今や世界中で知られることとなったips細胞
Dr.山中はその発見によりノーベル賞を受け、その細胞の恩恵は難病で苦しむ多くの人々を救い続けている
そのDr.山中のインタビューを見たことがある
その中で印象的だったのは、彼が相棒と敬愛するモルモットの事を語ったシーンだった
「999回の失敗を繰り返して、1000回目にようやく成功するのが研究の実態
それでも、成功するのは運が良いこと
その毎回の実験に欠かせないのはモルモットの存在
彼らの献身が無ければ僕らの研究は成り立たない
だから、僕は彼らを丁寧に弔うし、常に感謝を忘れない為にこうして僕のデスクにはモルモットのぬいぐるみを飾っていますよ」
と、そんな偉大な発見をした方からはかけ離れたイメージの、柔らかな人懐こい笑顔で語られた
幾度と繰り返された失敗の度に
「君たちがいてくれるから、頑張れるんだよ」
と、彼が手を合わせる姿を想像してこちらも目頭が熱くなった
世の中の、今や当たり前になっている進化の陰には、こうした何かの為に犠牲になり続けた存在があることを我々は忘れてはいけない
『あなたがいたから』
妻 「あなた、あのご老人のご夫婦傘を1本しかお持ちじゃないんじゃない?
1本貸して差し上げましょうか?」
夫 「いや、奥さんの方が杖を使われていようだから、傘は無理だろう
だから、旦那さんが傘をさしかけてあげるんじゃないかな」
妻 「あら、本当ね
大変そうだけれど、旦那さまが一生懸命奥様が濡れないようしてあげて…
ご自分はほとんど濡れていらっしゃるのに…」
夫 「お手伝いしてあげたい気もするけれど、かえって気を遣わせるだろうし
きっと、ああやっていつもお互い労り合って生きて来ているのさ」
妻 「お互いに歳をとっても、ああやって寄り添い合えるのは素敵ね
相合傘って、若い恋人同士のものって思っていたけど、私も歳をとってからもお互いに傘をさしかけ合うように寄り添えるような夫婦になりたいわ」
夫 「僕は今だって十分寄り添っているつもりですよ(笑)」
妻 「あら、失礼しました(笑)」
『相合傘』
「落下」という言葉から一番に連想したイメージは、夜空に大輪の花を咲かせる打ち上げ花火だった
花火は、まさに落下していく美しい様を魅せる芸術だと思っている
先日まで花火師が主人公のドラマが放送されていたが、その一瞬の感動の為に何ヵ月もの時間を費やして造りあげられる花火が、何故あれほどまでに人の心を動かすのかが少し分かった気がした
美しいものを造り上げたいという一念で、代々受け継がれて来た秘伝の色合いに調合された火薬をひとつひとつを丁寧に敷き詰めていく、気の遠くなるような人の手による作業
そして、気候や気温、湿度といった人の力ではどうにもならない条件とのコラボレーションが生み出す奇跡
ひとつとして同じものは存在しない
その一瞬を見逃したらもう二度と同じ花火は見ることが出来ないという事実に
人はどこか人生を重ね合わせて見ているのかも知れない
夜空に浮かぶ大輪の花火のかけらが落下していく様に、これまでの人生を思い浮かべてしまうのは私だけだろうか
人生の最後に、自分の為だけの花火を打ち上げてもらい、「そこそこ良い人生だったかも」
と花火のかけらのごとく、潔く命の炎を落下させてみたい
『落下』
先生 「この間、皆に『未来について』という作文の宿題を出しましたね
その中で、皆にも聞いて貰いたい作品を先生が選びました
じゃあ、尾崎君、君の作品を皆に読んで聞かせてあげて下さい」
尾崎 「えっ?僕の? あ、はい」
「僕のおばちゃんは認知症という病気です
僕がお見舞いに行っても、僕のことが誰だか分かりません
僕が小さい頃は、おばちゃんが沢山遊んでくれました 沢山お出かけもしました
僕が小さい頃の写真を見せると、「これはね、私の孫なのよ 和樹っていうの とても可愛い子なのよ」と僕に説明してくれます
でも、僕が和樹だとは分かりません
僕は将来お医者さんになって、認知症の薬を作ります
だから未来に行って、僕の作った認知症の薬を持って帰っておばちゃんに飲んでもらいます
そして、元気なった未来のおばちゃんにまた会いに行きます」
先生 「はい、ありがとう!
大好きなおばちゃんを想う尾崎くんの優しさが沢山詰まった良い作品でしたね
尾崎くんの願いが叶う未来が来ることを先生も楽しみにしていますよ」
『未来』
本を選ぼうとする時、それが本屋であってもネット上であっても
「私を読んで」
と、アピールしてくる
それが作者によるものであったり、題名であったり、背表紙の寸評や表紙のデサインであったりとアピールポイントはその時によって違う
どれどれ、今回はこれかと選び上げ、実際に読み進めるかは初めの1ページで決める
「これだ!」と実際に決まる本は、読み初めて早ければものの数行で「読んでいる」ことを忘れてしまう
小説であれば、目の前には情景が広がり始める
登場人物のイメージもムクムクと湧き始め、すでに私がその登場人物を動かし始めてしまう
だいたい1ページ目でここまで没入出来れば、あとは私が我に帰るまでその本の力が私をどんどん中へ中へと誘ってくれる
反対に、1ページ読んでも周りの音が気になったり、一向にイメージが湧いて来ないものは、そこで諦める
今は「その本の時」ではないからだ
でも、その本が1年後にピタッと決まることもある
まさに出会いのタイミングなのだ
だから、○○という本が好き!というよりは、読みたいと思った時に「読んで」とアピールしてくる本が、その時夢中にさせてくれる本、好きになる本になることが多い
人も本も、タイミングが大事
『好きな本』