A 「お前さぁ、愛があれば何でもできるタイプ?」
B 「何でも、は無理だろ」
A 「だよな。でもさ、すっごく好きな女に『私のこと好きでしょ?だったら言うこと何でも聞いてくれるでしょ?』とか言われたらどうする?」
B 「何でも、によるけどさぁ
そもそも俺はそんな事言う女を好きにならないよ」
A 「お前はクールだから、そうかもな」
B 「でもさ、愛のためなら何でもできる、とは言えないけど、到底出来ないと思ってたことが、結果的に愛があるから出来ちゃった!ということはあるかもな」
A 「ほぉ~」
『愛があれば、なんでもできる?』
「あなたの人生の中の後悔は何ですか?」
あまりにも有り過ぎて答えられない
むしろ、後悔しなかったことの方が少ない
100%力を出し切ったと思う時ほど、上手くいったと感じる時ほど
「もっと、上手くやれたはず…」
と思ってしまう
だから、『後悔』とは
より良く生きるために必要な、起爆剤のようなものだと考えるようにしている
後悔しないように、なんていうのはもはや無理
どれだけ力を尽くしても付いて回るのが『後悔』なのだ
だからせめてその後悔の思いを少しでも小さくするために、私はいつもこう思うようにして自分を納得させている
「これが、今の私がやれる精一杯 これが最善の選択であった
やれることはやったのだ」
『後悔』
小さい頃から頑張ることが好きだった
頑張っている自分が好きだった
頑張れば頑張っただけ、結果がついてきた
親も私が頑張る子だと思っていた
頑張って欲しいと願っていた
頑張っただけ上を目指せる子だと信じていた
大人になってもひたすら頑張った
頑張れない自分が嫌だった
ところが
いつからか、頑張っても頑張っただけの成果が出ないようになっていた
頑張りたくても頑張れない日が続くようになった
頑張れない自分は、自分でなかった
頑張れない自分は、もう必要なかった
ある日突然、私は壊れた
長い月日が流れた
時が私を癒してくれた
私の中に心地よい風が通るようになった
そして、
私は今心を解き放ち
風に身を任せて生きている
『風に身をまかせ』
「マジ、やべぇ 腹減った」
ここのところまともに食事にありつけていない
バイトも掛け持ちでやっているが、あちこちに返済すると手元には僅かしか残らない
家賃は当然払えず、アパートはとっくの昔に引き払った
友達の家を転々とし続けてきたが、最近は露骨に嫌な顔をされる
ただ風呂、ただメシなんだから、そりゃ当然だ
食事を抜いてでもスマホは何とか使い続けたかったが、それももう限界だった
何とか命を繋がなくてはと、無料で利用出来るパソコン目当てに今日は図書館に来ている
効率良くお金になる仕事…
「こんな俺でも流石に魂は売れないもんなぁ…」
と、閲覧を進めると
『あなたの時間と好奇心が役に立ちます』
『是非お力をお貸しください』
という見出しに目が留まった
時間が…という文句は良く見るが、そこに好奇心とあるところに、好奇心が湧いた
詳しく読んでみると、要は「記憶を売る」のだそうだ
まったく意味不明だったが、拘束時間は約半日
報酬は50万円とある
「これ、メチャクチャやばいヤツか」
と諦めかけたが、主催者を見ると
「未來健康研究所」とあり、場所は某有名国立大付属の病院となっている
「あぁ、治験かぁ」
治験なら学生時代に1度経験があった
貧乏学生だったから背に腹はかえられぬと参加したのだ
「試しに話だけでも聞いてみるか…」
掲載されていた住所は、その大学病院の敷地内にある離れにあり、古びたレンガ造りの建物はおよそ未來のことを研究している所には見えなかったが、半信半疑で中へ入ると一転そこは別世界だった
まるで宇宙人でもいるのでは?と思うほどありとあらゆる最新の医療器具が集結しているようで、その真ん中にはテレビで観たことのある手術用巨大ロボットが鎮座していた
「外の造りはカモフラージュだったのか!」と
思わず呟いた
受付には感じの良い女性が座っており、安堵した
ロボットが出てきたら、帰ろうかと思ったかも知れない
しかし、やはりそこは研究所
極めて機械的に説明が済み、まだ事情が良く飲み込めていない頭に質問が求められた
説明はだいたいこんな感じだ
「ここは人の記憶に関する脳の研究をするところであり、新薬の開発を目指していて
今開発中の薬に『記憶を消す』作用があるかどうかを試している」らしい
「その薬を服用して8時間後に脳にある刺激を与えて記憶の作用を検査する」というのだ
痛くも痒くもなく、ただ薬を飲み、ただ寝ているだけ
もし、成功すれば(記憶が消えれば)報酬は50万円、失敗してもお車代と食費が出るらしい
『記憶が消える』のは恐ろしいが、せいぜい数年分くらいらしいし、どうせ覚えておきたい楽しい記憶なんて最近ひとつも無かったから、むしろ消したいくらいだった
ダメでも食事にはありつける
正直、物事を深く考える集中力もエネルギーも俺には残っていなかった
迷うという思考も働かなかった
とにかくまともな食事がしたかった
すでに軽く震え始めていた指でペンをつまみ、どうにかサインした
渡された薬は、見た目普通のカプセルが数種類
それから軽い栄養剤と良く眠れる薬の入った点滴が腕に刺された
目が覚めると、そこは見たこともない病院の一室のようだった
分かっているのは空腹なことだけ
ぼんやりした頭で辺りを見回していると、白衣を着た男が部屋に入って来て聞いた
「気分はいかがですか?ここがどこだか分かりますか?
何故ここにいるか、分かりますか?」
はっ?俺は事故にでも遭ったのか?
その男も初めて会うし、こんな機械ばかりの部屋も知らない
「長い時間お疲れ様でした
大変参考になりました
御協力ありがとうございました
これはお約束の報酬です」
と、少し厚みのある封筒を渡された
一体何が何だか…
説明も無しかよ
ここはどこだよ?俺は何してんだよ?
『失われた時間』
子供は、特に幼い時期の子供は見たまま物事を見る
それが大人になるに連れ、見たいように物事を見るようになる
そこには見栄やら、意地やら、虚飾やら様々なフィルターがかかり、色の付いた心のレンズなどを通して見るようになり、自分に都合良く見ているにもかかわらず次第にその錯覚さえわからなくなり、本当にそう見えているかのように思い込んでしまう
子供の言うことにドキッ!とするのがその証拠だ
子供は見たままを言葉にするから、その本質をズバッと突かれて、ハッ!とするのだ
今更子供の頃に戻りたいとは思わないが、
せめて感性は子供のままでいられたら、忖度せずにいられたら、
それはある意味残酷な世界ではあるけれど、
ありのままの自分を受け入れてもっと楽に生きていかれるような気がする
子供のままの感性でいられたら、
自分の愚かさも素直に受け入れられるのだろうに
少なくとも今よりは…
『子供のままで』