「ねえ、そこのアナタ――」
秋の夜道には気を付けなさい。
人気のない道なら特に。
「私と一緒に踊りませんか――」
もし声を掛けられることがあれば、すぐに逃げなさい。
決して応じてはいけません。
「死ぬまで!」
応じたが最後、死ぬまで踊らされてしまうのだから……
◇
「ねえ、ケイコ。
趣旨分かってる?」
「分かってるよ、マサト。
今年のハロウィンに相応しい怖い話でしょ」
「分かってない!
ハロウィンだよ、肝試しじゃないんだよ」
ケイコはキョトンとした顔をする。
ケイコの天然振りはよく知っていたつもりだが、まさかここまでとは思いもしなかった。
彼女なりに真剣なのだろうが、ここで怖い話は
「確認するよ、ケイコ。
『今年のハロウィンに参加するから、なんかいい感じのアドバイスが欲しい』って、僕言ったよね?」
「うん、だから話したでしょ、恐い話」
「ここからどうやって、仮装につなげるんだよ……」
「ドレス着てみる?」
「聞いた僕がバカだった」
高校進学して初めてやって来た東京の街。
友達のいない自分を変えようと、僕はハロウィンの参加を決めた。
けれど陰キャの僕が、いきなりハロウィンデビューは厳しい。
そこでケイコに助力を仰いだのだけど、相談相手を間違えたようだ。
このままでは、ハロウィンという舞台にすら立てない。
どうしたものか……
「じゃあ、一緒に踊るのはどうですか?」
「こだわるね」
「これで、皆の視線を集める事間違いなしですよ」
「そら、道の往来で踊っている奴がいたらねえ。
でも僕が聞きたいのはそういう事じゃない」
俺はケイコの提案を拒否する。
仮装の話しをしてるのに、なんで踊りの話になるかな?
「なんか冷めてますね。
ハロウィンが嫌いなんですか?」
「うーん、嫌いと言うか苦手かな。
元々宗教系のイベントなのに、騒ぎすぎと思っている
被害妄想だとは思うけど、なんだか踊らされている気がしてさあ」
「別にいいじゃないですか。
『同じバカなら踊るバカ』って言うでしょ」
「そこまで割り切るには、勇気が足りない」
「意気地なしめ」
「そこまで言う?」
まったくケイコの強引さには呆れてしまう。
そんなに踊りたいなら一人で踊ればいいのに。
とはいえ、ケイコには感謝している。
ケイコほどいい奴は、僕は知らない。
さっき会ったばかりの他人だっていうのに、どうしてこんなに親身になってくれるのか……
感謝してもしきれない
「そうだ、一度ここで踊りませんか?
練習すれば、本番で踊れるかも」
「おい、引っ張るなよ」
「ほらほら、立って。
恥ずかしがらずに踊りましょうよ。
死ぬまで」
10/5/2024, 3:29:41 PM