優しさ
「ごめん」
「なんで貴方が謝るのさ」
なにもしてないのにとボロボロの姿で倒れているシアンが笑う
自分は無力だ
目の前の4つ下の幼馴染は服の下の見えない部分なに打撲傷やら切り傷やら火傷やらがある
村の人間にやられたのだ
シアンに魔力がない役立たずだから
だから何をしてもいいのだと人々はいう
そんなわけないのに
「そんな顔しないでよ」
このくらい平気なんだからと彼はゆっくりと身体を起こした
今日は一段と酷いようだ
持ってきた包帯と薬の準備を始める
これでも自分は村一番いや国一番の魔術師だから治癒魔法でそんな傷すぐに消せるのに
それができないのを歯がゆく思う
自分が彼に治癒魔法を使えばそれを理由にまた彼を傷つけるのだと
村の人は僕にはとても優しい
困っていることはないかといつだって手を差しのべてくれる
自分がすごい魔術師だから
でも差し出してくれるその手はシアンを傷つけることしかしない
自分とシアンの違いなんて魔力だけなのに
道具を作るのも足が早いのも狩りが上手いのもシアンのほうなのに
それでも村の人たちはシアンを蔑む
魔力がないから
「そんな顔立ちしないでってば
ちゃんとわかってるよ
貴方があの人たちに何も言わないでいてくれているの」
初めの頃はシアンへの暴力を止めてくれとお願いしたのだ
わかりましたと村の人達はそういって僕にわからないようにシアンを罵り服で見えない場所に傷をつけた
気がついたときはシアンは前よりもボロボロになっていた
「“トキワ様に気に掛けてもらえるなんて気にくわない”だの“あの方の心を痛めるな”だのホントに人間って勝手だよね」
その身体中に殴られ蹴られた状態で原因を作ったのはお前らじゃんねとシアンは笑う
自分は笑えなかった
あまりにもみていられず治癒魔法かけたときは貴方がそんな事なさる必要ないといわれた
”あんなもの“を気に掛けるなんてなんてお優しいのだと涙を流して感動された
そして次の日にはシアンは前の日よりもぼろぼろになっていた
何故自分にくれる優しさは彼には向けられないのだろう
自分が手を差しのべた分だけシアンが傷つけられる
できることといったらこっそりと魔法を使わずに手当てするだけ
なんて歯がゆいいっそ魔法で
なんて考えているとシアンがこちらをじっと見ていた
「何もしないでよね」
「…わかっている」
釘を刺された
本当に止めさせたかったら村の人達を魔法で止めてしまえばいい
自分に勝てる人間はこの村にいないのだから
でもそれをシアンは許さない
「貴方も難儀だね、俺なんてほっとけばいいのに」
「嫌だ」
そんな事してたまるか
シアンがどう思っていようと自分にとってシアンがいなければこの世界で息をするのも難しくなるくらには大切な理解者だ
だから助けたい守りたい傷つかないでほしい
でも自分は何もできない
本当に厭になる
「早く村をでよう」
「もうちょっと待ってよ」
まだ山を越えるだけの身体も道具も足りてないしと呑気に笑うシアンの柔らかい頬を引っ張ってやった
世界はこんなにもシアンに優しくない
【10歳の少年から見た世界】
ミッドナイト
「こんばんは」
「…こんばんは」
午前0時24分
雪もちらつき髪も凍るような寒さの中で
今日もお隣さんが煙草を吸っていた
「寒くないんですか?」
「寒いですよ」
まあ、当たり前だろう
モコモコのセーターを着こんでコートを羽織っていても貫通するくらいには外は冷えている
「手足が凍りそう」
「中に入ったらいかがでしょう」
「でてきたばかりなのに」
すこしばかり拗ねた口調で返す
お隣さんはあきれたように煙を吐いた
「そもそもなんででてきたんですか、
寒いとわかりきっているのに」
「寝れないからしょうがないでしょう」
「またですか」
「そちらこそ、こんな寒いのによく外で煙草なんて吸えますね」
吐く息が白い
手足も冷えてきた
それでも部屋にはまだ戻る気が起きない
「好きなので」
プカプカと煙を浮かべながら
お隣さんは空を見上げた
私もつられて空を見た
空は雲に覆われて星どころか月も見えない
雪がチラチラと舞い落ちる
駐車場が真っ白だ
「私も好きです」
空も雪も寒さもこの時間も
「物好きなことで」
「そちらこそ」
【夜の雑談】
安心と不安
あの人たちがいると安心する
どんなにピンチでもなんとかなるんじゃないかって
でもだからずっと不安を抱えている
いつか皆いなくなるから
わかっている
あの人たちは記憶の再現で本人ですらない
だから俺にスキルを伝えたら役目は終わり
だからいつかいなくなってしまうことはわかっているの
一つ一つ声が聞こえなくなるたび
不安は大きくなって泣きたくなる
でも泣いたらあの人たちは怒るしからかってくる
その声を思い出して少しだけ安心する
心がいったりきたり
いつか声が全部消えてしまったとき
俺は不安で泣いているのか
それとも安心して堂々と送り出せているのか
わからないけれど
今はまだあの人たちの声が聞こえるから
安心してみんなの前にたっていよう
怖さを隠して涙も隠して
あの人たちが受け止めてくれるから
強い俺を演じよう
いつかそれが本当になるように
【子供であれなかった皇帝】