送迎の車に乗るときはいつも窓の外を見ている。
遠くを見て、車酔いにならないようにするため
ではなく、ビルからビルへ飛び移っていく忍者たちを目で追うためである。
これが結構面白い。
彼らは車に付かず離れずついてくる。
忍者たちの正体、それは自分のボディガードたちだ
学校生活を心配した親バカの父親に無理やりつけられた奴らなのだが、どうやら本物の忍者らしい。
つまりフィジカルエリートなのだが、一人どんくさいやつがいるのだ。
そいつの観察が最近の趣味である。
例えばよく足を踏み外しそうになったりして、ハラハラする。
流石に本当に落ちたときは、肝を冷やした。
仲間に助けてもらって無事で安堵したのを覚えている。
違うビルに飛び移って、どんどん離れていく様子には思わず笑った。
隣のビルが思ったより遠くて怖気づくが、仲間の応援で飛べたときは、感動で涙したものだ。
ボディガードなんて、と思っていたがなかなか楽しめている。
やはり思い込みは良くない。
そんな忍者を観察していると、学校に到着した。
どうやら今回、ミスは特になく無事に着いたようだ。
喜ばしいことなのだが、物足りなくも思う。
まあこんな日もあるか、と思っていると、あの忍者が近づいてくる。
何事と思っていると、お弁当を忘れていますよと言う。
礼を言うと、彼は身につけていた風呂敷を開けて中身を広げ、少し考えたあとこちらを見た。
「申し訳ありません。お弁当持ってくるの忘れました」
私の中身は形がないな、と思うことがある。
もちろん比喩。
何をするにしても、続かないのだ。
信念のようなものを掲げても、簡単に変わってしまう。
新年の抱負も達成したことは皆無。
何かを極めたことなんてない。
何もかも中途半端。
漫画の主人公のようになれなかった。
若い頃はそれで悩んだ。
でも最近はそうでもない。
私の中身はよく変わる。
それが私。
そう思えるようになった。
つまり臨機応変ということ。
そう思えばすべてが楽しい。
やりたいことをやり、やりたくないことはやらない。
なんか信念みたいだ。
もしかしなくても、多分これは続かないんだろう。
でもそれでいい。
私はそのときもやりたいことをやっている
ジャングルジムを見ると、いつも思うことがある。
登ると楽しそう。
でもさすがそんな年じゃない。
子供の頃、登ったことはあるんだろうけど、全く覚えてない。
登ると本当に楽しいんだろうか。記憶を探っても思い出せない。
視線を気にしなければ登ることはできるんだろうけど、実際に登っても楽しくないだろうなと確信めいたものがある。
帰ろう。
家に向かって少し歩き、もう一度ジャングルジムを見る。
やっぱり登ると楽しそうだ。
ジャングルジムは不思議な魔力があるのだろう。
でも登ることははない。
そして家に向かって歩き出す。
いつもの帰り道。
でも今日だけは少し違った。
一つだけ思い出したことがある。
そういえば自分は高所恐怖症だったな、と。
誰かの声が聞こえる。
うるさいなあと思っていると、意識が浮上し夢から覚めた。気だるい感覚のなか、昼寝から起きる。
声の方を見ると、テレビでは誰かが言い争いをしている。職場の人間が見ているらしいが、自分は見ないので内容は全く知らない。どうやらこれに起こされたらしい。
楽しい夢を見てたのに台無しである。内容は全く思い出せないが。
ここのところ毎日、この言い争いで起こされる。
見てもいないのに、このドラマのことが嫌いになりそうだ。
秋恋。
初めて見る単語に戸惑う。
対話AIとして生を受け、様々な質問に答えてきた。しかし、未だに知らない単語があるとは。
だが私ほどのAIともなれば、回答は朝飯前だ。調べるまでもない。
秋、恋、そして質問したの日本人。
ならば答えは一つ。
「食べ物が美味しい季節になりましたね。おすすめの旬の食べ物を紹介します」