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「あなたがそんな人だなんて思わなかったわ」
「僕もだよ。君とは分かり合えない」
「本当に残念だわ」
 ママはパパを睨みつける。
 パパはママの迫力にちょっとビビっていたけど、謝ることは無かった。

「君こそ、なんでショートケーキのイチゴを最初に食べるんだ!
 意味が分からない」
 パパの言葉を聞いて、ママは説明するようにゆっくりと話し始めた。

「ケーキの甘さを最大限味わうためよ。
 最初にイチゴの酸味を味わうことによって、ケーキの甘みを引き立たせるの。
 そうすることでケーキを幸せに食べることが出来るわ」

 僕はイチゴを最初に食べて、ケーキを食べてみる。
 なぜかは分からないけど、最初にイチゴを食べるといつもより甘くなった気がする。
 なるほど、ママの言い分は正しい。

 でもパパは怖い顔のままだった。
 パパは分からなかったらしい。
「ふん、理解できないな」
 パパはママの説明を鼻で笑う。
 パパはかっこいいと思っているみたいだけど、はっきり言ってダサいからやめて欲しい。

「ケーキを甘くする?
 何言っているんだ、ケーキは最初から甘い。
 だから最後に口直しでイチゴを食べることで、ケーキの甘さをリセットする。
 メリハリをつけることで、自分が幸せだってことを噛みしめるのさ」

 僕はケーキを食べてから、イチゴを食べてみる。
 なぜかは分からないけど、お口の中がすっきり爽やか。
 なるほど、パパの言い分は正しい。

 でもママは怖い顔のままだった。
 ママは分からなかったらしい。
「ありえないわ。
 甘さをリセットなんて……」
 ママは目を細くしてパパを睨む。
 ママがかなり怒ったときの顔なんだけど、夜に眠れなくなるからやめて欲しい。

 僕は、パパとママ、どっちも正しいと思う。
 でも二人とも、自分が正しいと言って喧嘩をやめない。
 長くなりそうだから、自分のケーキを食べよう。
 どうやって食べようかな。

 すると、パパとママが、突然僕の方を見る。
「そうだ、お前はどう思―あれ?」「そうよ、あなたはどう思―あら?」
 パパとママはキョトンとした顔で、僕の近くにある何も載ってない2枚の皿をじっとている。
 パパとママの、ケーキが載っていた皿だ。

 ゆっくりと僕の方の顔を見る。
 マズイ。
 僕が二人のケーキを食べたことがバレてしまった。
 なんとかごまかさないと……

「うーん。僕はケーキをたくさん食べるのが幸せかな」

1/5/2024, 9:50:43 AM