人間は生れてくる時も、この世を去る時もひとり
所詮人間はひとりなんだよ
どれだけ苦しい時でも、誰かが代わって生きてくれるわけじゃない
どれだけ嬉しいことがあっても、代わりに味わわせてあげられるわけじゃない
だから、わざわざひとりになりたいなんて思わなくても
人間なんて、所詮はひとりぼっちなんだよ
だけど、ひとりじゃ生きられないから、
わざわざ「人の間に生きる」と人間を表しているんじゃないのかな…
『だから、1人でいたい』
「見て、見て!キレイだね〜
キラキラしてるねぇ あそこにきっと秘密基地があるんだよね!」
「それでさぁ、そこから妖精が出てくるんだよね〜」
年の頃は4、5歳といったところだろうか…
仲の良い兄妹なのだろう
脱いだ靴はきっちりと揃えて座席のシートに上がり、窓の外を二人で楽しそうに眺めている
時折母親と思しき隣に座る女性を振り返り、ニコニコと笑いかけている
何がそんなにキレいなのかと二人の指差す先を目で追ってみたが、見慣れたいつもの風景が流れているだけだった
それにしても、この子らの瞳の何て美しいこと!
黒目がちのその澄んだ瞳にはキラキラと光が宿り、曇りの一点も見られない
こんな澄んだ瞳だからこそ見える、彼らだけの特別な世界がそこにはあるのだろう
私にだって、こんな澄んだ瞳の頃があったはずだ
いったいいつ頃からその瞳にポツポツと濁点が付き始めたのだろう…
見えているものを見えないと言い、見えていないものを見えると頷き、
見たいものに目を背け、見たくないもでも厭々見なくてはならない大人の事情
そんな風に瞳に映るものに誠実でいられなくなるにつれ、心の眼にもキレイ!が映らなくなってしまったのかも知れない
二人の子供の澄んだ瞳が夏の陽にやけに眩しかった
『澄んだ瞳』
嵐が来ようとも…
柳のように たおやかでありたい
余計なものは身に着けず
風に吹かれるまま
風の向くまま
激しい雨に打たれても、強い風が吹き荒れても
やんわり、やんわり受け止めて
しゃなり、しゃなりと身を交わす
そんな柳のように 粋に生きたい
『嵐が来ようとも』
「さてと…、このパーツを付けたら完成だわ…」
夏実の目の前には「夏祭り」の風景を模したジオラマが広がっている
数年前に心の病を発症してから、夏実は多くの人が集う場所には行くことが出来なくなった
多くの人どころか、3人ほどで話をしていても夏実にはその話し声が不快な騒音にしか聞こえなくなった
次第に人との接触を避けて家に閉じ籠もるようになり、窓のカーテンはきっちり閉じ、心の扉も閉じるようになった
発病前の夏実は活発な性格でアクティブな毎日を送っていた
特に「お祭り」のあのエネルギーがたまらなく好きで、日本全国のお祭りを追いかけ、金銭的にも時間的にも余裕がある時には海外にまで出掛けていった
人々の生み出すあの躍動感に満ちたエネルギーの中に、夏実は湧き出る命の源を感じ、何度見ても鳥肌が立つほど感動した
その一瞬を逃すまいと、独学でカメラの技術を学びアマチュアカメラマンとしても活躍し始めていた
そんな矢先の発病だった
以前とは真逆のひとり閉じ籠もる生活を支えていたのはジオラマ作りだった
それまでの感動の記憶をひとつひとつを形にしながら、いつかまた「お祭り」を撮りに行きたい…
その思いが唯一彼女をこの世界に留めていた
夏実が今手掛けているのは「夏祭り」の1日をテーマにした地元の賑わいを表すジオラマだった
奇しくも今日は地元の夏祭りの日だ
遠くからお神輿を担ぐ子供達の賑やかな声も聞こえてくる
腰に手を当ててラムネを飲み干す少年の人形の手に、最後のパーツのラムネの瓶をピンセットで優しくつまみ上げ、そっとその手に持たせた
『お祭り』
神様が舞い降りてきて、こう言った
「目に見えていることが全てだとは限りませんよ
むしろ、目に見えないことの中に真実は隠れているものです
あなたが見ているものが、他の人にも同じ様に見えているとは限りません
何故なら、皆かけている眼鏡(色めがね)が異なるからです
物事の真実、特に人においては、その言葉ではなく行動に宿ります
言葉では優しいことを言っても、行動が伴わないひとは不誠実な人です
反対に、言葉数少なく愛想がなくても、誠実な振る舞いをする人は信頼のおける人はです
言葉ではなく、態度や行動をしっかり見極めましょう
そして、あなた自身も誠実に振る舞う人になってください」
神様とやらのその言葉は、私の心にいちいち刺さった
『神様が舞い降りてきて、こう言った』