ふるきよき

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胸元の大きく開いたすべらかなセミロングワンピース姿でウキウキと路地を歩いて行く遊女と、それを値踏みしに近寄る男たちの遣り取りを身を低くして通り過ぎ、途中のホテル街は急足で。
華やいだ街の末、錆びこんだトタンのほったて小屋にその店はある。

ちょっとサボれば常連はおろか誰も来てくれそうにないものだから、この店では酒もそこらの半分の価格で貧乏客を繋ぎ止めている。

先客はひとり。
何年もクリーニングに出していないと思しき埃と脂のきつい臭いがするジャケットの島田さん。
居場所の無さそうな醜女のほうが雑にできて嬉しいとのことで、島田さんは昔話を据えて飲みに来る。

店を切り盛りする堕ろしすぎてイカれた房子ばあさんの話はそこそこ評判で、客は時たま精子に遡って膣の中で旅をする。
自称チィママで居着いたノリちゃんは去年より倍ほど借金がふくれてるけれどバカ明るい。

高い値のつく遊女たちを華とすれば、この店は他にやりようのないカラッカラの枯葉だが、泣き顔をそっと覆い隠すくらいはしてやれるから、銀杏臭さがとれないけどね。

ついに房子ばあさんの持病がだいぶ深刻と聞いてやってきたのに。
ノリちゃんに店を任せるのも酷だからと月末でラスト営業になるのを誰もが惜しむわけでもなく。

先客はひとり。菓子折りひとつ持ってこない。


お題:枯葉

2/20/2024, 6:26:31 AM