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1/9/2024, 9:52:39 AM


 今日は祝日ということで、いつもより遅く起きた月曜日。
 のんびりと家事をこなし、終わるころにはお昼前になっていた。

 のんびりコタツに入っていると、ふと今育てているチューリップのことを思い出した。
 去年の冬にいろんな色が入っているバラエティパックなるものを買い、プランターに植えたのだ。
 チューリップの調子を見るため、後ろ髪をひかれながらコタツから出る。

 と言ってもこの時期はまだ寒いので、チューリップは土から芽を出していない。
 私と同じように、暖かい土の中から出てこないのだ。
 なので水やりくらいしかやることが無い。

 ベランダに出て、プランターの土が乾いていることを確認し(ずっと濡れてると腐る)、プランターに水を注ぐ
 気持ちいいくらい水を吸っていき、土は水を含んだ黒色に変わる。
 これで大丈夫だろう。

 と、水をやったことで、土が少しえぐれたのか緑色の部分が見える。
 チューリップの芽だ。

 私はそれを見て、少しうれしくなる。
 この寒い空気の下でも、着々と花を咲かせる準備をしている。
 なんていじらしい事か。

 きっと春になれば、色とりどりの花を咲かせてくれるのだろう。
 春が待ち遠しい。

 自分も花を咲かせたいものだと思いながら、私はコタツに戻るのだった。

1/8/2024, 9:57:58 AM

 彼氏と一緒に学校の帰り道を一緒に歩いていると、雪が降ってきた。
 雪嫌いなんだよね。
 猫ではないけど、早く家に帰ってコタツに入りたいな。

 そのとき私の頭に天啓が降りてきた。
 これは利用できる、と。

 私たちが付き合い始めて一週間、まだ彼と手を繋いだことが無い。
 異性との交際が初めての私には、タイミングが分からないのだ。

 だが今雪が降っている。
 手を繋ぐ理由としては最適だろう。
 雪よ、降ってくれてありがとう。
 私は華麗に手を繋いで見せよう。

 『寒いね』と言いながら、彼の手を握る。
 完璧な作戦だ。

 そうと決まれば話は早い。
 あくまで自然に、さっと手を繋ぐ。
 彼に気づかれぬよう、視界の端で彼の手をとらえながら――手が無い!?

 よく見れば、彼はポケットに手を入れてらっしゃる。
 そうだね、寒いもんね。
 完璧な計画はあっけなく崩れた。

 仕方ない、プラン Bだ。
 向こうから握ってもらうことにする。

「寒いね」
「そうだな」
「はあー、寒いなあ」
「そうだな」

 ……おかしいな。
 手を繋ぐどころか、話題が発展すらしない。
 反応が悪すぎる。

 遠回しに言いすぎたか?
 しかたない。
 もっと分かりやすくいこう。

「手が寒いなあ」
 これでどうよ。
「俺も寒い」
 なん…だと…
 彼から予想外の答えが返ってくる。
 そこは『俺が温めてやるよ』じゃないのか!?

 私は結構分かりやすく、というかもう全部言っている気もするけど、どういうことなんだろう?
 ひょっとして、私と手を繋ぎたくないのかな?
 ちょっと落ち込む。

 様子のおかしいことに気づいたのか、彼が声をかけてくる。
「調子悪いのか?」
 あなたのせいです、とは流石に言えない。
 手を繋ぎたいだけなんだけどな。

 私が答えないのをどう思ったのか、彼はずいっと私に体を寄せる。
「……そこのコンビニに入ってで暖まろう」
 そう言って、いきなり私の手を取り、近くにあるコンビニのほうに引っ張っていく。

「ちょ、ちょっと待って」
「寒くて調子悪いんだろ。寒いの苦手だって言ってたもんな」
 彼は振り返ることもせず、私をどんどん引っ張っていく。
 握られた手から彼の熱が伝わってくる。

 彼は振り返らず、どんどん私を引っ張っていく。
 そんな彼の耳が赤く染まっているのを見て、彼も緊張してるのかなぁと、場違いなことを考える。

 そして、今私は彼と手を握っているという事実に気づいた時、頭の中でファンファーレが鳴り響いた。

1/7/2024, 9:36:49 AM

「買い物についてきてくれない?
 買うものがたくさんあって、一人じゃ大変なの」
 日曜日の朝、妻はそう言った。
「いいぞ。ついでにデートしようか」
 そう言うと彼女は嬉しそうに笑った。
 普段家事を任せているので、こういう時は手伝うことにしている。
 彼女も助かり、俺もデートできる。
 一石二鳥だ。

    ◆◆◆

 服を着替えて、俺は車の運転席に乗る。
 二人で行くときは、俺が運転する。
 それが暗黙のルール。
 妻が乗り込んだことを確認して、車を発進させる。

 助手席に座っている妻の顔を横目で見る。
 彼女はいつものようにまっすぐ前だけを見ていた。
 獲物を狙うような狩人の目。
 大抵の人間は怖がるだろうが、俺は彼女のその目に惚れたのだ。

 思えば付き合う前も後も、やけに積極的だった。
 最初はその気がなかったのに、結婚までいった。
 つまり、俺はまんまと狩られたのだ。
 でも悪い気がしないのは、惚れた弱みという奴だろう。

 今日の獲物は何だろうか?
 そう思いながら彼女を見ていると、見ていることに気が付いたのか妻が顔をこちらに向ける。
「何?」
「ああ、何を買う予定なのかなって……」
「うん、2、3日分の食料とお米。
 お米が無くなりそうなの」
「なるほど、米か。重たいからな」
「うん、頼りにしてる」
 そう言うと、彼女は再び前を向いた。

   ◆◆◆
 
 車から降りて、店の中に入る。
 店に入ってすぐ、視界一杯に山のようなものが見えて、思わずたじろぐ。
 何事かと思い近づいて見ると、トイレットペーパーを山のように積み上げたものだった。
 立札には、『本日の商品』『お値打ち価格』『今日だけこの価格』など、たくさんの売り文句が書いてある。
 その値段は、12ロール100円!?
 安っ!
 値段設定大丈夫なのか、コレ。

 思わず妻の方を振り返る。
「お一人様一個までみたいね。今日は君と一緒に来てよかったわ」
 妻はまるで今気づいたかのように、俺に話しかける。

 だが彼女は最初から知っていたのだろう。
 俺じゃなくても分かる。

 彼女は、獲物を前にした猛獣の目をしていた。

1/6/2024, 9:58:59 AM

 俺は目的地について、スマホの時計を見る。
 彼女とのデートの時間まであと一時間。
 遅れてはいけないと、いつもより早めに出たが早すぎたようだ。

 当然、待ち合わせの相手はまだいない。
 どこかで時間をつぶすか、このまま待つか。
 まわりを見ても、時間をつぶせるような物は見当たらない。
 道を戻るのも面倒なので、このまま待つより他にない。
 幸い今日は冬だというのに、春を思わせるような暖かさ。
 このまま待っても、凍えることはないだろう。

 近くにあったベンチに座る。
 日に温められたのか、ほんのり暖かい。
 
 座っても見て面白いものがないので、なんとなく空を見上げれる。
 空は一つない冬晴れだった。
 冬で空気が澄んでいるのか、いつも見る空よりきれいに見える。

 別に面白いわけでもないのだが、なんとなくずっと見続けることが出来た。
 しばらくすると、ポカポカ暖かいので眠気がやってきた。
 いつもより早く起きたので、少々寝不足なのだ。

 少し考えて、寝ることにする。
 やることもないし。
 目を閉じると、そのまま夢の世界に落ちていく。



 どれくらい寝たのか、意識が覚醒する。
 時間を見ようとスマホを取り出そうとすると、誰かが肩にもたれかかっていることに気が付いた。
 待ち合わせをしていた彼女だった。
 彼女は、規則正しい寝息を立てて気持ちよさそうに寝ている。

 起こすべきか迷ったが、とりあえず今の時間を確認することにする。
 スマホを見ると、まだ待ち合わせの時間の三十分前だった。
 少し考えて、時間までこのまま寝かすことに決める。
 別に急ぐこともないだろう。

 もう一度彼女をみると、とても気持ちよさそうに寝ている。
 これだけ気持ちよさそうに寝ていれば、起こすのは気が引ける。
 彼女も、俺が寝ているのを見て起こすのをためらったのだろう。

 空を見上げれば、さっきと変わらない冬晴れの空。
 相変わらず、太陽が暖かい陽気を降り注いでいる。
 寒がりの彼女とデートするにはいい空模様だ。

 俺はそう思いながら、あくびをかみ殺すのだった

1/5/2024, 9:50:43 AM

「あなたがそんな人だなんて思わなかったわ」
「僕もだよ。君とは分かり合えない」
「本当に残念だわ」
 ママはパパを睨みつける。
 パパはママの迫力にちょっとビビっていたけど、謝ることは無かった。

「君こそ、なんでショートケーキのイチゴを最初に食べるんだ!
 意味が分からない」
 パパの言葉を聞いて、ママは説明するようにゆっくりと話し始めた。

「ケーキの甘さを最大限味わうためよ。
 最初にイチゴの酸味を味わうことによって、ケーキの甘みを引き立たせるの。
 そうすることでケーキを幸せに食べることが出来るわ」

 僕はイチゴを最初に食べて、ケーキを食べてみる。
 なぜかは分からないけど、最初にイチゴを食べるといつもより甘くなった気がする。
 なるほど、ママの言い分は正しい。

 でもパパは怖い顔のままだった。
 パパは分からなかったらしい。
「ふん、理解できないな」
 パパはママの説明を鼻で笑う。
 パパはかっこいいと思っているみたいだけど、はっきり言ってダサいからやめて欲しい。

「ケーキを甘くする?
 何言っているんだ、ケーキは最初から甘い。
 だから最後に口直しでイチゴを食べることで、ケーキの甘さをリセットする。
 メリハリをつけることで、自分が幸せだってことを噛みしめるのさ」

 僕はケーキを食べてから、イチゴを食べてみる。
 なぜかは分からないけど、お口の中がすっきり爽やか。
 なるほど、パパの言い分は正しい。

 でもママは怖い顔のままだった。
 ママは分からなかったらしい。
「ありえないわ。
 甘さをリセットなんて……」
 ママは目を細くしてパパを睨む。
 ママがかなり怒ったときの顔なんだけど、夜に眠れなくなるからやめて欲しい。

 僕は、パパとママ、どっちも正しいと思う。
 でも二人とも、自分が正しいと言って喧嘩をやめない。
 長くなりそうだから、自分のケーキを食べよう。
 どうやって食べようかな。

 すると、パパとママが、突然僕の方を見る。
「そうだ、お前はどう思―あれ?」「そうよ、あなたはどう思―あら?」
 パパとママはキョトンとした顔で、僕の近くにある何も載ってない2枚の皿をじっとている。
 パパとママの、ケーキが載っていた皿だ。

 ゆっくりと僕の方の顔を見る。
 マズイ。
 僕が二人のケーキを食べたことがバレてしまった。
 なんとかごまかさないと……

「うーん。僕はケーキをたくさん食べるのが幸せかな」

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