ふるきよき

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2/22/2024, 1:52:59 AM

女のくせに借金ありやがるなどおかしいと。まるで男なら許されるような口の聞き方してくんなっての。

借金は1円たりともおれのモンじゃないんだ。
出涸らしの弟となすりつけやがった友人のモンでさ。
まあおれもバカだったのは認めるけど、嫁入り前に分かって全部おじゃんってわけ。ぐえー。

女なら身体使って稼げよなどとお達し申し受けるが、おれはそんときちょーど栄養失調で歯が抜けてたから見映えが尚悪くてさ。お宅らのチン坊に引っ掛かんないすよ、なんて売り文句じゃ誰も買ってくれないわけ。

そんで飯炊やらウエイトレスやら警備員やらやって。やっと全部返しきったと思ったら、まーた夜逃げくらったりな笑

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房子ばあさんとこに流れ着いたのは、ブオンナでも働ける店があると噂で聞いてさ、そいだらものすごい白髪のくせ毛の騒がしいババァがカウンターなかにいて。
おれギョッとしたもんね。鬼婆だ。ってほんとに思ったモン。

鬼婆はナニも言わずにおれを席に招くと干からびたきゅうりとたくあんを出してきて、それっきりずうっと雑誌を読み耽ってた。

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アセチレンランプがすきまっかぜで揺られて視界がぼやけきってやがる。いいねー。

ゼロからのスタート、はじめてみてもいいかもしんねえな。


0から

2/20/2024, 11:27:03 AM

「いってえな、ババアどこ見てンだ」

うっさいね、そっちからぶつかってきといて。
しかし随分とまぁ明るい不良だねぇ。
あたしン頃の不良といえばたいてい孤児かまともに飯の食わせてもらえねえ拗ねたガキどもだってのに、ブランドモンの派手な外套が衣擦れてネオンが反射してらぁ。

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貧乏なんてのはほんとはエンタメでよ、こんな日本で餓死なんかするわきゃないのにさ、ウチらの間ではあったんだ。いや、食おうとすればいっくらでも食えたけど、なんか国には頼りたくなかったんかもね。

つるんでたゆみこも痩せっぽちでさ、それで大学生にもらったシンナー吸って死んじまって、めっきりあたしシラけたんだよね。
そっからキャバレーだのショーパブだの回ったけど、他の女に紛れンのが合わなくて娼婦に落ち着いたってわけ。
ジャパユキの嬢ちゃんたちがうまく金持ちとっ捕まえるからさ、あたいらもカタコト真似したね。

そんで気付いたら毎日毎日オェーって吐くようになって、なんだー? と思ったら出来てやがったんよ。

大山房子さん、おめでとうございます。
コレ、母子手帳ネ。

生もうかな、なんて簡単に考えた時もあったよね。
手帳に日記みたいなの書いちゃったりして。好きなアイドルの名前つけたりしちゃってサ。

けどさぁ。人の道には戻れるつもりもなかったし、ひとりで育てる自信もなかった。

結局、降ろしちゃった。

いらなくなった母子手帳なんべんも見返してさ、ヤケになって飲みに出たっけね。
したらなんだ、欲しくても生まれない人もいるのよってオカマにドヤされて気分悪いのなんのって。
てめえらの気持ちなんか知ったこっちゃねえやって思うし、てめえらの粉吹いてるイカれツラでなに時世を語ってンだって、ムカムカ腹が立ってきちまって。ぶん殴って唾吐いてやった。

ざまあみろ人間まがいのクセに!

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あの日は落ち着かなかったからとりあえず誰かといたかったんだよね。
最初に知らせたのがヤツだったんだけどさ、なんか、そいつ、泣いてたなァ。
なんか悪いことしちゃったかなーって、さすがに思って。

まあ他に行くあてもなかったしさ。

そういうわけで、いま、ここにいるの。



同情

2/20/2024, 6:26:31 AM

胸元の大きく開いたすべらかなセミロングワンピース姿でウキウキと路地を歩いて行く遊女と、それを値踏みしに近寄る男たちの遣り取りを身を低くして通り過ぎ、途中のホテル街は急足で。
華やいだ街の末、錆びこんだトタンのほったて小屋にその店はある。

ちょっとサボれば常連はおろか誰も来てくれそうにないものだから、この店では酒もそこらの半分の価格で貧乏客を繋ぎ止めている。

先客はひとり。
何年もクリーニングに出していないと思しき埃と脂のきつい臭いがするジャケットの島田さん。
居場所の無さそうな醜女のほうが雑にできて嬉しいとのことで、島田さんは昔話を据えて飲みに来る。

店を切り盛りする堕ろしすぎてイカれた房子ばあさんの話はそこそこ評判で、客は時たま精子に遡って膣の中で旅をする。
自称チィママで居着いたノリちゃんは去年より倍ほど借金がふくれてるけれどバカ明るい。

高い値のつく遊女たちを華とすれば、この店は他にやりようのないカラッカラの枯葉だが、泣き顔をそっと覆い隠すくらいはしてやれるから、銀杏臭さがとれないけどね。

ついに房子ばあさんの持病がだいぶ深刻と聞いてやってきたのに。
ノリちゃんに店を任せるのも酷だからと月末でラスト営業になるのを誰もが惜しむわけでもなく。

先客はひとり。菓子折りひとつ持ってこない。


お題:枯葉

2/19/2024, 1:52:23 AM

卑怯だったかね、見窄らしかったかね。
いい思いさしてやれなくてごめんね。
店の写真と違ったからね。
実物見せたら逃げられる顔だけどさ、少しは悪いと思ってンだよ。
でもそんな露骨に嫌な顔されると流石に傷ついちゃうんだもんねー。へへーんだ。
脱いで見なきゃどんなか分からない男のソレと同じにしてもらえないかね。ムリ? あ、そう。

とりあえず電気消しておくれよ。
見合うだけの値打ちはなくても使い道はあるからよ。

アンタも仕事終わりで疲れてたんだろうね。
23時半に部屋ン中でワイシャツ着てんだもん、ある程度察するよ。帰りの電車の中で買ったんだろ。
それなのになんというか、なんというかだな、ソソる女じゃなくてごめんね。
明日は男内でヒデェ女に当たったって嗤ってくれたらいいよ。
最近は可愛い子ばっかなのにどうしてあたしみたいな醜い女がいやんがだって不思議がってくれたらそれでいいよ。
使えりゃそれでいいって男もいるんだよ。
許しておくれよ。

今日は、ごめんね。とりあえずサービスすっからよ。
明日も、頑張って、笑顔で。


お題:今日はさようなら

2/18/2024, 1:41:35 AM

一番好きだった頃の私といえば、いつの頃だったかしらね。
若い頃だったか、周りに人がいた頃だったか、
それともうまく働けて強気な頃だったか。

こういうことを思うのは、なんだか惨めになって、過去の自分にすがりたい今日この頃なのね。

そういえば好きだった頃を辿ると、その頃着ていた服のことを事細かまに思い出すのだから不思議ね。
今はずいぶん年老いて手元には残っていないけれど、派手な服を着ていたかしらね。
緑と黄色のよくわからない模様があって……

これからの私を好きになることはないのかな、そう思った頃。

一番好きな服を着て、一番好きな私でいよう。

ふと、そんな一節が。


お題:お気に入り

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