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 <読まなくてもいい何話も前の前回のあらすじ>
 百合子は大金持ちの沙都子と友人同士である。
 高い頻度で百合子の内に遊びに行くほど仲がいい。

 だが沙都子からは家に来てほしくないと思われている。
 というのも百合子は家の物をよく壊し、一年前も一億円以上の雛人形を壊しているからだ。
 そんな沙都子の想いを知りながらも、それを無視して家に遊びに来る百合子。
 嫌がりつつも百合子を受け入れ、なんだかんだ仲良く遊ぶ二人だったが……


<本文>

 いつものように沙都子の部屋で、だべりながらゲームをしていたいつも通りの日常。
 対戦ゲームで沙都子に連敗を喫し、巻き返すために気合を入れようとした時の事である。
 無限に差し出されるジュースを飲み過ぎたのか、無性にトイレに行きたくなった。

「沙都子、ちょっとタイム」
「どうしたの、百合子。降参かしら?」
「違う。ちょっとトイレ行ってくるわ」
「トイレの場所分かる?」
「大丈夫、何回も行ったから覚えてる」
「いってらっしゃい」

 そういうと、沙都子は携帯ゲーム機を脇に置き、本を読み始めた。
 その姿はまさに真相の令嬢。
 いつも私に対してきつく当たる沙都子だが、こういうのをみるとやっぱりお嬢様なんだなと思う。

「どうしたの?」
 見つめ過ぎたのか、沙都子が不思議そうにこちらを見る。
「あー、なんでもない」
 私は深く追及されないよう、さっさと部屋を出る。
 さすがに『沙都子が綺麗だった』なんて恥ずかしくて言えるわけがない。

 部屋を出て右に進み、トイレの方にまっすぐ向かう。
 沙都子の家は、お金持ちだけあってかなり大きいので、住人でなければ簡単に迷子になるだろう。
 だが私は沙都子の家に何度も来ているので迷うことは無い。
 勝手知ったる他人の家である。

 トイレへの道を迷うことなくまっすぐ進んでいくと、見慣れないものが目に入った。
 近づいてみてみると、それは宝石が飾ってあるショーケースだった。
 昨日はなかったと思うので、新しく置かれたものなのだろう。
 それにしても家の中とはいえ、とくに警備の人間もいない。
 不用心ではないだろうか?

 とは言え、ここにこうして飾っているのだから見ていい物だろう。
 宝石の名前は『安らかな瞳』。
 ネームプレートにそう書かれている。

 ショーケースの中でキラキラ光るその宝石は非常に美しい。
 ずっと見ていられる。
 普段ふざけてばかりいる私だが、宝石は大好きなのだ。

 そしてふと思った。
 正直、魔がさしたとしか言えなかった。
 誰も見ていないし、一度くらい触ってもいいんじゃないかと。
 そしてもとに戻せばバレないだろう、と。

 周囲を確認してから、透明なショーケースを持ち上げる。
 アニメの様に警報音が鳴ることもないことに安心する。
 そして宝石を手に取り、触り心地を堪能する。
 ふーむ、これが宝石と言うのもか。
 なんか特別触り心地がいいかもとも思ったが、別にそんなこともなく、普通のイミテーションとの違いもよく分からん。

 ちょっと期待外れだなと思いつつ、宝石を戻そうとして手が滑った。
「あ」
 という間に、宝石は地面に落下、粉々に砕けちった。

「……」
 今までの人生を走馬灯のように思い出しながら、ある一つの結論を導き出す。
「よし、見なかったことにしよう」

 ショーケースを元あった場所に戻し、証拠隠滅を図る。
 宝石以外は元通りに戻し、何も起こっていない風に見せかける。
 最初から宝石なんて無かったし、私も宝石を触ったりなんかしてない。
 あとは何事もなかったかのようにトイレに行き、沙都子のいる部屋に戻ってミッションコンプリートだ。

「あら、百合子。そんなの所で何しているの?」
 驚いて振り向くと、離れたところで沙都子と執事のセバスチャンが立っていた。
 馬鹿な、部屋にいるはずでは!?
「ななななんとなく。そそそそそっちこそ、なんで」
「私もお花を摘みに来たのよ」
 なんてタイミングの悪い。

 なんとか誤魔化さないと怒られ――
「あ」
 気づけば沙都子は私の隣に立って、ショーケースを覗いていた。
 終わった。
 なんとか許してもらえるよう言い訳を、いやすぐばれるから謝罪して――

「やっぱり引っ掛かったわね、あなた」
「へ?」
 沙都子の予想外の一言に頭が真っ白になる。
「セバスチャン、私の勝ちね」
「自信があったのですが……」
 なにやら場違いな会話が聞こえる。

「これ、偽物。イミテーションよ」
「いみてーしょん?」
 沙都子の言った言葉を反芻するように繰り返す。

「私セバスチャンと賭けをしたのよ。ここに宝石を置いていれば間違いなく壊すって」
「まさか、本当に手を出されるとは……百合子様の事は、沙都子様のほうがご存じのようですね」
「当然よ。伊達に長い付き合いではないわ。百合子は物を壊す天才なのよ」
 目の前で沙都子が誇らしげに胸を張っていた。
 
 めちゃくちゃ言われているが、自分が悪いので言い返すことができない。
 それにしても、沙都子も意外とイタズラ好きなんだなと、場違いな事を考える。
 こんなイタズラを仕掛けるとは……
 お嬢様ではなく、年頃の女の子のような沙都子の一面を見て、なんとなく嬉しく思う私なのであった。

「そうそう、そのイミテーションは弁償してね。安心して、安物だから」
「ウス」
 さらば、今月のお小遣い

3/15/2024, 10:17:21 AM