きっと明日も今日と同じ
それは避けられない
ある日親に欲しいものを聞かれて、正直に答えた
初めは嬉しかった
二日目も幸せだった
三日目でおかしいと思った
四日目でもう嫌になった
明日で五日目、もういらない
望んだものとはいえ、何日も同じだと嫌になる
これをリクエストしたあの日の自分を殴ってやりたい
ああ神様、もしも願いが叶うなら、
カレー以外のものを食べさせてください
彼は待っていた。
物音ひとつしない、静かな部屋で。
誰か特定の人間を待っているわけではない。
いつ来るかも知らない。
家が立派というわけではない。
ここは打ち捨てられた廃墟である。
それでも、たくさんの人々が彼のもとにやってくるのだ。
彼は一体何者だろうか。
その答えは幽霊である。
それも、どちらかといえば悪霊の類の。
幽霊なんて怖くないと言って、肝だめしにやってくる若者を驚かせていた。
彼は生きている間の頃は覚えていない。
おそらく自殺だったと思う。
しかし幽霊として自我を得た。
これを第二の生と捉え、彼は幽霊としてふさわしい振る舞いをすべきと考えた。
そして、ここにやってきた人間を驚かせていた。
彼は充実していた。
噂が噂を呼び、たくさんの人間がやってきた。
その全員に叫び声を上げさせた。
そしてこれからも、そうするだろう。
彼は遠くで誰かの気配を感じた。
また誰かが肝だめしにやってきたのだ。
彼は待つ。
誰かがこの部屋の来ることを。
彼は静寂に包まれた部屋で待っている。
ひどく気が重い。
なぜなら、今から世界で一番愛している彼女が遠くに行ってしまうからだ。
「電車出るからもう行くね」
向こうに行こうとする彼女の手を取る。
「離れたくない」
「でも、仕方のないことなの」
彼女は呆れたように笑う。
「君を一人にするのは不安なんだ」
「大丈夫よ。みんないい人だから」
今度は僕を諭すように笑う。
「でも君にさみしい思いをさせるわけには‥」
「ハイハイ、分かったから。じゃあもう電車出るから」
そう言って、簡単に僕の手を振り解き、さっさと駅の改札口に向かっていってしまった。
そっけない。彼女は僕に未練はないのだろうか。
やはり、もう一度話合うべきでは?
考え事をしていると、彼女が踵を返して戻ってくるのに気がついた。
何事かとかと思っていると、
「ごめん忘れてた」
そう言って、僕のほっぺたにキスをする。
「行ってきますのちゅー。晩ごはん期待してるからね」
「よう、久しぶり」
雨宿りをしていると声をかけられた。
そして声の主の顔を見た瞬間、深いため息がででる。
「この雨、お前の仕業か」
「いい雨だろ」
「悪い雨だよ。おかげでずぶ濡れだ」
僕の反応に、奴は面白そうに笑う。
何を隠そう、こいつはとんでもない雨男である。
イベントのたびに雨を降らすやつで、天気予報より正確な男と呼ばれた。
あまりの雨男っぷりに、国際機関からスカウトされた。
今では雨の降らない地域に趣き、雨を降らすため世界中を回っている。
「重大な使命はどうしたのさ」
「あー、頑張ったかいあって、水に困ってるとこがなくなってね。必要とされるのは当分先だな」
半分は本当である。でも、
「‥スランプって聞いたぞ」
「知ってたのか。最初らへんは歓迎パーティしてくれるの楽しかったんだけどな。流石にずっとやってると飽きちゃって」
「お前、ひどいやつだな。飽きたって」
「仕方ないだろ。流石に毎日パーティやれば日常だよ」
「パーティ飽きたって言ってみてぇ」
二人で笑い合う。
「いつ帰ってきたの」
「昨日だ」
「嘘つけ。先週に歓迎パーティやったの知ってるんだからな」
一ヶ月くらい雨が降らず、水が足りなくなるかもっていうんで、こいつが呼ばれたのだ。
降らなかったけど。
おや?
「そういえば、この雨なんだ」
「あー、なんというか。久しぶりに友達と会って嬉しかっというか、テンション上がったというか」
「お前、会わない内に恥ずかしいこと言えるようになったのか」
こっちが恥ずかしい。
「お、俺もう帰るわ。恥ずかしすぎる」
と言って雨に濡れながら帰っていく。
「またな。次の歓迎会みんなで押し掛けるから覚悟しとけ」
と言うと、あいつは手を上げて返事をして、そのまま行ってしまった。
自分は、濡れたくないのでそのまま雨宿りする。
と考えていると、急に晴れてきた。
昔から足が早いやつだった。
あの様子だと、そのままあちこちに雨を降らせるのだろう
通り雨みたいなやつだ。
そう思いつつ、水たまりだらけの道に足を踏み出した。
「探せ、今日のテーマは秋だ」
ここは脳内会議所。今かつてないほどに怒号が飛び交っていた。
「いくら出不精部屋の一人暮らしでも、秋らしいものの一つくらいあるはずだ。部屋中を探せ」
秋🍁というテーマは意味が広すぎる。なにかきっかけを探すために部屋を捜索を開始した。
いつまでたっても何も出てくる気配がない。
「こちらアルファ。ありません」
「コチラベータ、同じく見つからない」
「ガンマだ。だめだ。ないぞ。この部屋の主は秋の気配を感じていないのか?」
部下たちが弱音を吐く。
「泣き言は任務を終えてからにするんだな。探せ。見つかるまで帰れんぞ」
挫けそうになる部下に発破をかけるが、正直自分も諦めそうになる。
「調子はどうかね」
声の方へ振り向く。司令官だ。
「は、部下も頑張っていますが進捗はよくありません」
「ふむ、仕方あるまい。今回はダジャレでも良いものとする。多少強引でも良い」
「ありがとうございます。聞こえたなお前ら。ダジャレでもよいとのことだ。気合い入れろ」
「「「ラジャー」」」
部下たちは捜索を再開する。
しばらくしても部下からの報告はない。
無理か。撤退の言葉が頭をよぎる。だめだ、弱気になってはいけない。
「ありました」
沈みかけた思考が、部下の声によって引き戻される。
「よくやったアルファ。ものは何だ」
「洗面所の鏡に映る自分です」
「なに、なぜそれが秋になる?オチをつけてみろ」
「毎朝見る自分の姿は、もう飽き(秋)がきました」