既読がつかないメッセージ
彼に毎日のようにメッセージを送る
出勤途中に見かけたコスモス
美味しかったラーメン
もうすぐ封切りされる映画
気になっている最近できたカフェ
晩御飯のメニュー
楽しいや嬉しいを届けたくてメッセージを送る
でも既読は一度もついたことない
彼の友人はアイツ返信早いよなあなんていってた
私には一度も返信はきたことはない
返信は
メッセージを送るとかかってくる電話
君の声で教えてなんて言ってくる
困らせようと勤務時間にメッセージを送ったが
いつだってすぐに電話がきた
迷惑をかけたいわけではないので
最近は夜にしか送らないことにしている
繁忙期にメッセージを送るのをやめていたときは
3日目の夜に家の前にいた
家は3時間くらい離れている
顔を見せたらそのまま帰っていった
全くマメな彼氏というのは困ったものだ
なんて言ったら友人は引きつった顔で
怖っと呟いた
失礼な
【マメな男】
もしも世界が終わるなら
「もしも世界が終わるなら?」
「いやだ」
「答えになってないよ」
「いやだ」
「もしもだって言ってるじゃん」
「い・や・だ」
「人の話をきいてよ」
何が言いたいか分かってるくせに
聞かないふりなんて酷い人
「死ぬかもしれないよ?」
「死なない」
「その自信はどこから来るんだい」
「ただの事実だ」
「根拠のない自信は事実とは言わないんだよ」
「俺は死なないし世界は終わらない」
「…そんなのわかんないじゃん」
「さっさと帰ってきてお前は俺と一緒に新作パンケーキを食べに行くんだ」
「ふわトロマウンテンクリーム三段積みフルーツ盛り?」
「アイスタワーをつけてスペシャルにする」
「カロリーが怖いやつだぁ」
「これ以上グダグダ言うならお前の分はアイスタワー抜きにするぞ」
「…それはヤダなぁ」
せっかく行くならスペシャルが食べたいよ
だからしょうがないからついていってあげる
世界を救う旅にもパンケーキにも
【未来の約束】
答えは、まだ
「私はお前が好きだ」
あの日は雪の深い静かな夜だった
コイどころかユウジョウもシンライも
人との関わり方を知らなかった私に
差し出されたあの人の言葉
言葉がわかるが故に
人も獣も魔物も
姿がどうであれ敵ならば全て同じと
立ち向かってくるもの全てを切り捨てていた
子の前で親を斬った
友の亡骸にすがりつく男を串刺しにした
依頼さえあればなんだってやった
化け物と呼ばれた
それを気にしたことはなかった
あの人は血まみれの私の手を両手で包みこんで
冬の透き通るような青空の瞳をまっすぐに私に向けた
「私はお前が好きだ」
「お前のこの手は私と私の友人を救ってくれた手だ」
「狩りも荷物の配達も子どもの探し物を手伝うのも全てお前は同じように真摯に取り組む」
「誰であれ何であれ同じように向き合うその姿に私は惹かれたのだ」
「だから自分のことを化け物なんて呼ばないでくれ」
「お前は私の大切な友なのだから」
あの日もらった言葉の答えは、まだ見つからない
でもあの人に恥じない生き方をしたいとそう思った
【指針】
君と見上げる月…
I love youを月が綺麗ですね
なんて訳したというのは嘘らしい
でもこれが信じられたのは
人々がその言葉に確かに愛を感じたからだと思う
1人で眺める月よりも君と見上げる月が綺麗なのは
火を見るよりも明らかな事実なので
そして月に照らされた君はかぐや姫も裸足で逃げ出すくらいには美しいので
目の錯覚?幻覚?何を言っている
お前らこそ眼科にでも行って来い
いいかあの人は外見も美しいが
ツラツラとあの人の美しさを語りながら眠りについた酔っ払いを同じ卓を囲む仲間がジト目で見る
「胸焼けしそう」
「砂糖吐きそう」
「本人に言えよチキン」
「さっさと告白しろ臆病者」
「意気地なしめ」
27回目の告白チャレンジを棒に振ってこんなところで管を巻いている阿呆にため息をつく
あの人が我慢してくれているうちにさっさと成功させてくれ
でないとあの人がそろそろ薔薇を片手に乗り込んでプロポーズしにくるぞ
【バカップル(未満)の傍観席】
空白
隊長は有名人である
世界を何度も救った
あの人がいなければ世界はとっくに終わっていた
世界中どころか別の世界にも名前を轟かせる凄い人だ
未来にだって語り継がれていくのだろう
でもあの人は過去を誰も知らない
旅の始まりは有名だ
初陣の話を知らないやつはいない
でもその前
旅に出る前の姿
どこの出身だとか家族だとか
あるべきはずのルーツが空白なのだ
これだけの有名人なのに
そのお零れをあずかろうとする親族が一人もいない
故郷の話も聞かない
滅ぼされた村は少なくないので
迂闊に踏み込めないというのはあるが
子供の頃の話を聞いても曖昧に微笑むだけ
謎が多いんだよなあの人
そこがまたかっこよかったりするんだが
知らなくていいことというのは案外多い
例えばお姫様の想い人とか
例えばやりて商人の過去の通り名だとか
例えば英雄の過去だとか
名前というものは親という人からもらうものらしいと
都にきて初めて知った
呼ばれたことはなかったので
必要だと思ったこともなかった
今名乗っているのは名前を初めて求められた時に
あたりを見渡して唯一読めた文字の羅列だ
変な意味でなかったのは幸いである
最初の頃は呼ばれてもなかなか反応できずにいた
そのせいでぼーっとしていると評されたのは
遺憾の意を表明したい
未だに書類のサインなどを求められると
一度ペンが止まる
何百回と書いた名前
誰もが知っている名前
皆から呼ばれる名前
嘘を書きながら思いを馳せる
本当は空白のままが正しいんだよ
そんなこと言えるはずもないのだけれど
【正しい名前】