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「買い物についてきてくれない?
 買うものがたくさんあって、一人じゃ大変なの」
 日曜日の朝、妻はそう言った。
「いいぞ。ついでにデートしようか」
 そう言うと彼女は嬉しそうに笑った。
 普段家事を任せているので、こういう時は手伝うことにしている。
 彼女も助かり、俺もデートできる。
 一石二鳥だ。

    ◆◆◆

 服を着替えて、俺は車の運転席に乗る。
 二人で行くときは、俺が運転する。
 それが暗黙のルール。
 妻が乗り込んだことを確認して、車を発進させる。

 助手席に座っている妻の顔を横目で見る。
 彼女はいつものようにまっすぐ前だけを見ていた。
 獲物を狙うような狩人の目。
 大抵の人間は怖がるだろうが、俺は彼女のその目に惚れたのだ。

 思えば付き合う前も後も、やけに積極的だった。
 最初はその気がなかったのに、結婚までいった。
 つまり、俺はまんまと狩られたのだ。
 でも悪い気がしないのは、惚れた弱みという奴だろう。

 今日の獲物は何だろうか?
 そう思いながら彼女を見ていると、見ていることに気が付いたのか妻が顔をこちらに向ける。
「何?」
「ああ、何を買う予定なのかなって……」
「うん、2、3日分の食料とお米。
 お米が無くなりそうなの」
「なるほど、米か。重たいからな」
「うん、頼りにしてる」
 そう言うと、彼女は再び前を向いた。

   ◆◆◆
 
 車から降りて、店の中に入る。
 店に入ってすぐ、視界一杯に山のようなものが見えて、思わずたじろぐ。
 何事かと思い近づいて見ると、トイレットペーパーを山のように積み上げたものだった。
 立札には、『本日の商品』『お値打ち価格』『今日だけこの価格』など、たくさんの売り文句が書いてある。
 その値段は、12ロール100円!?
 安っ!
 値段設定大丈夫なのか、コレ。

 思わず妻の方を振り返る。
「お一人様一個までみたいね。今日は君と一緒に来てよかったわ」
 妻はまるで今気づいたかのように、俺に話しかける。

 だが彼女は最初から知っていたのだろう。
 俺じゃなくても分かる。

 彼女は、獲物を前にした猛獣の目をしていた。

1/7/2024, 9:36:49 AM