耳を澄ますと
世界中の戦下で啜り泣く子供たちの声が聞こえる
耳を澄ますと
世界中で住む場所を追われた動物たちの苦しむ声が聞こえる
耳を澄ますと
環境の悪化に苦しむ地球の呻き声が聞こえる
それでも…
どんなに耳を澄ましても
あなたの声は聞こえてこない
私は貴方の本当のこころの声を聞いてみたい
『耳を澄ますと』
今や地球の裏側や宇宙とも簡単に連絡が取り合える時代…
「ねぇ、今年は晴れるかしらね」
「どうかな… 去年は確か雲が多くて星は見えなかったはずだよ」
「そうだったわね
多くの人が晴れるように祈ってくれていた
のよね
この日を逃したら、また会えるのは一年先になってしまうから気の毒がってくれているのよね」
「今は我々だって、こうしてLINEを送りあったりビデオ通話をしたりしてるのにね」
「でも、そんな事分かってしまったら夢を壊してしまうわ
だから、それは永遠に二人だけの秘密にして
おきましょうね、彦星」
「そうだね、織姫」
今年の七夕は晴れますように
『二人だけの秘密』
人は、「こうして欲しい…」と心の中でおもっていることを、無意識のうちに相手にしているらしい
誰かから電話が欲しい、と思っている時は無性に電話をかけたくなったり
優しくされたい、と思っている時には、急に誰かに優しくしてみたり
肩でも揉んであげようかしら?と思い立つ時は、本当は自分が揉んで貰いたい時らしい
でもこの言葉だけは、どうも勝手が違うようで
「優しくしないで…」
と告げる時、
本当は世界中の誰よりも優しくして欲しい、と心は声を上げている…
そう思う
*タイトル 「優しくしないで」
人生は良くキャンバスに例えられる
「人それぞれに将来をを思い描きながら生きていく」ことからなのだろう
私自身、人生の折り返し地点を過ぎ、実に様々な画をそこに描いてきたように思う
若い頃にはその色が相応しいかも分からずに、ただ見栄えの良さや、トレンドや勢いに任せて好き勝手に夢を散りばめた画ばかりを塗り重ねていた
試行錯誤を繰り返したかなり厚みの増したそのキャンバス地に、ナイフを当てて削ってみれば、きっとこれまで塗り重ねられてきた思い出の数々が色鮮やかに(カラフルに)浮き上がって来るに違いない
しかし、これから私が描いていくだろう画には、それまでのような色彩はもはや使われないかも知れない
以前の様に手当たり次第に描いたり、新しい色を次から次へと試したりする時間もエネルギーももうかつてほど残されてはいないし、その必要も無いのだ
これまで塗り重ねてきた経験が、自分に相応しい色や描き方をすでに教えてくれている
あとは、これからの時間で今までで一番の傑作を仕上げていくのだろう
その完成がどのくらい先になるかは分からないが、
願わくは、その画が「しあわせ」という色でカラフルに彩られて描かれていて欲しいと思う
フィロ
「あなたを楽園にお連れします」
というメッセージが目に留まり、早速応募してみた
ほどなく、当選通知が届いた
封筒の中には、ホテルの名が書かれた紙切れと、その部屋のカードキーが同封されていた
指定されたそのホテルは無人で、すべての説明はスマホに順次送られてくる
単なる好奇心で応募したものの、余計な思考を挟ませる隙を与えないスピード感ですべてが進み、1体これは何?と疑問を持つことすら忘れていた
不思議なほどスムーズに、夢でも見ているかの様にまるで現実感は無かったが、すでに体は私の意思を全く反映させず、ただスマホに送られてくる案内通りに動き、気がつくと指定の部屋に着いていた
もちろんここに至るまで誰にも出くわしていないことにも、ようやくその時気づいた
部屋はこれと言った特色のない普通の部屋だったが、ベッドはとても寝心地が良さそうだった
ただ、テレビや鏡が無いことは少し気になった
次の指示がスマホに届いた
「これから1週間ここでお好きな様にお過ごしください
必要なものがあれば、どんなものでもお届け致します
その間の費用は一切かかりません
但し、途中でこの部屋から出た場合はすべての費用が発生します
注) 人、テレビ、鏡 はお届け出来ません
尚、これよりスマホの使用も出来なくなります
指定の箱に入れて、ドアの前に置いてください
お帰りの際にお返し致します
これより指示やご要望はお部屋の電話をお使いください 」
とあった
とんでもないことに巻き込まれたかも知れない!と、一瞬血の気がひいたが、ここまで来たら最後まで楽園とやらを楽しませてもらおうじゃないの、と半ば諦めの気持ちでベッドに腰を下ろした
でも、こんなところに閉じ込められることのどこが楽園なのか…
すると、ベッドサイドのテーブルにそっと置かれた封筒が目に入った
「ようこそ楽園へ
貴方の毎日は幸せですか?
あなたの心に影を落とす、悲しみや、焦りや、憎しみや、ひがみや、劣等感はどこから来るのでしょう…
それは、他者との比較から生まれるのです
もし、比べるものが無ければ、自分が優れているのか、劣っているのか、上なのか、下なのか分からないし、考える意味すら無くなるのです
ですから、ここで過ごす時間は誰とも接することなく、目からも耳からも情報を入れることなく、自分の姿さえ見ずに過ごしていただくのです
ようこそ、幸せの時間、楽園へ」
フィロ