ブランコ
仕事が終わりヨタヨタと歩いて家に帰る。
現在午後9時を過ぎたところ。
出遅れてしまった。
いつもよりも5分ほど出遅れてしまった。
走れば間に合うはず。
そう思い早足で歩く。
目指すは会社から歩いて5分ほどにある公園だ。
周囲に人影なし。
物音もなし。
(これは行ける!!)
残り100メートルを走り公園に飛び込む。
小さな街灯がポツリとあるだけのため薄暗い。
息がきついがそのままの勢いで目当てのものをつかみとる。
勝った!!
息を整えようと深呼吸。
そこに聞こえる慌ただしい足音。
数分後に反対側の入り口から飛び込んできたスーツを着た同年代の男性。
彼は自分の姿を見つけると悔しそうに顔を歪めた。
それをみて笑顔になる。
「今日は僕が勝ちです。」
ちょっとした出来心とストレス発散のためだった。
昇進したが部下も増えて仕事も増えてストレスも増えた。
そんなときに会社から駅へ向かう途中ふと足を止めた。
駅までの途中にある小さな公園。
ブランコと滑り台とシーソーが置いてあった。
仕事終わりに人がいるところを見たことはない。
当たりも川やら畑やらなためとても静かだ。
だからまあ少しばかり童心に帰りブランコに座ってみた。
ギコギコと漕いでみる。
小さい頃はブランコは人気で並ぶのもめんどくさくてあまり遊んだ記憶はない。
ゆっくりと脚を動かす。
だんだん揺れが大きくなりちょっと楽しくなってきた。
いやこれは並ぶなぁ。
楽しいしなんて考えてたら突然横から声がした。
「おい。」
「ふぁっ!?」
はビックリしすぎて変な声がでた。
慌てて両足を着けて揺れを止める。
声のした方を見るとスーツをきた男性が立っていた。
同年代くらいだろうが自分とは違い運動でもしているのか腹はでていない。
これは怒られるやつか?
ブランコに腰かけたまま相手のでかたを伺う。
スーツの人は無表情で口を開く。
「3分。」
「え?」
「3分たったぞ。」
「はぁ。」
「交代してくれ。」
「え???」
これがスーツさんとの出会いであり長きに渡るブランコ争奪戦の始まりであった。
【夜の公園戦争】
旅路の果てに
こんなつもりはなかったのだ。
ただ少しだけ人よりも戦うのが上手かったらしい。
敵を倒して倒して殺して殺して。
そうしていつのまにやら根無し草の旅人が勇者とやらになってしまっていた。
別に地位とか名誉とかそんなものが欲しかったわけでもないのだ。
金は欲しかったがそれだってただ美味しいものをお腹いっぱい食べたかっただけなので。
そんないらないものばかり手に入ってしまい代わりに何よりも愛した自由をなくしてしまった。
未知を見たかった始まりはただそれだけだったのに。
嗚呼全く人生ままならないものだなぁ。
あなたに届けたい
この願いが叶ったとき
私たちはどこにいるのだろうか
世界はゆっくりと滅びにむかっている
争いは絶えず
国も人も疲弊しきった
やり直せるほどの余力はもうどこにもない
未来なんてものはこの先には存在しない
だからやり直すのだ
時間を巻き戻して
あの人が死ななくていいように
何が間違ったのかわからない
何処からやり直せばいいのかもわからない
でもあの人が生きていたならば
世界はこんなことにはならなかったはずだ
だから助けよう
私たちはちっぽけで世界なんて救えないけれど
あの人だけなら救うことができるはずだ
私たちの英雄を
いや少し違う
世界が救われたら嬉しいが
でもそんなのあの人の気が向いたらでいい
ただ生きていて欲しいだけだ
死体すら残らなかったあの人に
私たちの御先祖様を祖国を救ってくれた英雄に
届けたい思いがある
ありがとう
貴方がいなければ私たちは当の昔に絶望して
世界はとっくの昔に終わっていたでしょう
でも貴方の旅路は私たちに希望をくれた
だからそうこれはお礼なのです
そして願いなのです
貴方のいる未来が私たちに繋がらないのならば
こんなにも喜ばしいことはない
例え自分が産まれてこなくなったとしても
それでも貴方の生きる未来が見たい
だからどうかこの願いが貴方に届きますように
【漆黒前夜】
I LOVE
フワフワとした頭を撫でると気持ち良さそうに目を細めた
たまらない
もうこの子のためならば死んだってかまわない
いやでも死んだらこの子の傍にいられなくなる
それはダメだ
考えことをしていたせいで手が少し止まっていたようだ
咎めるように上目遣いでこちらをみてくる
世界で一番愛おしい
本当に
「可愛いなあ」
デレデレと顔を緩ませ膝の上にいる子猫を撫でている師匠をみる
修行のときどころか日常生活でも滅多に笑わないのにあの子に対しては微笑みどころではなく顔面全てを緩ませて威厳も何もあったものではない
先ほどまで弟子をボコボコにシバいていたとは思えない手付きで優しく頭を撫でている
愛おしいと全身で表現している
(いいなぁ)
師匠はいつだって自分には厳しい
でもそれは嫌いだからとかではないということは知っている
だから別に修行が嫌な訳ではない
でもあんな風に惜しみ無く愛を注がれている姿は猫といえど羨ましい
頭を撫でてもらったことなんて記憶には一度もない
いや猫みたいに撫でて欲しいわけでもないが
愛されるというのはどんな気持ちなのだろう
いつだってみてることしかできない愛というものを
知ることができる日はくるのだろうか
【愛】
街へ
ベッドの上で目を覚ます
窓の外は少しだけ明るい
どうやら寝坊せずに済んだようだ
置きあがりベッドから降りる
床が氷のように冷たい
暖かな布団のなかに戻りたくなる誘惑に耐えながらキッチンへと向かう
寝室よりも一段と寒い
冷蔵庫を開け中を覗く
卵はあと3つ使いきってしまおう
ハムものせて
昨日の晩御飯の残りのスープとサラダをつけよう
パンは昨日買ってきたばかりだから十分にある
あの人はパンとコーヒーだけでいいとはいうが
用意さえしてしまえば食べてくれる
さてさっさと用意してあの人を起こしにいかないと
どうせ昨日も夜遅くまで作業してただろうから
ほっといたら昼過ぎまで寝ているだろう
それはダメだ
だって街に行こうと誘ってきたのはあの人なんだから
起きたら行こうかと言ってたが
起こすなとは言われていない
忙しいあの人が一日中一緒にいてくれるというのなら朝から出掛けたい
俺の可愛らしい我が儘をあの人はグチグチいいながらも聞いてくれるだろう
さあ、一日が始まる
今日はあの人と街へ一緒に出掛ける日だ
絶対にいい日になる
【おでかけ】