<読まなくていい前回のあらすじ>
百合子と沙都子は百合子は、大金持ちの沙都子の家に行くほど仲がいい。
今日も今日とて百合子は沙都子の家に遊びに行く。
先日、百合子は沙都子の家の物を壊してしまい、百合子の金で肉を奢ることになる。
初めて食べる『人の金で食べる肉』にご満悦の沙都子。
それ以来、百合子は物を壊す度に焼き肉を奢らせられることになった。
だが、食べすぎからか沙都子は少しずつふくよかになってき……
<本文>
今日も私は沙都子の家に遊びに来ていた。
だが遊びに来るたびに感じる違和感。
私はついにその疑問を晴らすことにした。
「ねえ、沙都子少しいいかな」
「何?」
沙都子は気だるそうに私のほうに振り向く。
「沙都子、太った?」
「太ってないわ」
沙都子は即座に反論する。
「ほんとに?」
私が聞き返すと、沙都子は目をそらす。
「ほらやっぱり」
「太ってないってば」
「事実を認めるんだ。現実を認めることを怖がっても、何も改善しない」
「うるさいわね。そういうあなたは、なぜ太らないの?
私と同じくらい――いいえ、それ以上に食べてるくせに」
「そりゃ、入ってくるのが多くても使う分も多いからね」
「そういえば、運動部を掛け持ちしてるって言ってたわね……」
「沙都子も運動部入ればいいのに」
「嫌よ、運動嫌い」
沙都子は子供の様に駄々をこねる。
「でもさ、痩せるんなら、焼き肉を控えるか運動するか、もしくは両方だよ」
「嫌よ」
「ていうか、焼き肉の度にあんな馬鹿食いしなくても」
「だって、食べ放題よ。少なく食べても多く食べても同じ料金。食べなきゃ損よ」
「沙都子、いつからそんな貧乏性に」
「仕方ないじゃない。おいしいもの!」
「うーん」
どうしたものか。
ここで諦めると言う選択肢はない。
『大切な友人のため』というのもあるのだが、すでに太りすぎなのだ。
少し太いくらいならいじって楽しむんだけど、沙都子はすでにそのラインを越えていた。
なので、これ以上太って気まずい雰囲気になる前に何とかしなくては!
だけどうまい方法が思い付かない
うーむ。
沙都子はゲーム好きなので、なんとかゲームに絡めて……
はっ。
「沙都子、こうしよう。ゲームでやせる。どう?」
「どうって、そんなゲームあるわけ……」
「あるんだなあ、これが!」
私は沙都子の部屋のゲーム棚を漁る。
沙都子はゲームにはまった時、色々なゲームを買い占めた。
そしてゲーマーのサガで、たとえプレイしなくても面白そうなゲームなら買ってしまうという習性がある。
その買ってからプレイしていないゲームの中に『アレ』があるはずなのだ。
私は棚の隅々まで探して――あった。
「これ、このゲームしよう」
「これは……」
あの任〇堂が送り出したエクササイズのゲームだ。
「エクササイズっていう珍しいジャンルだけど、ストーリーは王道ファンタジー。
沙都子、絶対気に入るよ」
沙都子をゲーム沼に落とした私が言うんだから間違いない。
「でも、私、体を動かすのは……」
「沙都子」
「!」
私は沙都子の目をまっすぐ見る。
「沙都子は新しく始める事に、怖がりなの私知ってる。でもさ、ここで変わらないと、ずっとこのままだよ」
「百合子……でも、私は……」
「『あきらめたら、そこで試合終了ですよ』」
「?」
沙都子が顔にハテナマークを浮かべていた。
もしかして、知らない感じ?
仕方ない、こんど漫画沼にも落とすか……
「ともかく、これで運動すれば痩せるから」
「まあ百合子のほうがゲーム詳しいものね。やってみるわ」
そういった沙都子は、執事のセバスチャンを呼んで、なにやら話し合っていた。
多分、何かの専門家を雇うのだろう。
なんにせよ、沙都子がやる気になったのだ。
これ以上沙都子は太ることは無いだろう。
それから百合子は専門のトレーナーを付け、専門家のアドバイスの下エクササイズゲームに勤しんだ。
そして一か月後。
もともと限度というものを知らない沙都子は、限界までエクササイズを行った。
その結果、百合子はどこに出しても恥ずかしくない立派なマッチョに――はならず、前の体形と同じだが前より健康的な沙都子がいた。
「マッチョにならんか。残念」
「ならないわよ。トレーナーにもそこはちゃんと言ったんだからね」
「くっ。マッチョになったらいじり倒せたのになあ」
「それは残念だったわね。まあ、それはともかく――」
沙都子は横にある花瓶――だったものに目をやる。
「今日も焼き肉食べに行くわよ。もちろん、あなたの奢りね」
<読まなくていい前回のあらすじ>
百合子は、大金持ちの沙都子の家に行くほど仲がいい。
この日も百合子は家に遊びに行くのだが、ショーケースに入った宝石をうっかり壊してしまう。
慌てて証拠隠滅を図るも、沙都子にあっけなく見つかり、百合子は絶望する。
だが沙都子は、「これは百合子を釣る罠。宝石はイミテーション」とネタ晴らし。
安心する百合子だったが、沙都子から壊したイミテーションの弁償を要求されるのであった。
<本文>
高そうな車から降りて、辺りを見渡す。
降り立った場所は料理店が立ち並ぶ何の変哲もないグルメ通り。
だが他と違うことを、私は知っている。
この前、この通りの特集をテレビでやっているのを見たのだ。
この通りは星付きの料理店が立ち並んでおり、グルメ好きには有名な通りなのだ。
あの店も星付き、その向こう側も星付き、目に入る店、みーんな星付きで、星が溢れかえっている。
どの店も予約が半年先まで埋まっているほど大人気。
そしてお値段も味相応のお高いもの。
弁償するよりましと、ご飯を奢ることを提案したものの、これは予想外――いや本当は予想できたはずなのだ。
だって沙都子はお嬢様。
普通の庶民が来るような店には来るわけが無い。
弁償額を聞いたとき、冷静さを失ったのが悪かったのだろう。
なんやねん10万って。
いたずらに使う金額じゃねーぞ。
「あのさ、もう今日は帰らない?」
私は目の前の光景にしり込みしていた。
今回の件は自分が前面的に悪いので、下手に出つつ沙都子の様子をうかがう。
「あら、珍しくしおらしいわね。いつもそうだったらモテるわよ」
「モテないみたいに言うな!じゃなくて、これ無理。私の今月のお小遣いどころか一年分あっても足りません」
一品だけならなんとかなるかもしれないけど、それ以上は無理。
沙都子は少食だけど、こういう料理って『量より質』ってやつなので、一品だけではすむまい。
「心配しなくても大丈夫よ。ちゃんとあなたの持ってるお金の事を考えているわ」
え、マジで。
沙都子、もしかして天使?
「あそこよ」
沙都子が指を差したのは、通りを少し外れたところにある焼き肉チェーン店。
星付きではないが、安くてうまい店である。
私も行ったことがある庶民の味方である。
「あー、助かるっちゃ助かるけど。なんであの店?」
「一度やってみたかったのよ、『人の金で焼き肉を食べる』というのをね。こればっかりはお金積んでも食べられるものじゃないわ」
なんだが急に庶民じみてきたお嬢様である。
「……別にいいけど、気持ちは分かるけど」
妙に張り切る沙都子。
そんなに他人の不幸が嬉しいか?
「一つ聞くけどさ。なんでこの通りのここの店なの?沙都子の家からなら、もっと近い店あったよね。チェーン店だし」
なんなら車の中から見た記憶もある。
「それは、星付きの店を見て、あなたが絶望する顔を見たかったからよ」
こ、こいつ悪魔か。
さすがに一言文句を言おうとしたが、沙都子は我先にと焼き肉屋に入っていく。
あらかじめ予約をしていたのか、店員に促されるまま席に案内される。
席に座って渡されたのは、食べ放題用のメニュー。
私の懐事情に配慮したというのは嘘ではないらしい。
「さーて、食べまくりますわよ」
沙都子は今まで見たことがないくらいテンションを高くして肉を注文する。
そして運ばれてくる肉の皿。
これ食べきれるのか?
さすがにストップをかけようと、沙都子の方を見て――そして言うのをやめた。
沙都子の顔が期待でとんでもなく輝いていた。
特に目が輝いていて、目の中に星が溢れていた。
その様子を見て私は覚悟を決める。
いいだろう。
ここまで来たら付き合ってやるのも悪くない。
馬鹿みたいに食べるのも、焼き肉の醍醐味の一つだ。
どんどん焼いて、焼いた側から食べていく。
そして案の定食べすぎ吐きそうになりながらも、車に乗って家に帰るのだった。
後日談。
そして、沙都子は『人の金で食べる焼き肉』がたいそう気に入ったのか、私が何か物を壊す度に肉を奢らされることになった。
減っていくお小遣いもそうだが、少しずつ横に大きくなる沙都子をどう扱ったらいいいのか。
私の悩みは尽きないのだった。
<読まなくてもいい何話も前の前回のあらすじ>
百合子は大金持ちの沙都子と友人同士である。
高い頻度で百合子の内に遊びに行くほど仲がいい。
だが沙都子からは家に来てほしくないと思われている。
というのも百合子は家の物をよく壊し、一年前も一億円以上の雛人形を壊しているからだ。
そんな沙都子の想いを知りながらも、それを無視して家に遊びに来る百合子。
嫌がりつつも百合子を受け入れ、なんだかんだ仲良く遊ぶ二人だったが……
<本文>
いつものように沙都子の部屋で、だべりながらゲームをしていたいつも通りの日常。
対戦ゲームで沙都子に連敗を喫し、巻き返すために気合を入れようとした時の事である。
無限に差し出されるジュースを飲み過ぎたのか、無性にトイレに行きたくなった。
「沙都子、ちょっとタイム」
「どうしたの、百合子。降参かしら?」
「違う。ちょっとトイレ行ってくるわ」
「トイレの場所分かる?」
「大丈夫、何回も行ったから覚えてる」
「いってらっしゃい」
そういうと、沙都子は携帯ゲーム機を脇に置き、本を読み始めた。
その姿はまさに真相の令嬢。
いつも私に対してきつく当たる沙都子だが、こういうのをみるとやっぱりお嬢様なんだなと思う。
「どうしたの?」
見つめ過ぎたのか、沙都子が不思議そうにこちらを見る。
「あー、なんでもない」
私は深く追及されないよう、さっさと部屋を出る。
さすがに『沙都子が綺麗だった』なんて恥ずかしくて言えるわけがない。
部屋を出て右に進み、トイレの方にまっすぐ向かう。
沙都子の家は、お金持ちだけあってかなり大きいので、住人でなければ簡単に迷子になるだろう。
だが私は沙都子の家に何度も来ているので迷うことは無い。
勝手知ったる他人の家である。
トイレへの道を迷うことなくまっすぐ進んでいくと、見慣れないものが目に入った。
近づいてみてみると、それは宝石が飾ってあるショーケースだった。
昨日はなかったと思うので、新しく置かれたものなのだろう。
それにしても家の中とはいえ、とくに警備の人間もいない。
不用心ではないだろうか?
とは言え、ここにこうして飾っているのだから見ていい物だろう。
宝石の名前は『安らかな瞳』。
ネームプレートにそう書かれている。
ショーケースの中でキラキラ光るその宝石は非常に美しい。
ずっと見ていられる。
普段ふざけてばかりいる私だが、宝石は大好きなのだ。
そしてふと思った。
正直、魔がさしたとしか言えなかった。
誰も見ていないし、一度くらい触ってもいいんじゃないかと。
そしてもとに戻せばバレないだろう、と。
周囲を確認してから、透明なショーケースを持ち上げる。
アニメの様に警報音が鳴ることもないことに安心する。
そして宝石を手に取り、触り心地を堪能する。
ふーむ、これが宝石と言うのもか。
なんか特別触り心地がいいかもとも思ったが、別にそんなこともなく、普通のイミテーションとの違いもよく分からん。
ちょっと期待外れだなと思いつつ、宝石を戻そうとして手が滑った。
「あ」
という間に、宝石は地面に落下、粉々に砕けちった。
「……」
今までの人生を走馬灯のように思い出しながら、ある一つの結論を導き出す。
「よし、見なかったことにしよう」
ショーケースを元あった場所に戻し、証拠隠滅を図る。
宝石以外は元通りに戻し、何も起こっていない風に見せかける。
最初から宝石なんて無かったし、私も宝石を触ったりなんかしてない。
あとは何事もなかったかのようにトイレに行き、沙都子のいる部屋に戻ってミッションコンプリートだ。
「あら、百合子。そんなの所で何しているの?」
驚いて振り向くと、離れたところで沙都子と執事のセバスチャンが立っていた。
馬鹿な、部屋にいるはずでは!?
「ななななんとなく。そそそそそっちこそ、なんで」
「私もお花を摘みに来たのよ」
なんてタイミングの悪い。
なんとか誤魔化さないと怒られ――
「あ」
気づけば沙都子は私の隣に立って、ショーケースを覗いていた。
終わった。
なんとか許してもらえるよう言い訳を、いやすぐばれるから謝罪して――
「やっぱり引っ掛かったわね、あなた」
「へ?」
沙都子の予想外の一言に頭が真っ白になる。
「セバスチャン、私の勝ちね」
「自信があったのですが……」
なにやら場違いな会話が聞こえる。
「これ、偽物。イミテーションよ」
「いみてーしょん?」
沙都子の言った言葉を反芻するように繰り返す。
「私セバスチャンと賭けをしたのよ。ここに宝石を置いていれば間違いなく壊すって」
「まさか、本当に手を出されるとは……百合子様の事は、沙都子様のほうがご存じのようですね」
「当然よ。伊達に長い付き合いではないわ。百合子は物を壊す天才なのよ」
目の前で沙都子が誇らしげに胸を張っていた。
めちゃくちゃ言われているが、自分が悪いので言い返すことができない。
それにしても、沙都子も意外とイタズラ好きなんだなと、場違いな事を考える。
こんなイタズラを仕掛けるとは……
お嬢様ではなく、年頃の女の子のような沙都子の一面を見て、なんとなく嬉しく思う私なのであった。
「そうそう、そのイミテーションは弁償してね。安心して、安物だから」
「ウス」
さらば、今月のお小遣い
<読まなくていい前回のあらすじ>
青年は因縁の男を探し出し、対峙する。
男からなぜか交渉を持ちかけられるが、男を殺すことにしか興味がない青年は申し出を拒否。
青年は剣を、男は銃を取り出し、一触即発の状況になる。
だが殺し合いになる前に男は戦う気をなくし、そのまま立ち去ろうとする。
青年は男を逃がすまいと、男に切りかかるのだが……
一方作者は戦慄していた。
『もっと知りたい』がお題だったので前回のオチに「無料体験は終わり。続きをもっと知りたければ♡下さい」(意訳)と書いたところ、普段よりはるかに♡が少なかったのだ。
悪ふざけで書いたものだが、たしかに自分もそのフレーズは大嫌いなので、読者の気分を害したのは自明の理。
大変申し訳ありませんでした<m(__)m>。
少ないとはいえ、♡をもらったので続きを書かせていただきます。
<本文>
「ふう」
青年はホテルの部屋に戻るや否や、そのままベットに身を投げ出す。
安ホテルゆえ、硬いマットレスを不快に感じながら、頭に浮かぶのはあの光景。
ようやく探し出した男を見つけ出すが、まんまと逃げられてしまう。
確かに自分はあの男を切った。
だがまるで霞を切るがごとく、なんの手ごたえもなかった。
切られた男は笑いながら、闇に消えていった。
あの男の事を調べたが、まだ知らないことがあるらしい。
あの男は一体何者?
結論が出ない考えに耽っていると、部屋のドアがノックされる。
「誰だ?」
「ルームサービスです」
青年は訝しむ。
ルームサービス?
頼んでないどころか、そんなものがこの安ホテルにあるかどうかも知らない。
もしかしたらあの男の仲間が自分を消しに来たのかもしれない。
殺そうとしてきた相手を捕まえることで情報が得られる。
そのことを確信した青年は、向こうの思惑に乗ることに決めた。
「分かった。今開ける」
青年は愛用の剣を持ち、警戒しながら扉に近づく。
扉を開けた瞬間、青年の顔に向かって拳が向かってくる。
だが青年はその拳を難なくかわし、逆に襲撃者を姿勢を崩して転倒させる。
転んで地を這っている襲撃者の顔を見て、青年は驚く。
襲撃者は青年と同じくらいの年頃の少女。
彼女は青年の幼馴染であった。
「あー、もう。女の子を投げるなんてひどくない?」
少女は自分から襲ったことを棚に上げ、青年に文句を言う。
「俺を殴ろうとしてよく言えるな。
はあ、まあ入れ」
青年はため息をつきながらも、少女を部屋に招き入れる。
その様子を見て、頬を膨らませながら起き上がる
「こういう時、普通手を伸ばして抱き起すもんじゃない?」
「知らん」
少女は青年に文句を言いながら、部屋の奥へと入っていく。
青年はベットに腰かけ、少女は備え付けの椅子に座る。
「で?なんでここにいる?」
先に口を開いたのは青年だった。
「なんで?それは私が聞きたいが?」
「質問に質問を返すな」
はあ、と少女はため息をつく。
「分かってるでしょ。アンタを追いかけてきた」
「追いかけてくるな、と書置きしたはずだが?」
「それに従う理由なんてない」
少女は青年を睨みつける。
その迫力に青年はたじろいでしまう。
「それに約束したじゃん。君を守るって」
「いつの話だよ。それに俺は男だ。女に守られるなんて格好がつかない」
「今どき古いよ、それ」
「だが――」
「約束した。それとも私のほうが弱いとでも言うのか」
少女の言葉に、青年は反論できなかった。
実際に少女は青年より強い。
先ほどは少女の方が投げられたが、それは少女が本気で殴ろうとはしてなかったから。
もし本気なら立場が入れ替わったことだろう。
「あいつの事探しているんでしょ。私たちの両親を殺した、あの男を」
「ふん、そんな男、興味ないな」
「嘘ばっかり。あんた顔に出やすいの治らないね」
「……」
少女は懐かしそうに青年の顔をみる。
「ねえ、私あの時言ったよね『今日から家族だよ。ずっと隣で守ってあげる』って」
青年は何も言わない。
「だからさ、あんただけの問題じゃないの。あなたの問題でもあるし、私の問題でもあるの。だから、一緒に行こう」
青年は少女を危険に巻き込まないため、一人旅立ったのだ。
「ダメだ。もう家族を失うわけには……」
「私が家族を失うのはいいの?」
「それは……」
「大丈夫、私は死なない」
その言葉を聞いた青年は涙があふれた。
今まで自分を押し殺してきたが、不安でいっぱいだったのだ。
不安を男を殺すとう言う一念のみで抑えていたのだった。
少女は席を立ちあがり、青年の隣に座る。
「安心して、わたしたちは家族だから。ずっと隣にいるから、ね」
少女は、泣いている青年の頭を、子供をあやすように撫でる
「昔、いつもこうして慰めてたね」
青年が泣き止むまで、少女はずっと隣で頭を撫でていたのであった。
「もっと知りたくはないか?世界の真理を!」
「別に」
「!」
青年の言葉に男は驚愕の表情を浮かべる。
「馬鹿な。世界の真理だぞ」
「それがどうした?」
男は激高するも、青年は涼しい顔で答える。
「真理を知ればこれから起こることが全て分かる。悲劇も回避できるし、すでに起こった出来事を変えることも――」
「興味ないね」
青年は男の発する言葉に興味を示さず、持っていた剣を構える。
青年は男を殺す気であった。
「言っても分からんか……」
「言いたいことはそれだけか?」
「見込みがあると思ったのだがな」
男は懐に忍ばせた銃を取り出した。
だが青年はそのことにも動じず、逆にニヤリと笑う。
「その代わりに俺の知っている真理を教えてやろう。タダでだ!」
「断る。タダより高いものはない」
「フ……」
そして両者の視線は交差し、この場に静寂が訪れる。
緊張感が極限にまで高まり、青年が足を踏み出そうとした、まさにその時――
「やめだ」
男は殺気を収め、持っていた銃を再び懐へ納める。
さすがの青年も、この男の行動に動揺を隠せなかった。
「どうした?」
「私も最初は君とやり合う気だったんだけどね」
「リタイアか?」
「いや、気が変わったんだ。君をもっと知りたくなってね」
男は青年に背を向けこの場を立ち去ろうとする。
「また会おう」
「待て!」
青年は男を逃がすまいと走り寄り――
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