「沙都子様、ココロ二号を献上しますので、どうか怒りを鎮めてください」
「……なんで、それもう一枚あるのよ」
 ココロ二号を見て、沙都子の怒りが若干収まる。
 呆れつつも、沙都子はココロ二号を受け取る。
 いけるか?

 ビリビリビリビリビリ。
 沙都子は受け取ったココロ二号をびりびりに破く。
 どうやら沙都子を鎮めることは出来なかったようだ
 万事休す。

「これ、意外と気持ちいいわね」 
 その時、奇跡が起こりました
 沙都子はココロを破くことで、ご機嫌になったのです。
 ……なんで?

「許して欲しいって言ったわよね」
「はい」
「ならこのゴミを、もう一つ作りなさい」
「はい」

 だけど、私には逆らう選択肢などない。
 私はルーズリーフに『ココロ』と書いて、沙都子に渡す。
 そして沙都子は渡されたココロ三号をびりびりに破く。

 沙都子は無表情で、何も感慨はなさそうだ。
 でも私と沙都子はツーカーの仲、気持ちを読むのは造作もない
 この顔は『ココロオドル』である。

「沙都子、もう一枚作ろうか?」
「……いえ、いらないわ」

 少し恥ずかしそうに、そして満足したような顔で微笑む沙都子。
 これはツーカーでなくても分かる。
 この顔は『スッキリ』である。

「言ってくれればまた作るよ。
 別に手間じゃないし」
「……ならまたお願いするわ」

 沙都子って、紙を破ると快感を得るタイプなんだな
 私は沙都子の意外な一面を見て、ちょっとだけ『ココロオドル』のであった。

10/9/2024, 1:32:04 PM

 拝啓、アナタ様。
 いかがお過ごしでしょうか?
 最近過ごしやすい季節になりましたね。

 わたくし、アナタの部屋にあるエアコンです。
 はい、夏の間ずっとあなたの部屋を冷やしていたエアコンで間違いありません。

 突然の手紙に、アナタはきっと驚かれたことでしょう。
 申し訳ありません。
 ですが、どうしてもお伝えしたいことがあるのです。
 そのことを伝えるために、こうして筆を取りました。
 手紙を書くのは初めてなので、おかしなところがあっても笑ってお許しください。

 つい先日までの地獄のような猛暑も鳴りを潜め、とても快適な時期になりました
 夏の間は私に頼りっきりだったアナタも、最近は私をお使いになりませんね
 いえ、嫌味を言っているのではありません。

 アナタの部屋を快適にするのが我が使命。
 ですが、私に頼らずともアナタが快適に過ごせているのならば、それに越したことはないのです。

 ただ急にお暇を頂いたので、時間を持て余しているのは確かです。
 その時に何か出来ないことは無いかと探したのですが、お世話になっているアナタに手紙を書くことを思いつきました。
 初めて手紙を書きますが、とても楽しいものですね。

 ごめんなさい。
 私が言いたいことは、そうではないのです。
 こういった機会がないためか、思った事をそのまま書いてしまいますね。
 ですが、このままでは話が進みません。
 まだ話したいことはたくさんありますが、本題に入りましょう。


 エアコンのフィルターの掃除はお済みでしょうか?

 今の内に準備をしていただければと思います。
 私は部屋を快適にすることは出来ても、フィルターを掃除することはできません。
 ご面倒をおかけしますが、なにとぞよろしくお願いします

 もしもフィルターの掃除を怠ってしまうと、アナタの部屋を快適に出来なくなってしまいます。
 知り合いのエアコンに聞いたのですが、埃が溜まったことで喉を傷めた人もいるそうです。
 アナタに快適に過ごしてもらうためにも、ぜひともフィルターの掃除をお願いいたします。

 面倒だからと言って、後回しもいけません。
 秋は短いもの。
 すぐに冬はやってきます。
 その時になってフィルターの掃除を始めると、その分アナタが寒い思いをしてしまいます。
 そうならないためにも、今の内にお願いします。

 と、長々書いたのですが、なんだか疲れてしまいました。
 慣れないことをしたからかもしれません。
 手紙を書くのはここまでにして、私は休もうと思います。

 でも心配しないでください。
 必要になったらすぐ呼んでいただければ、すぐに部屋を快適にしてみせます。

 それでは、冬の到来までの束の間の休息ですが、ゆっくりと休みたいと思います。
 アナタの方も体調を崩されないように、ご自愛ください
 また会いましょう。

 敬具。


P.S.
 フィルターの件、本当にお願いしますね。

10/8/2024, 1:10:58 PM

 カシュ、カシュ。
 僕の部屋に筋トレ用の握力ハンドグリップの擦れる音が響き渡る。
 今使っているのは100均で買ったものだ。
 音こそうるさいが意外と使いやすい。
 おかげで僕の野望は達成できそうだ。

 ……そう僕には野望がある。
 鍛える事は手段であり、真の目的は別にあるのだ。
 そのため僕は筋トレを続けてきた。

 あれは一か月前のこと……
 休憩時間、廊下をぶらついていて、あるものを見つけた。
 火災報知機である。

 特に何の変哲もない火災報知器。
 別に気になる点があったわけじゃないけど、僕は何となく眺めていた。
 
 そして目を惹いたのは、赤いボタン。
 そこには『強く押す』と書かれている。
 僕は思った。
 『押すとどうなるのだろう?』と……

 もちろん必要のないときに押してはいけないことは知っている。
 だから一度はやめた。
 怒られるからだ。

 でも僕は気づいてしまった。
 周囲には誰もいないことに……
 つまり、押してもばれないという事
 僕は周囲の気配を探りつつ、ボタンに指を伸ばす。

 だけど、押せなかった。
 思い直したわけじゃない。
 何度やっても押せなかった。
 『強く押す』ボタンを、『強く押す』ことが出来なかったのだ。

 僕は自身の非力さを痛感し、屈辱にまみれ、逃げるようにその場を後にした。
 そして誓った。
 体を鍛え、絶対にボタンを押してみると……

 そして今日。
 鍛えに鍛えたこの体。
 きっとボタンも強く押せるだろう。

 僕は火災報知器の前に立って、深呼吸。
 ボタンに指を添え、力を込めて――押す!

 ジリリリリリリリ
 辺りにけたたましい音が鳴り響く。
 成功だ。

 あの『強く押す』ボタンを、『強く押す』ことが出来た。
 これで僕の野望は達成された。
 感動で泣きそうだ

 とゆっくりしたいところだが、すぐに先生が来るはず。
 見つかる前に、早く逃げよう。

「おい」
 突然の声に驚いて振り向くと、そこには体育の先生がいた。
 この令和の時代、暴力を厭《いと》わないとんでもない教師だ!

 なんで先生が……
 あっ!
 そういえば、押す前に周囲の確認をしていない。
 気持ちが先行しすぎて、身の安全を確保を忘れていたみたいだ。
 不覚……

「お前、このボタン押したな?
 必要なく押しちゃだめだって知っているよな?」
「いえ、人違いで――」
「バカモン!!!!」

 先生は、あろうことか僕の頭を思いっきりぶん殴る。
 なんて奴だ。
 教師の風上にも置けない。

「暴力だ!
 虐待だ!」
「お前がバカをするからだ!
 親も呼ぶからな!」
「そんな!」

 職員室まで連行された僕は、先生から説教と、力の込められた拳骨を貰う羽目になるのであった。

10/7/2024, 1:49:46 PM

 私の名前は須藤霧子、『刹那に生きる』がモットーの女子校生!
 けれど私には、誰も知らない秘密があるの。
 それは――

 私が転生者だっていう事!

 前世でブラックに勤め、働きすぎて死んでしまった私……
 でも神の奇跡か、悪魔の悪戯か、ともかく私は第二の人生が始まったの!
 よーし、前世で人生を謳歌できなかった分、今回は全力で楽しむぞー!

 って言いたいんだけど、そうは問屋が卸さない。
 転生先の世界は、生まれ変わる前によくプレイしていたゲームの世界。
 でもこのゲームと言うのがとんでもない曲者なのよ!

 プレイした人間が『ストーリー、ゲーム性、キャラクターの全てが一級品』と称えるこのゲーム。
 一見『神ゲー』と思いそうだけど、とんでもないわ!
 このゲームは、プレイした人間が口を揃えて『クソゲー』と答える特級呪物なの!

 その理由とは何か?
 とにかくバグが多いのよ
 『犬も歩けば棒にあたる』よろしく、『プレイをしたらバグる』のが、このゲーム。

 当然この世界に転生した私も、毎日のようにバグに遭遇しているわ。
 しかも現在進行形で……

 今朝、朝食でパンを食べていた時の事。
 突然視界が真っ暗になって、過去の出来事が流れ始めたの。
 通称『走馬灯バグ』。
 これまでの出来事が走馬灯のように、回想されるバグよ。
 死にかけてもないのにね。

 プレーヤーたちの間では有名なバグで、いきなり起こるし、流れている間は操作不能という恐ろしいバグ。
 しかもこのゲームバトル要素もあるんだけど、バトルの都合などお構いなしにバグるので、そのままタコ殴りにされる。
 ラスボスの時にやられたことは、今でも許してない。

 そして、この『走馬灯バグ』は、これでも大人しい方という事実。
 場合によってはラズボスの魔王が転校して来るとかあるのよね……
 ていうか、この前転校してきたわ
 このゲームの恐ろしさが分かっていただけたかしら?

 と愚痴ったところで、何も状況は好転しない。
 私の視界は、走馬灯で埋め尽くされたまま。
 今は母親におむつを変えられているシーンよ。
 ……誰得だよ!

 これでは学校に行けた物じゃない。
 前世では、馬鹿なバグの数々にガハハと笑ったものだけど、実際自分の身に降りかかると全く笑えないわね。

 はあ、仕方ない。
 母親に言って学校を休ませてもらおう

「お母さん、今日はバグったので休みます」
『了解』

 お判りいただけただろうか?
 このバカみたいな会話を、お母さんが何も疑問に思ってないことを……

 『始めに混沌ありき』
 『そしてバグが生まれた』
 それがこの世界の神話。

 それほど当たり前のようにバグが存在し、この世界はバグに満ちている。
 バグに迷惑を掛けられているのは私に対してだけではなく、この世界に住む住民も同じ。
 だから世界にはバグに対する理解があり、制度や保証、補填も充実しているわ
 それが良い事なのかは分からないけど……

 ともかく今日は休み。
 私は自分の部屋に(お母さんの手を借りて)戻る。
 このまま漫画を読むぜ!
 と言いたいところだけど、あいにく視界が塞がれている。
 つまり、寝る以外にすることが無い……

 私は手探りでベットに行き、そのまま寝転がる。
 眠れない頭で考えるのは、前世の事。
 どうやら『走馬灯バグ』には、過ぎた日を思い返す効果もあるようね。

 私は、前世で好きでもない労働に身を費やしていた。
 労働はクソと不満に嘆いていたあの日々……
 働けど働けど生活は楽にならず、かなり自暴自棄の日々。
 けれど、あの世界にバグは無かった。

 道理が通って、サプライズもない平和な世界。
 なんて素晴らしい世界だったことか……
 ホント、バグ起こらない世界が懐かしいわ。



 待てよ。
 前の世界では、こうして休むことはあったかしら?
 少なくとも社会人になってからは一度もないわね。
 というか取らせてもらえなかった。

 対してこの世界では、バグによる休暇は社会全体が推奨している。
 申請されたらそのまま通す、『認めない』という発想すらない
 それを知ったときはいたく感激したものだわ
 この世界、前の世界なんて足元にも及ばないわ!

 碌でもない過去を懐かしく思うなんて、私らしくもない。
 どうやらバグによって、感情にも小さなバグがあったみたいね。
 通りでおかしいと思ったわ

 だって私は『刹那に生きる』がモットーの女子高生!
 私は過ぎた日を感傷に思う事は無い!

10/5/2024, 3:29:41 PM

「ねえ、そこのアナタ――」
 秋の夜道には気を付けなさい。
 人気のない道なら特に。

「私と一緒に踊りませんか――」
 もし声を掛けられることがあれば、すぐに逃げなさい。
 決して応じてはいけません。
 
「死ぬまで!」
 応じたが最後、死ぬまで踊らされてしまうのだから……


 ◇

「ねえ、ケイコ。
 趣旨分かってる?」
「分かってるよ、マサト。
 今年のハロウィンに相応しい怖い話でしょ」
「分かってない!
 ハロウィンだよ、肝試しじゃないんだよ」

 ケイコはキョトンとした顔をする。
 ケイコの天然振りはよく知っていたつもりだが、まさかここまでとは思いもしなかった。
 彼女なりに真剣なのだろうが、ここで怖い話は

「確認するよ、ケイコ。
 『今年のハロウィンに参加するから、なんかいい感じのアドバイスが欲しい』って、僕言ったよね?」
「うん、だから話したでしょ、恐い話」
「ここからどうやって、仮装につなげるんだよ……」
「ドレス着てみる?」
「聞いた僕がバカだった」

 高校進学して初めてやって来た東京の街。
 友達のいない自分を変えようと、僕はハロウィンの参加を決めた。
 けれど陰キャの僕が、いきなりハロウィンデビューは厳しい。

 そこでケイコに助力を仰いだのだけど、相談相手を間違えたようだ。
 このままでは、ハロウィンという舞台にすら立てない。
 どうしたものか……

「じゃあ、一緒に踊るのはどうですか?」
「こだわるね」
「これで、皆の視線を集める事間違いなしですよ」
「そら、道の往来で踊っている奴がいたらねえ。
 でも僕が聞きたいのはそういう事じゃない」

 俺はケイコの提案を拒否する。
 仮装の話しをしてるのに、なんで踊りの話になるかな?

「なんか冷めてますね。
 ハロウィンが嫌いなんですか?」
「うーん、嫌いと言うか苦手かな。
 元々宗教系のイベントなのに、騒ぎすぎと思っている
 被害妄想だとは思うけど、なんだか踊らされている気がしてさあ」
「別にいいじゃないですか。
 『同じバカなら踊るバカ』って言うでしょ」
「そこまで割り切るには、勇気が足りない」
「意気地なしめ」
「そこまで言う?」

 まったくケイコの強引さには呆れてしまう。
 そんなに踊りたいなら一人で踊ればいいのに。

 とはいえ、ケイコには感謝している。
 ケイコほどいい奴は、僕は知らない。
 さっき会ったばかりの他人だっていうのに、どうしてこんなに親身になってくれるのか……
 感謝してもしきれない

「そうだ、一度ここで踊りませんか?
 練習すれば、本番で踊れるかも」
「おい、引っ張るなよ」
「ほらほら、立って。
 恥ずかしがらずに踊りましょうよ。




 死ぬまで」

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