冬になったらしたいこと?
そうね、寒いと外で暖かいものが食べたい
例えばホカホカの肉まんとか唐揚げとか。
あと、ホットコーヒーやホットココアとかもいい
寒くて体が震えている時に、暖かい物を体にいれ時の体中に熱が広がっていく感覚がいいのよ
ホッとするというか、生きてるって感じるっていうか
ともかくその感覚が好きなの
でもそれは叶わないのよね
私知ってるの
もう長くないんでしょ
あなたを見てればわかるよ
隠しごとしてるのは分かるの
そしてあの木の葉っぱが全部落ちたら死ぬの
そうでしょ
治る?
でも不治の病だって
え、科学の進歩で治るようになったの
冬になったらって言うのは?
え、冬になるくらいには治るからなの
でも隠しごとしてるでしょ
いったい何を隠してるの?
冬になったら温泉に行きたい?
食べ物の話ばっかりするから、言い出せなかったって、うるさいわ
私が食いしん坊みたいじゃん
はあ、心配して損した
仕方ない
冬になったら温泉行って、肉まん食べにいこうね
「病院行ってきたよ。私、鼻レ離れだって」
彼女は言う。
「鼻レ離れ?何だそれ」
俺は耳慣れない言葉を聞き返えした。
「鼻歌でレの音が出なくなるんだ」
「…治るのか?」
「手遅れだって…」
「なんだと、ふざけてんのか」
「ゴメン」
彼女は弱々しく謝る。
「いや、悪い。お前に怒っているんじゃないんだ。お前に気づいてやれなかった俺が腹ただしい」
ずっと一緒にいた俺が気づいてやれなくて何が彼氏だ。
「ううん。私の方が悪いの。あなたが褒めてくれた鼻歌をもう聞かせてあげられないの。別れましょう」
彼女の言葉に俺はショックを受ける。
俺はここまで彼女を追い詰めていたのか。
このままでは離れ離れになってしまう。
そうあの時のように。
「待ってくれ。お前の鼻歌が聞けなくなるのは残念だが、お前の魅力が消えたわけじゃない」
「でもレの無い私なんて―」
「俺の話を聞いてくれ。昔バンドやってたの知ってるだろ」
「うん、音楽性の違いで解散したって」
「違うんだ」
俺は強く否定する。
「あのバンドで俺はボーカルだった。ライブをを盛り上げるために、いつも死ぬ気で歌ってた」
彼女は黙って聞いている。
「いつの頃からかシ抜きででしか歌えなくなってた。大問題さ。シが出ないボーカルに価値があるかってな」
「それでバンド辞めたの?」
「ああ」
気持ちを落ち着かせるため、一度深呼吸する。
「追放しようとするやつと俺をかばうやつ。お互いに喧嘩し始めて、ギスギスしてそれで解散。メンバーとはそれっきり。離れ離れさ」
涙が出そうになるのを堪える。
「そんな俺でも、お前は素敵だと言ってくれた。だから俺は、お前に言わなきゃいけないことがある」
彼女の泣きはらした目を見ながら告げる。
「お前は最高の彼女だ。たとえ、鼻歌でレの音が出なくても」
彼女が俺の胸に飛び込んで泣き始める。
「俺にはお前が必要なんだ」
彼女はまだ泣いたままだ。
彼女の不安を取り除くため、勇気を振り絞る
「本当はもっと準備してから言おうと思ってたんだけど―」
彼女が顔を上げる
「結婚しよう。お互いに足りない分を支え合おう」
「はい」
こうして俺達は結婚した。
おそらく俺達にはたくさんの試練があるだろう。
でも離れ離れになることはない。
俺たちはいつも一緒なのだから。
子猫は暴れていた
彼の中の抑えきれない衝動が、彼を突き動かしていた
彼はもはや子猫ではない
トラと呼ぶべきだろう
柱で爪を研ぎ、障子に穴を開け、机の上にあるものをひっくり返す
短い時間の間に、秩序の保たれた空間は、混沌へと変わり果てた
暴虐の限りを尽くしていると、どこからか女神が現れた
女神は彼の名前を呼びながら、彼を捕まえようとする
しかし彼は速かった
女神をあざ笑うかのように、華麗に回避する
もはや誰にも彼を止めることは出来ない
しかし女神は覚悟を決め、魔法の呪文を唱えた
「チュール」
それを聞いた瞬間、小さなトラは自分がただの子猫だということを思い出した
そして子猫は女神をどんなに愛しているか、訴えながら歩み寄る
そして女神に捕まり、説教をされたのだった
なおチュールは出なかった
秋風は凄腕のエンターテイナーである
自らが吹き抜けることで、様々な風景をコーディネートする
ある時は、夏の終わりと秋の到来を感じさせ、人々を歓喜させる
ある時は、木枯らしを吹かせ、寂しさを演出する
ある時は、紅葉した葉を舞い散らせて、幻想的な光景を演出する
ある時は、寒さを演出し、寒さに震えた恋人たちを寄り添わせる
私も秋風のことを尊敬している
しかし、その秋風にある噂が囁かれる
誰でも秋がもう長くないという話を聞いたことがあるだろう
その秋から、秋風が独立し、夏に移籍するという噂が飛び交ったのだ
私も是非そうであればと思う
だが根も葉もない噂だ
これまでもよく流れた噂
その度に秋風は否定した
「独立するつもりはない」
「私は秋のを切るつもりは無い」
いつも同じことを繰り返す
私はいい加減ウンザリしていた
秋風は悪くないのだが、こうも期待させて裏切られると、文句の一つも言いいたくなってくる
「私、秋風は皆さん常に共もにある」
何度も繰り返された綺麗事に、私の心には秋風が吹き始めていた
今までお元気でしたか
最近急に寒くなりましたね
あなたのような立派な木でも、寒いと感じる事はあるのでしょうか
私は急に寒くなったので、慌てて冬服を出しました
油断していました
なんというか、毎年こんな感じな気もします
なかなか人間というものは学習しない生き物なのかもしれません
毎年あなたが紅葉してから来るのですが、今回この時期にここに来たのは理由があります
実は海外に出張が決まり、今年いっぱいは日本を離れることになりました
あなたが紅葉する様子を見れなくて残念です
日本を出る前に、あなたの見事な紅葉を見たかったのですが、今年は暖かい日が続き準備ができてないようですね
あなたの紅葉があまり進んでいないようなので、少し心配です
急激な温度変化なので、お互い体調を崩さないようにしましょう
健康が一番です
日本にまた帰ってきますが、あなたはその頃眠っていることでしょう
次に会うのは来年の春ですね
たくさんの葉っぱで生い茂っている様子を想像すると、とても楽しみな気持ちになります
また会いましょう